そがべ先生の国語教室
宗我部 義則
お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭
30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに,明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。
第22回
古典を深める(2)
――「旅に生きる~おくのほそ道~」
2017.04.18
第21回に続いて,「おくのほそ道」の学習をご紹介します。
第21回 古典を深める(1)――「旅に生きる~おくのほそ道~」
「おくのほそ道」を読み,その一部を引用して自分の考えをまとめるという,やや高度な学習のため,私は次のような支援をしました。
内容を耕す支援
「おくのほそ道」は通常,「序章」と「平泉」や「立石寺」などの段を読むだけです。しかし,それでは「ふれる」ことはできても,芭蕉の旅を追体験することは難しいでしょう。かといって「ほそ道」の本文を大量に与えても中学生にはやや手に余ります。そこで,全訳対照スタイルのプリントを用意して,読んでみたい生徒には原文も見られるようにしつつ,現代語訳で読めばよいようにしました。
重ね読みする,森本哲郎さんの「旅を旅する」(『おくのほそ道行』平凡社1984年)は,「彼にとって旅とは詩想を触発するための手段に過ぎなかった。芭蕉は現実の世界を見極めるために旅をしたのではなく,自分の内面を見つめるために,そして詩的なイメージを育てるためにみちのくをさまよったのである。」と指摘し,「そして,これこそが芭蕉のみならず,日本人にとっての理想の旅,旅の手本なのだ。」と論じる評論文です。「遊行柳」「白河の関」「須賀川」では古歌に和して句作する様子が読み取れますので,その様子を照らし合わせて読むことで,「ほそ道」や日本人としての自己を対象化し,自分は「芭蕉の旅」や「自分は旅をどう考えるか」を考え始めるようになると期待したのです。
「古典を引用して書く」という言語活動のための支援
「古典の一節や評論の一部を引用しながら論じる」のは,中学生にはかなり高度な作文力を必要とします。こういうときは,その完成形=モデルを示すのが最も効果的です。そこで,「旅する心とは」(佐佐木幸綱他『芭蕉の言葉―「おくのほそ道」をたどる』淡交社2005年)を用意しました。筆者の佐佐木さんの体験を「おくのほそ道」や「芭蕉の言葉」を引用しながら書いていくエッセイです。
さらに「芭蕉の言葉」をいくつか紹介したのは,「ほそ道」の中から一節を引用するというのは難しくても,「昨日の我に飽くべし」などの一言なら引用が簡単ですよね。旅や生き方に関連しそうな言葉を選んで紹介しました。
さて,生徒たちは,これらの学習を通して思い思いに「自分の旅論」「ほそ道の鑑賞」をしました。
生徒作品の一例を示します。
この生徒は,芭蕉の言葉を引用しながら,旅には目的があること,実際に自分でその土地・そのものを見ることで得られるものがあることなどを考えています。「あてのない旅」というが実は目的があるという認識は,森本さんの文章を読んで学んだ捉え方でしょう。また,「その土地・そのものを見ることで……」というのは,「おくのほそ道ところどころ」を読んだときに話し合ったことであり,それを「松のことは」の言葉とつないで改めて意味づけたのだと思います。合唱の歌詞を引いて自分の経験と結んでいるのは,彼女がクラス合唱の指揮者であるゆえの関心でしょう。
ちなみに書いた評論文・批評文等は,色画用紙に貼り付けさせて表紙・裏表紙のように仕上げました。表紙は思い思いの装飾を施し,裏表紙に相互批評を書かせます。
ちょっとしたひと工程を加えて完成度が高まると学習の達成感・満足感も格段に高まるものです。これがとっても大切です。
【表紙】生徒によってイラストを入れるなど,さまざまに工夫をしている。
【裏表紙】相互評価を書く。
古典の学習に限らず,何かを読んで「深い学び」に至るということは,その文章の内容をおおよそ理解しつつ,今の自分にとっての意味を考えたり,自分が既に知ったり感じたりしている人間や社会のあり方と結んで腑に落ちた気持ちになれる……そんな生徒たちの姿として立ち現れてくるように思います。
それは「文章の中に書かれている意味や価値」に気づくというより,「その文章の意味だ,価値だと自分が納得できるもの」を自分で創り出すことではないでしょうか。「深い学び」を「文章の奥にあるものに気づける読み」のようにとらえては,どこまでも受動的になってしまいます。「深い学び」とはきっと自ら意味を創り出すように能動的なものだと思うのです。
次回は,「ダイコンは大きな根?」(1年) を使った実践をご紹介します。
宗我部義則(そがべ・よしのり)
1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師,早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版),『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社),『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。
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くるくる回る風車と一緒に,光村図書の歴史をたどります。