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通常学級での特別支援教育 第46回

通常学級での特別支援教育

2020年6月12日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第46回 なかなか友達ができない子

今日のポイント

  • クラスには「友達づくりが難しい子」がいる。その難しさの理由は、対人的な交流の基礎スキルに関することから、相手の気持ちや場面の理解のつまずき、自分の気持ちの言語化のつまずきなど多岐にわたっている。
  • 友達づくりが苦手な子どもたちどうしが心地よいと感じる付き合い方は、同じような趣味・興味をもっている人と、お互いに共有したい話題だけを話し、その時間だけ一緒に過ごすという「緩めの仲間関係」である。
  • 自分と異なる側面をもつ他者に対して寛容でない子どもが、友達づくりにつまずきのある子を「格好のターゲット」にして、からかったり、挑発したりして気持ちを満たすことがある。「友達を大切にしよう」という指導だけでは不十分であることを認識しつつ、「友達の在り方」の多様性を伝えていくことが求められる。

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そもそも学校の指導は「友達がいる」ことが前提になっている

学校では、「友達を大切にしよう」というキーワードが頻繁に語られます。学級目標として掲げられたり、日頃の生活指導でも取り上げられたりします。

しかし、そもそもこの言葉は「みんな友達ができる」あるいは「みんなに友達がいる」ことが前提になっているような気がします。

クラスの中には「なかなか友達ができない子」がいます。その子たちにとって「友達を大切にしよう」という言葉は、「自動車の運転方法も習っていないのに‟安全運転を心がけよう“と言われているようなもの」なのかもしれません。

そこで、今回は、友達づくりの難しさの理由を考えてみます。

人との交流の基礎に関すること

友達づくりの難しさの理由は多岐にわたります。

(1)対人交流の基礎スキルの未獲得
対人的な交流の基礎となるスキルとして、「アイコンタクト」、「適切な距離感」、「会話の間合いやあいづち」などが挙げられます。これらのスキルの獲得が不十分な場合は、他者から具体的かつ丁寧に教わる必要があります。

(2)自ら交流を生み出すことの難しさ
交流のきっかけ作りを自分から始められる子どもは、「ねぇねぇ、何してるの?」「それ何?」「あ~、それ知ってる」「いいよね、それ」といった相手への興味があります。関心が相手に向かっていない場合は、交流を生み出すことが難しいようです。この場合は、相手が今、どんなことに興味や関心をもっているかを見つける練習や、そこへの助言が必要になります。

(3)対人交流のためのキャッチボールの難しさ
話し始めると、「相手の話を聞く」や「相手を見る」といったアンテナが閉じてしまい、話が自己完結してしまう子どもがいます。このままでは会話が一方的で、話し相手との情報や意見の交換ができません。疑似的なマイクなどの受け渡しの活動を通して、やりとりを視覚化することがポイントになります。

相手の立場の理解や状況の把握の難しさ、表現の仕方などのつまずき

さらに、その場で求められる状況の理解やふるまい方、表現の仕方などのつまずきが友達づくりの難しさに影響する場合もあります。

(4)場面や相手の状況を読んだり、それに対応したりすることの難しさ
周囲の状況や相手の事情に立って考えることにつまずきがある場合は、その場で求められる臨機応変的な対応が難しいようです。相手よりも自分のことを優先させてしまったり、逆に相手のことを優先し過ぎて自分のことを伝えられなかったりします。このような苦手意識を自覚できる子もいて、後味の悪さに自己嫌悪に陥ることもあります。この状況は、例えて言えば「長縄とびに入るタイミングをつかむことの難しさ」に近いので、少しずつコツをつかんでいくようにすることがポイントです。

(5)自分の気持ちを言語化する難しさ
相手との意見の違いを適切な方法で表現することが難しいと、ちょっとした一言でもトラブルが起きやすくなります。「たしかに、君が言っていることは正しいと思う。でも、自分はこう思う」というように、先に相手の言い分を認めつつ、自分が言いたいことは後から話すようにする、といった具体的な表現方法のコツの伝授が必要です。また、困っていることを伝えることが苦手な場合も、対人的な交流に自信がない状態が続きます。ヘルプを求めることは恥ずかしいことではない、という意識の変容から始めなければならないケースもあります。

(6)注意や記憶などの認知面のつまずきに由来することも
複数のことを記憶して順序立てて話すことが難しいため、話がまどろっこしいといったことも友達づくりに影響します。また、優先順位を考えて行動することが苦手、約束したことを忘れてしまう、思いついたものに注意が向きやすく話を中断してしまうなどが頻繁に起こる場合は、本人に悪気はなくても友達との信頼関係にマイナスの影響をもたらします。少し勇気をふりしぼらなければなりませんが、「自分にはこんな部分があって・・・」という自己開示が周囲の理解を促すこともあります。

「友達」の在り方の多様性を伝える

友達づくりが苦手な子どもたちどうしの付き合い方を見ていると、同じような趣味・興味をもっている人と、お互いに共有したい話題だけを話し、その時間だけ一緒に過ごすという「緩めの仲間関係」が心地よいようです。

ところが、小学校や中学校では「同質性」を基盤とした友達付き合いが中心です。

自分と異なる側面をもつ他者に対して寛容でない子どもが、友達づくりにつまずきのある子を「格好のターゲット」にして、追い込んだり、からかったり、挑発したりして気持ちを満たすことも少なくありません。

その子どもたちは、もしかしたら、いつも一緒に行動するような相互依存的な関係だけを「友達」と認識しているのかもしれません。ターゲットにしている子のことを「友達でない他者」と位置付けるような気持ちが根底にあると、「友達を大切に!」といくら声高に指導しても伝わりません。

昨今のSNSの友達機能やフォロワーなどの関係づくりを見ていると、「つながるも良し、つながらないときもあって良し」という緩やかなつながりへと、「友達」という言葉のイメージが変容してきているように思います。友達の在り方が多様になってきているのです。

学校現場においても、「友達を大切にしよう」という指導の中身を再検討しながら、時代にフィットさせていくことが求められるのではないでしょうか。

参考文献
松村エリ、教室に「いる」から「参加」そして活躍へ、仲間知穂・こども相談支援センターゆいまわる編著、学校に作業療法を 「届けたい教育」でつなぐ学校・家庭・地域、クリエイツかもがわ、2019年、pp.27-31

次回は、わがままを受け入れるのか、それとも譲らないのか、について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura


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