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「語りかける」英語教育 第2回

「語りかける」英語教育

2017年4月21日 更新

達川 奎三 広島大学教授

明日の授業のスパイスとして、英語を学ぶ楽しさを「語る」「語りかける」視点から解き明かします。

達川奎三(たつかわ・けいそう)

1958年広島県生まれ。広島大学外国語教育研究センター教授。兵庫教育大学大学院修了(学校教育学修士)の後、広島大学大学院教育学研究科修了(教育学博士)。中・高等学校の英語教員研修などに数多く携わっている。著書に『COMMUNICATION STRATEGIES FOR INDEPENDENT ENGLISH USERS』(英宝社/編著)、『Global Issues Towards Peace』(南雲堂/編著)など。光村図書『COLUMBUS 21 ENGLISH COURSE』編集委員。

第2回 「意味のつながり」を心がける

生徒は英語を一生懸命に勉強し、自分の考えや思いを英語で自由に表現したいと望んでいます。また、語彙・文法・語法に習熟してくると、一文だけの表出では満足できなくなります。ただ、その際に留意したいのが、「意味のつながり(一貫性)」という観点です。

ところで「意味のつながり(一貫性)」とはどのようなものでしょうか。
「一貫性」について『ロングマン応用言語学用語辞典』の「coherence(一貫性)」には、

談話(DISCOURSE)の発話(UTTERANCE)の意味、またはテクストの文の意味を結びつける関係。このような結びつきは、話者どうしが共有する知識に基づく…

と説明があります。「話者どうしが共有する知識」とはshared informationと言い換えることができます。話者と聞き手が情報を共有(share)できれば「意味のつながり(一貫性)」を感じ合うことができるのです。

では、中学校英語において、「意味のつながり(一貫性)」がどのような場面で見られるか、実例をもとに考えてみましょう。

中学校では、多くの場合1年生の終わりごろに助動詞canが登場します。これで「自分や周りの人などができる(できない)こと」を多く表現できるようになります。以前、ある中学校で、

can、cannotを使って4文以上の英文を書きましょう。

 

という目標(めあて)を掲げ、canを使って英作文をする授業を見学しました。その授業で、生徒から次のような発表がありました。

【発表A】

I can play the violin.
My father can cook on Sundays.
My mother cannot ride a bicycle.
My sister can drive a car.
 

私はバイオリンを演奏することができます。
私の父は毎週日曜日に料理することができます。
私の母は自転車に乗ることができません。
私の姉は車を運転することができます。

【発表B】

My mother can drive a car.
I cannot drive a car yet.
I can sing songs well.
We can sing together in the car.

私の母は車を運転することができます。
私はまだ車を運転することができません。
私は歌を上手に歌うことができます。
私たちは車の中で一緒に歌うことができます。

AとBのどちらも「can、cannotを使って4文以上の英文を書く」という目標はクリアしています。では、どちらに「意味のつながり(一貫性)」を感じることができるでしょうか。

Aは、家族のそれぞれが「できること、できないこと」を列挙しているという点では内容に統一感はありますが、文の間の意味のつながりが希薄です。それに対し、Bの発表文は、車の運転や車中での行動について、内容につながりと流れがあり、車中での母子の楽しそうな雰囲気が受け手に伝わってきます。Bのように、話者と受け手の脳裏に共通の「場面」を浮かべる(情景をshareする)ことができれば、そこに共有された「意味のつながり(一貫性)」が生まれます。

Aの場合は、話題をもう少し絞り、前後のつながりを考えながら文を並べるように促すことで、「意味のつながり(一貫性)」を作り出すことができるでしょう。

この授業の講評で、「この生徒(B)さんには、とても優れた『言語センス』を感じます」と述べると、授業担当の先生はとても喜んでおられました。ただ単に英文の発話量や正確性を追求するのではなく、まとまりのある情報を発信させることを心がけ、生徒の「言語センス」を育てていきたいものです。

Illustration: 福々 ちえ


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