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第29回 「書き出し小説」に挑戦(1)――「構成や展開を工夫して書こう」(2年)

そがべ先生の国語教室

2021年12月28日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第29回 「書き出し小説」に挑戦(1)
――「構成や展開を工夫して書こう」(2年)

2年生に「構成や展開を工夫して書こう――『ある日の自分』の物語を書く」という教材があります。「物語」の創作は、中学校学習指導要領でも第2学年の言語活動例として取り上げられていて、この教材ではそれを「構成や展開の工夫」を学ぶための言語活動と位置づけているわけです。
幼稚園や小学校の子どもたちには「お話づくり」は大人気だと聞きますが、中学生も負けてはいません。まあ、自己開示の苦手な子も出てくるお年頃ですから、「ある日の自分」を題材・素材にしつつ、「フィクションやファンタジーに仕立ててもよし!」とするのも楽しそうですね。

ところで、「物語」の創作に関連して、今回、ご紹介するのは、『書き出し小説』(天久聖一 編、新潮社、2014)という本にヒントを得て行っている、生徒たちに大人気の授業です。この本は、読書が大好きな長女が見つけて教えてくれたものなのですが、「小説の書き出し」についての本ではありません。「書き出し小説」の本です。編者の天久さんは、本書の冒頭でこんなふうに書いています。

「本書で紹介する書き出し小説とは、文字通り書き出しのみによって成立したもっともミニマルな文学形式である。作者は自分の考えたオリジナル小説の冒頭だけを書き記し、読者はそこから自分なりの続きを想像する。」

(前掲書p.4-5「はじめに」より)

つまり、「書き出し小説」とは「小説の1ジャンル」だというのです。
これはおもしろい! さまざまな小説の書き出しに関心をもたせられるし、扱い方によっては新手の読書指導法にもなりそう。そして、創作を楽しみ、それを読み合って楽しみ……言語感覚を磨く授業になりそうだ! ……というわけで、さっそく授業用にアレンジしました(私の授業のネタ探しはいつもこんな感じです)。

学習展開

第1次 勝手に書き出し大賞!

【学習目標】
小説などの効果的な書き出しに学び、読みたいと思わせる書き出しのコツやワザを見つける。

*学習指導要領との関連:第2学年[C 読むこと]
エ 観点を明確にして文章を比較するなどし、文章の構成や論理の展開、表現の効果について考えること。

第0時 夏休みの宿題
第1時 書き出し大賞の候補作品をノミネート(推薦)する。
第2時 ノミネート作品を読み合い、選考委員会を開いたうえで、投票する。
第3時 書き出し大賞の発表→「書き出し小説」の紹介と課題提示

第2次「書き出し小説」読書会

【学習目標】
表現の効果を考えて描写するなど、自分の意図が伝わるように工夫して「書き出し小説」を書く。

*学習指導要領との関連:第2学年[B 書くこと]
ウ (前略)表現の効果を考えて描写したりするなど、自分の考えが伝わる文章になるように工夫すること。
オ 表現の工夫とその効果などについて、読み手からの助言などを踏まえ、自分の文章のよい点や改善点を見いだすこと。

第4時 「書き出し小説」読書会(「『書き出し小説』大賞」選考委員会)
第5時 「書き出し大賞2021」入賞作品発表

第1次 勝手に書き出し大賞!

第1次の学習は、いきなり創作するのではなく、さまざまな作家による「書き出し」を読み味わい、読み比べることから始めます。こんな展開です。

第0時 夏休みの宿題
身の回りにある小説などの中から、「『これはおもしろい! うまい! 先が読みたくなる!』とみんなが感じるにちがいないと思う書き出し」を、5作品以上見つけ、ノートに書いて集めてくること。

第1時 書き出し大賞の候補作品をノミネート(推薦)する。
身の回りにある小説などの中から、「『これはおもしろい! うまい! 先が読みたくなる!』とみんなが感じるにちがいないと思う書き出し」を、5作品以上見つけ、ノートに書いて集めてくること。

  1. 「書き出し大賞選考委員」になって、集めてきた書き出しの中からベストと思う大賞候補をノミネートする。
    A「読みたくなる部門」……なにしろ続きが読みたくなる。読者への効果絶大!
    B「テクニカル部門」……表現が美しい、表現のしかたがうまい等と感じる!
  2. 選んだ書き出しを部門別に、ロイロノート(※1)で提出する。

AとBの違いは微妙です。そこで、「続きが読みたいかは別にして、『きれいな書き出しだな』とか、『ああこう来るか! こんな書き出しのしかたがあるのか!』など、表現のうまさやおもしろさを感じるものを『テクニカル部門』、逆に、表現がうまいとかどうとかより、『なにしろこの書き出しで続きが読みたくなった!』と感じた作品を『読みたくなる部門』と考えることにしよう」と説明しました。同じ作品を両部門に推薦してもよいことにしました。

第2時 ノミネート作品を読み合い、選考委員会を開いたうえで、投票する。

  1. ロイロノートで両部門の作品を通覧する。
    ・よいと思った作品は、ノートに題名をメモしていく。この段階ではいくつでも可。
  2. メモした作品群を、各部門3~5作品に絞る。その作品を選んだ理由を簡潔にまとめる。
  3. 学習班(4人)で選考委員会を開き、推薦し合う。
    ・大賞にふさわしいと思う作品を推薦し合う。自分が出した作品を推薦してもよい。
  4. 大賞だと思う作品を各部門3作品まで投票する(Googleフォーム(※2)での投票)。

