メニュー

第1回 「いい姿勢」を意識しよう

姿勢の悪い子どもが増えている?

室伏 先生,お久しぶりです。

湯浅 室伏君とは,お父さん(ハンマー投げ前日本記録保持者,中京大学名誉教授の室伏重信氏)を通じて幼少期からお付き合いをさせていただいていますね。

室伏 ええ。先生と対談なんてちょっと照れますね。

湯浅 今日は,子どもたちの体づくりや姿勢について,トップアスリートの立場から話を聞かせてほしいと思って,お時間をいただきました。

室伏 子どもたちの体づくりは僕も関心の高いテーマです。今日はよろしくお願いします。

湯浅 さっそくですが,最近の子どもたちの姿勢を見ていて,室伏君が気になることはありますか? 私は今も月に4~5回,各地の小学校で授業をさせてもらっていますが,体育館に集まった子どもたちの中には「体操座り」ができない子も増えてきているのが気になるんですよ。

室伏 立っているときも姿勢の悪さも目立ちますよね。生活面でのいろいろな環境の変化が影響しているかもしれないですね。

湯浅 きっとそうでしょうね。大学のキャンパスでも学生となかなか目が合わない。みんなスマートフォンを見ながら下を向いて歩いているから。専門の立場から見ると,実は首に大きな負荷がかかっていて,全身の姿勢にも影響しているんだけれど,こういった身体への影響があまり知られていないのは問題だなと感じますね。ここであらためて考えたいのが,「“いい姿勢”とは?」ということ。室伏君が考える“いい姿勢”ってどういうイメージですか?

室伏 立つにしろ座るにしろ,余分な力が入っていなくて,緊張していない,ということですかね。そのほうが,姿勢を長く保持できると思います。

湯浅 同感です。私は,ポイントは二つあると考えています。一つは,体が楽であること。「楽な姿勢」というと,背を丸めて脱力している姿勢をイメージしてしまいがちですが,これだと腰に負担がかかって長くは保持できません。本当に長時間キープできるのは,腰の上に胸,首,頭が正しく乗っている姿勢なんですね。もう一つは,素早く動けること。「起立!」と言われたらパッと立てる。次の動作に瞬時に入れる姿勢が,いい姿勢であると思うんです。

室伏 余計な力が入っていると,すぐに動けないですからね。

体にかかる負担をいかに軽くするか

湯浅 多くの大人が勘違いしがちなのは,「背筋をピンと伸ばして」というふうに,見かけを重視してしまう点。これは,文化風習的には正しいかもしれないけれど,体の動きの面では合理的とは言えないんです。

室伏 結果的に,力んだ姿勢を子どもたちに指導していることが多いんですよね。要は,重力の負荷をいかに軽くして形を崩さないか。首や肩といった関節の角度に対する意識が大事な気がします。

湯浅 さすがですね。例えば頭の重さは,子どもも大人も4~5キロもあって,座って本を読んだり,文字を書いたりしているときは,この5キロ近い頭を前に傾けるので,首には20キロ近い負担がかかっています。上半身ごと前傾になれば,今度は腰に負担がかかる。日常の動作は体に負荷をかけるのだと知ることがまず第一歩だと思います。

室伏 子どもたちに意識させる方法として,昔からよく「腹の下に力を入れろ」と言われますよね。あれは理にかなっていると思います。お腹の下にグッと力を入れると,他の部位の力は自然と抜けていくので。

湯浅 私も子どもたちに「お腹をへこませなさい」と教えるんです。とにかく体の中心に意識を向けて,そこだけに力を入れる。すると,子どもたちの背がスッと伸びて見えることがある。腰は体の「要」と書くけれど,まさに姿勢を保持するうえでも重要な部位なんですね。

子ども時代に神経系を刺激する体験を

室伏 小学生の時期,特に8~10歳くらいまでは神経系(脳や脊椎など,運動能力の基礎に関わる)が最も発達する時期だと言われていますよね。この時期には積極的に体を使って,いろんな刺激を受けてさまざまな動きを体験することも,いい姿勢を維持する体づくりには必要ではないでしょうか。

湯浅 室伏君が小学生の頃はどんな遊びをしていましたか?

室伏 ドッジボールをやったり,鬼ごっこをしたり,子どもが好きそうな遊びは一通り楽しんで体を動かしていましたよ。家の近くに山があったので,山遊びや木登りもよくやっていました。そういえば,中学生の頃,先生のテニスラケットを壊しちゃったことがありましたね(笑)。

湯浅 そうそう(笑)! あれはやられたなぁ。あの頃,すでに握力は100キロ超えていたんじゃない(笑)! 室伏君は陸上競技だけをやってきたんじゃなくて,いろんなスポーツを楽しんできた印象がありますね。小学生の頃にやったことで,いいトレーニングになっていたと記憶に残っている体験はありますか?

室伏 父が大学で教えていた研究の一環で,僕が通っていた小学校に教えに来たことがあったんです。まだ低学年の頃でしたが,ボールを頭のてっぺんから足の先まで落とさずに転がしていく遊びとか,すごく面白かった記憶があります。やったことない動きにチャレンジするのが楽しくて,「次は何をするんだろう?」とワクワクしていました。

湯浅 まさに神経系を鍛える遊びですね。ドイツのジュニアサッカークラブでも,サッカーボールをあえて蹴らずに手でパスし合う遊びを教えると聞いたことがあります。とかく,日本では単種目だけに集中させる雰囲気がありますが,多種目のスポーツ体験を通じていろんな刺激を体に与えたほうがいいのではないかと私は思います。子ども時代にしっかり神経系を刺激しておくと,大人になってからでも動きに生かしやすくなると言われていますし。

室伏 今の子どもたちは,外で遊べる場所が限られてしまっているのは残念ですね。その分,大人が意識して,いろんな動きを体験できる機会を提供しなければいけないと思います。動きは体験しないと習得できない。姿勢もきっと同じですよね。

湯浅 そう。姿勢は“習慣”で身につくものだから,日ごろの意識がとても大事。家庭はもちろん,子どもたちが長く過ごす学校生活の中でも,できることを少しずつ取り入れていってほしいと思います。

Photo: 長岡博史 Text: 宮本恵理子