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スペシャル対談「本屋という空間」 荻原規子 × 幅允孝

「飛ぶ教室」のご紹介

2015年10月30日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

スペシャル対談「本屋という空間」 荻原規子 × 幅允孝

「飛ぶ教室」43号(2015年10月25日発売)は、特別編集長シリーズ第2弾。ブックディレクター・幅允孝さんを、編集長に迎えました。
目玉は、角野栄子さん、荻原規子さん、石川直樹さんら、さまざまなジャンルの8名によるユニークな本の専門店。幅編集長が聞き出すガッツリ「本」対談の中から、荻原規子さんとのお話をご紹介します。

画像、対談の様子

本誌では、荻原さんの「境界をめぐる本屋」がおすすめする本について、熱く語られています。(撮影:山本あゆみ)

本屋でしか得られないもの

荻原さんは、本屋さんによく行かれるんですか。

荻原 それほどでもないのかもしれないけど、結局暇つぶしは本屋さんになってしまいます。棚に紛れ込んでるのがすごく好きですから。本屋さんにいると、森の中にいる気分になるんです。本の森。

へえ。面白いな。僕は、元水泳部だから、どちらかというと本の中を泳いでる気分ですね。自由遊泳みたいな感じで。

荻原 どっちも本につかっている感じ。

世の中では、3冊読んでる人より10冊読んでる人のほうが偉いと、どうしても思われがちです。でも、僕は、自分にグサッと刺さって抜けなくなるような本に、一生のうち何度出会えるかのほうが重要だと思います。もちろん、そのためにはたくさん読んでいくことも必要になると思うんですが、そういう刺さって抜けない、本当に血肉化できるような本に出会ってもらえるような機会を作りたいと思っています。

荻原 確かに本との出会いが減ってますよね。

ネットで検索して、これを買って終わり、となってしまうのはすごくもったいない。

荻原 オンライン書店なんかでも、最初のためし読み機能はあるけど、私は、あんまり意味がないと思ってるんですよ。

そうですよね。

荻原 本は、佇まいみたいなものが大切で……。

分かります。

荻原 書棚に背表紙が並んでいるのを見るのが好きという私が、もう古いのかなと思うんですけど。

僕も完全に仲間ですよ。モニターを見ただけでは分かり得ない、けれど本屋さんに行けば、パラパラめくった最初の数ページ、厚さとか、手触りとか、総体として、この本ってこんな感じじゃなかろうかみたいな示唆がたくさんある。

荻原 そして、ダーッと並んでなきゃいけないですよね。

そうですね。ダーッとね(笑)。

本を「狩る」

荻原 並んでいる中から、「あっ、この本!」と見つけるのがすごく好きです。私、図書館とか本屋という本の森の中にいると、自分が狩猟採集民になった気がするんです。

すごい、それは賛成ですね。

荻原 昔から、すごく好きだったんですね。図書館や本屋の好きなエリアに行くと、そこには新しい本がある。その、まだ知らない本があるということが好きです。それにはやっぱり、ダーッと並んだ本がなくっちゃなと思っています。

僕も結局自分がやっている本屋さんは、知ってる本ばかりだから駄目。知らない本屋に行けば、そこには未知があふれていて、自分がそれを、どう受け取るのかが楽しみです。今は未知が恐ろしいものだ、少し面倒くさいものだと思われがちなんですけど、本当はすごくスリリングで面白いと、僕は思います。

荻原 特徴のある並べ方をしている本屋さんも減りましたね。

そうですね。僕は、本来だったら、本と本の間の見えない関係というのがあると思うんですけれど、なかなかそこまで求められないことがすごく残念です。

荻原 作家でまとめる本屋さんさえ、少なくなったような気がしますね。

そうですよね。でもそんな中で、荻原さんが、さっき「狩猟」とおっしゃったのがすごく面白いと思いました。キノコ狩りとかじゃなくて、狩猟。

荻原 狩り捕らなければいけないという感じですね。

僕も本屋さんに行くときは、とにかく荷物を軽くして、後ろの予定をなるべく入れず、腹六分目ぐらいにして向かいます。

荻原 体調を整えて、マタギのように(笑)。

そうです。自分の無意識で狩るみたいな感覚があります。

荻原 勘を研ぎ澄まさないと、獲物も出てこないみたいな感じ。

本との出会いは真剣勝負!

でも、そういう自分の直感みたいなものを反映させるような場所というのが、実は、年々世の中から減っている気がしています。人が、レストランなんかを選ぶにしても、本にある点数や、星が幾つ付いてるからとかで決める。どうしても、失敗しないことに重きを置き過ぎていて、当たり障りがないというか、間違えたくないというのかな。

荻原 ランキングでものを見るようになったかもしれませんね。

そう。何をもっての失敗かもイメージができていないにもかかわらず、なんとなく失敗したくないからと、大きい方向へ流れている。でも、本屋さんで本を手に取るという行為は、著者もタイトルも知らないのに、本が自分を呼んでいるみたいなところがあって、そうして呼ばれているものに応えなければならないという――自分の獰猛な意思みたいなものを、このシステム化された世界の中で使う、今時めずらしい、かなり限られたことなんじゃないかと思うんです。

荻原 そうですね。私にとっては、本能を感じられる場所です。人にはそれぞれ、そういった場所があるとは思うけど、本屋がそれに当たるという人も、いると思いますよね。

僕は、本は買うか買わないかを迷ったら、直観とか自分の中でたぎる、その獰猛な意思みたいなものに抗わず、買ったほうがいいですよと言うんです。

荻原 自分でゲットしたという気持ちも、すごく大事なんですよね。お金を払って。

大事ですよね。いただく本もあるんですけど、僕も根がケチなのか、やっぱり身銭切った本は集中力みたいなものが備わる。

荻原 直感によるチョイスの自己評価が上がるか下がるかの問題もあるから真剣。

そう、自分の直感を信じたいというのも含めてありますよね。

続きは、「飛ぶ教室」43号(10月25日発行)で!

飛ぶ教室 第43号(2015年秋)

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