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学習者用デジタル教科書を使ってみてわかったこと、変わったこと 【第3回】

学習者用デジタル教科書を使ってみて

2021年4月16日 更新

鈴木 秀樹・谷川 航 鈴木 秀樹:東京学芸大学附属小金井小学校教諭・東京学芸大学非常勤講師。谷川 航:東京都小平市立小平第三小学校主任教諭。

令和3年度から、文部科学省の学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業において、学習者用デジタル教科書の活用が、全国の半数近くの学校で始まります。そこで、以前から国語科の学習者用デジタル教科書を継続的に活用しているお二人に話を伺いました。

鈴木 秀樹

鈴木 秀樹

東京学芸大学附属小金井小学校教諭・東京学芸大学非常勤講師。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了。マイクロソフト認定教育イノベーター。トランペット、CAI、村井実、I・イリイチ、サウンド・エデュケーション、対話型鑑賞、学級内SNS等々、これまでに関心を持って行ってきた全ての経験を、勤務校に着任してからの「ICT×インクルーシブ教育」に繋げて研究と実践に取り組んでいる。

谷川 航

谷川 航

東京都小平市立小平第三小学校主任教諭。東京学芸大学教職大学院教育実践専門職高度化専攻教科領域プログラム(情報)修了。初任校の東京都立北養護学校(現 東京都立北特別支援学校)病院訪問学級にて難病で治療中の子どもたちと情報機器を活用しながらベッドサイド学習を行なってきた経験が現在の研究に結びついている。漫画が趣味。蔵書が部屋に置ききれなくなり、デジタル教科書の影響もあって最近はもっぱら電子書籍に。

3.授業スタイルの変化・子どもたちの変化

子どもたちの変化を教えてください。使い続けて変わってきたというのがありましたか?
 

鈴木 授業を子どもたちに任せる時間が圧倒的に増えましたね。前の時間の振り返りをやって、今日の課題はこれだよね、と言うことを確認したら、あとは子どもたちがマイ黒板でまとめたり、教科書に書き込みをしたりするじゃないですか。そのあとは、Teams(※)で共有してコメントつけ合うなどして、最後振り返りましょう、というのが定番化しています。そうすると、わたしは、お茶を飲めるくらい暇でした。グルグルは回っていましたけれど、そこで声でもかけようものなら、邪魔するな!くらいの勢いで反発されたので。子どもたちがお互いに関わり合って、学び合ってしまう。そこで上がってきた大事なところを授業後に拾って、次の授業までに整理して見せてあげるというところが自分の役目だったかな、という感じで、かなり、授業のやり方というか教師の動きは変わりましたね。子どもたちの側に立ってみれば、「国語の時間って、なんとなく先生の話を聞いて必死に板書を写す」みたいな時間だったのだろうなと思うわけですが、最初にちょっと先生やみんなと話をしたら、後は自分で集中して取り組む。そういう時間に変わったのではないかと思いますね。

  ※TeamsはMicrosoftのコミュニケーションツール。チャット機能で会議のような話し合いができる。
 Microsoft、Microsoft Teamsは米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。

 

それは、子どもたちが個別に活動することが、単純かつ、わかりやすくて、活動していけばゴールにたどり着くイメージでしょうか?
 

鈴木 解決したい課題を自分たちで見つけられるわけですよね。だからやりたいとなって、集中して取り組む。それで、一通りまとまると、これで合っているのかな?みんなどう思う?みたいに共有したくなってくる。という流れですよね。

谷川 私も授業スタイルは大きく変化しました。私が大学生の頃、先生はあまりしゃべらず、子どもたちの話し合いで授業が練り上がっていくような授業をたくさん見てきました。そんな先生になりたいと思い、自分が実際に先生になってみると、当然そういう授業は全然できなくて、すぐにあきらめてしまっていました。それがやっとデジタル教科書という下駄をはかせてもらって、自分の理想に近い授業ができるようになった。去年、教職大学院で自分の授業スタイルがどう変わったのかを分析してみたんですが、デジタル教科書を使い始めは、私が全体の1/3、15分くらいの時間を話をしてました。それがデジタル教科書を使い続けるうちに教師の出が5分くらいになって。自分が先生になってそういう授業をやりたいっていう思いは初めからあったのですが、でも、できなかった。子どもたちの間で話が続かないんです。話すことが無いから。授業の土台にのっていない子どももいた。ところが、デジタル教科書に線を引いて書き込んで、みんなで話し合うようにしたら、子どもたちの話し合いがとまらない。凄く素敵な映画を見たあとの喫茶店みたいな感じ。あのワクワクする感じ。あの感じがやっと国語の授業でできるようになった。
 教科書に掲載されている素敵な作品だから、ちゃんと読むことができれば、話すことはきっとあるんです。今2年生で使ってますけど、休み時間でも「『お手紙』の音読を録音してもいい?」、とか「国語もっとやりたい」とか、子どもたちは言っています。来年、GIGAスクール構想で端末などが色々入ってきて、子どもたちは使い始めは興奮するし、授業に集中できなくてやっぱダメじゃないかっていう先生もいると思うんですよね。そこはちょっと我慢して。たくさん端末に触れて、操作とかも友達同士で教え合いながら使っていると、だんだん落ち着いて使えるようになる。そこからが本領発揮かなと思っています。

国語という授業に対する子どもたちの意識の変化ってありますか?
 

