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第5回 人生を通して磨くソーシャルスキル

Let's start ソーシャルスキル

2015年1月30日 更新

荒畑 美貴子

基本的な考え方から具体的な指導方法まで、ソーシャルスキル教育に関することを、荒畑美貴子先生(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)がご紹介します。

これまで、子どもたちのソーシャルスキルを高めることによって、人との関わりをよくするだけではなく、心を耕すことができるということをお伝えしてきました。最終回は、ソーシャルスキルを指導することについてポイントをまとめたいと思います。

回答:荒畑 美貴子(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)

質問1 ソーシャルスキルを指導するときの心構えを教えてください。

質問2 ソーシャルスキルが高まれば、人間関係に悩むことはなくなるのでしょうか。

荒畑先生から教師のみなさんへのメッセージ

質問1 ソーシャルスキルを指導するときの心構えを教えてください。

ソーシャルスキルは、マニュアルのように型通りにやったとしても、必ずしもうまくいくとは限りません。では、学ぶ意味がないのかというと、そうではありません。「第1回」でも述べたとおり、型を学ぶことによって応用できるようになることに意味があるからです。誰一人として同じ個性ではありません。同じ相手に対しても時や場所が異なれば違った対応をする必要があります。ですから、ソーシャルスキルは、一朝一夕に身につくものではないのです。

大人であっても「もう少し言い方を考えればよかった」とか、「場の空気に沿わない表現をしてしまった」とか、恥ずかしくなるような体験をすることがあると思います。そういう経験を子どもたちに、語りましょう。人生を通して学び続けるものだと伝えていくのは、とても有意義なことだと思います。失敗してもいい、でもまたやってみる。そのうちにうまくなってくる。大人も同じように苦労しながら練習をして身につけていくのだと知れば、子どもたちにも勇気を与えることができます。

また、「呼吸を合わせる」ということを心がけるのも大切です。相手との呼吸が合っていれば、自分の思いを伝えやすくなります。呼吸を合わせるというのは、相手の状況に合わせ、反応を見ながら表現をしていくということです。私たち教師は心を開き、子どもたちと呼吸を合わせることを心がけて指導するのが大切です。そうすることによって、相手と関わるときのリズムを、子どもたちに伝えていくことができるのです。

また、子どもたちと学び合うという姿勢で授業に臨んだほうがいいでしょう。完璧な形はないのですから、子どもたちの表現のほうがふさわしいこともあるのです。それに気づき、褒めるようにしましょう。

「それでは大人として形無しだ」と思う必要はありません。むしろ、子どものよさに気づかないほうが問題です。大人も、常にソーシャルスキルを磨こうという意識をもっていたいと思います。

質問2 ソーシャルスキルが高まれば、人間関係に悩むことはなくなるのでしょうか。

残念ながら、そうとはいえません。多くの人たちが人間関係で悩んでいることを考えれば、人と人との関係を円滑に保つために、ソーシャルスキルが助けにはなったとしても、万能薬だとはいえないと思います。

スキルというのはコツや技能であって、むしろ表現する気持ちにこそ人間関係をよくする鍵はあるのではないでしょうか。ちょっと不器用な表現であっても、愛情を込めているときには、思いが伝わるからです。逆に、愛情を注ぐような仕草をしたとしても、感情が伴っていなければ見透かされてしまうのはいうまでもありません。

荒畑先生から教師のみなさんへのメッセージ

学校教育によって「何を学び、何を覚えたか」ではなく、「どのように学び、何を身につけたか」が、大きく問われる時代になりました。そして、学ぶことによって、人生を豊かにすることができるかどうかにも、ますます注目が集まってくると思います。

私たちが目ざすことは、全ての子どもたちが、自分の人生を生き抜くための糧を培うことです。そのために、道徳の授業を行い、ソーシャルスキルを高めるための教育を行っていくのです。
しかし、何もかもを一人の教師が背負うことはできません。学校においては、多くの教師が助け合い知恵を出し合っていく必要があります。また、学校だけではなく、家庭も地域も協力して子どもを育てていかなければなりません。

人と関わることは、純粋に楽しいことです。関わるからこそ、豊かな人生になるのです。
「愛と共感をもって思いやり深く、勇気をもって伝える」
この方向性を忘れずに、自分の表現を磨いていってほしいと思っています。そして、教師が身につけた知識とスキルを、多くの子どもたちに伝えていってほしいと願っています。


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