選考委員会は学習班で行いますが、投票する作品を班ごとに絞る必要はありません。投票はあくまで個人で行います。もちろん、他の人の推薦作のほうがよいと思ったら、自分の推薦作を変えてそれに投票してよいことにします。生徒たちは、お互いの推薦作を開示し合いながら、「ああ、それも確かに読みたくなるよね」「いきなりこれだよ! おもしろいよね」などと楽しそうに推薦し合いました。

第3時 書き出し大賞の発表→「書き出し小説」の紹介と課題提示
(1)「勝手に書き出し大賞2021」集計結果の発表。

生徒たちは投票しながら、「楽しみ!」と口々に言っていました。あるクラスの集計結果の例を示します。

画像、「読みたくなる部門」の結果
読みたくなる部門
画像、「テクニカル部門」の結果
テクニカル部門

このクラスでは、「読みたくなる部門」の大賞受賞作品は『幸福な食卓』(瀬尾まいこ 著、講談社)でした。
選評はこんな感じです。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」という書き出しに、まず「は?!」と思ったからです。まったく意味がわからないので先がすごく気になりました。さらにタイトルが『幸福な食卓』なので、幸せそうじゃなさそうな一言で、どっちなの?と思いました。意味のわからないことを最初に書き、続きを気にならせるというところがうまいなと感じました。

また、「テクニカル部門」の大賞受賞作品『七人の鬼ごっこ』(三津田信三 著、光文社)への選評はこんな内容です。

「(だぁーれまさんがぁ、こぉーろしたぁ……)/受話器の向こうから聞こえてきたかすかな声を耳にした瞬間、沼田八重の背筋にぞくっと悪寒が走った。」という短い文章なのに、状況が読者によく伝わってくるし、書き出しに印象の強い、誰が言ったのかわからない台詞を置いて、早く先が読みたくなるような工夫が上手だなと感じたからです。また「驚いた」というような表現でもいいのに、「悪寒が走った」と表現して、不気味な感じを一層強めているところも、上手な書き出しだなと思いました。

どちらも、いきなり作品の世界に引き込まれてしまったことが伝わってきます。結果は、実際にはグラフではなく、「第3位は……」などと演出をしながら、入賞作品を一つずつスライドで発表しました。それに合わせて、作品をノミネートした生徒に推薦理由を述べてもらったりもして、その場はたいへん盛り上がりました。

そして、ここで一度、「効果的な書き出しのコツ」をまとめる時間を取りました。彼らが挙げた「書き出しのコツ」には、

  • 最初のインパクトが大切。台詞から入るのも効果的。
  • どういうこと?と思わせる書き出しだと後が読みたくなる。
  • 普通はありえない出来事で始まると、えっ?となる。

など、自分で見つけたコツがたくさんありました。気づいたコツやワザを自分の言葉でまとめて自覚化するというのは、教えてもらうよりもずっと印象に残るはずです。

(2)「書き出し小説」を紹介し、創作課題を提示する。

さて、いよいよ次は、創作へと発展していきます。
発表が終わって盛り上がる生徒たちに、「楽しかったね。自分で書いてみたくなったのでは?」と水を向け、天久さんの「書き出し小説」というアイデアを紹介しました。
まず、「書き出し小説」とはどんなものか、天久さんの本から解説部分を引用したプリントを配り、それをもとにまとめさせました。

①「書き出し小説」とは書き出しのみの小説。作者は小説の冒頭だけを作り、読者は自由に続きを想像する。
②(普通の)小説は一つの物語しか語りえないが、「書き出し小説」は読み手しだいで無限のストーリーを読み解ける。
冒頭以外、読む必要がないので短時間で読める。
作者は冒頭だけ書けばよく、全体の構成に悩むことも、途中で筆を折る挫折感とも無縁。
求められるのは、独創的なアイデアと瞬間の集中力のみ。
③お互いの遊び心。「書き出し小説」は、全てをゆだねる作者の勇気と、読者の優しさの上に成立する、美しき共犯文学。

こんな考え方を取り出しながらポイントをつかみます。そして、「書き出し小説」の作例とそれへの天久さんの選評を例示しました。

「おもしろそう!」「これなら書けそう!」そんな声が出たところで、提出期限を伝え、具体的な応募部門(課題)を次のように示しました。部門は、課題部門と自由部門の二つを設けました。自由部門だけでもよいのですが、課題部門で具体的なテーマを示すことで、発想の助けとなるようにしたのです。自由部門は、いわば「その他」に当たります。「どちらの部門にも一つ以上提出する」という課題にしました。

課題 「書き出し小説」を書いて、ロイロノートに投稿しよう。

【課題部門】次のA~Eから課題を一つ選び、そのテーマで「書き出し小説」を創作してください。
A ペット(犬・猫……など、ペットの動物を一つ取り上げて書く)
B 友(親友・悪友・歌を心の友として……など。人間でない友も可)
C 恋(初恋・両思い・片思い・失恋など、恋にまつわることをテーマに書く)
D 大切なモノ・コト(思い浮かんだモノ・コト・言葉などをテーマにして書く)
E 言葉にできない感情(プラスの感情、マイナスの感情、複雑な思い……など)

【自由部門】自由なテーマで語り始めてください。

次回は引き続き、第2次の「『書き出し小説』読書会」の様子をご紹介します。


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宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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