谷川 国語は、先生の話を聞いて、答えを書くものじゃないってこと。自分たちで答えを見つけていこう、それが楽しいんだっていう感じになりました。根拠がしっかりしてれば、それでよいんだな。それが分かってるっていうことかな、と思うようになっているのではないでしょうか。

 

根拠がしっかりしていればよいというのは、いつ気づくのですか?
 

谷川 まったく相反する意見でも、理由を「本文のここにこう書いてあるからこう読み取る」というところがあればいい。「あーなるほどね」っていう声があがれば。「あなたはこう読み取るんだな、でもわたしは」っていうところを、みんなが認められるようになるときです。

 

それは紙の教科書とノートではできないのでしょうか?
 

谷川 私自身は、なかなか頑張ってもそうはできなかった。でも、デジタル教科書の下駄をはいて、それを多少なりともできるようになったような気がします。

 

子どもたちは力が着いたわけですよね。先生から見て。あきらかに次元変わった、というエピソードありますか。
 

谷川 デジタル教科書を使っていた子どもたちが、中学生になって、作文で大きな賞をとったり、進学校に多くの子が受かったりするような子が出てきたことを聞いて驚いています。「なぜか、国語だけいいんですよね、この学年は。」って中学校の先生がおっしゃってました。

 

それは、先生が指導された学年の子たちですか?
 

谷川 はい。その子たちの学年は6年生の4月の時期、とてもしんどかったんです。争いも絶えなかった。国語の授業できちんと話し合えるようになって争いも減りましたよね。例えば、SNSのゴタゴタした争いだったり。SNSって言葉が足りなくてちょっと伝わらなかったりするじゃないですか。そういう争いがすごく減りましたね。それは嬉しかった。中学校で国語だけがいいっていうのはちょっとショックでしたけど。他の教科も芋づる式で上がるような気がするんですけど。

 

デジタル教科書を使うことによって、考えを作りやすくなった。その背景には、書いたり消したり考えを変えても表現する労力が低くてすみます、と。その結果、自分で自分の考えを出す面白さに気づいていったということでしょうか。
 

鈴木 表現する魅力を知りましたね。

谷川 作品の面白さもわかったんじゃないですかね。

鈴木 自分の考えに、それまで持たなかった「こだわり」をもつようになったように思います。国語のマイ黒板でスクリーンショットをTeamsにアップロードして共有すると、そのコメント欄で炎上とかするんですよ。国語の読解をネタに炎上するってすごいなって思って、見ていました。

谷川 熱くなるのがすごい。

鈴木 熱くなっちゃうんですよね。

谷川 今まで黙ってた層の子たちが輝けるようになったことですね。存在感が出てきた。A君は何考えてるんだろうな、って他の子が気になるようになってきた。デジタル教科書が無かったら、黙ったままで卒業してった子たちもいっぱいいたんじゃないかな、って思います。卒業文集に「書くこと」という題名の作文を書く子がいました。「私にとって書くこと自体が私なんだ」みたいな内容でしたね。これまで、そういうこともなかったな。

 

それメタ認知ですよね。書くことによって、自分を形づけてるような意識が芽生えている。
 

鈴木 私のクラスでも卒業文集でデジタル教科書のことを書いた子がいましたね。使うようになってから国語が楽しくなった、面白くなったみたいに書いていましたね。

谷川 いままで、私のもったクラスで子どもたちの間に国語が話題になることは無かった。国語には、ここまで人気教科になれる要素があったんだなって気づかされました。

鈴木 最初にデジタル教科書のことを話したきっかけになったある子どもは、1・2年で担任していたのですが、それが5年で再び担任することになりました。3・4年の時の担任が、がっつりと板書する授業をする人だったのですが、5年生になって、デジタル教科書を使うようになって、本当に意欲的になりました。彼が一番いろいろな使い方をしているなって思います。画面もカスタマイズするし、読み方も音声読み上げでずっと聞くのかなと思ったら、意外にリフロー(※)で自分で読みやすくしたほうが好きとか、いろいろなことを試しながら自分に合ったやり方を見付けようとしている。マイ黒板もすごく一生懸命やるし、そのために一生懸命読み直す。「変わったな、この子」ってすごく思いますね。

  ※デジタル教科書の機能。文字の大きさや書体、画面色、ふりがなの色を変更することができる。

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