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質問8 授業では、どんな力を育てるの?

ここが知りたいQ&A

2017年10月30日 更新

35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた富岡 栄先生(麗澤大学大学院准教授)が、「特別の教科 道徳」に関するよくある疑問にお答えします。

回答:富岡 栄(麗澤大学大学院准教授)

道徳科の目標は「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。」(カッコ内は中学校)と示されています。したがって、道徳科で育てる力は道徳性ということになります。

では、道徳性とは何か? それは人間としてよりよく生きようとする人格的特性です。また、道徳的行為を可能にする資質・能力ともいえます。道徳性は、道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲と態度の諸様相から成るものと説明されています。ただ、これらは様相であって、要素ではありません。道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲と態度は、独立して存在するものではなく、互いに密接に関連し合いながら道徳性を構成しています。

これまでの指導案でのねらいは、道徳性の諸様相に焦点を当てて「~(道徳的価値についての)道徳的心情を育てる。」「~(道徳的価値についての)道徳的判断力を高める。」のような文末表現が一般的だったと思います。おそらく、これからも、このような表記のしかたをしていくことも多いと思われます。しかし、諸様相が密接に関連していることを考えると、いずれかの様相に焦点を当て、その様相に重きを置き授業を展開していくにしても、バランスよく諸様相を育成していくことが大切です。

今回の改正で、道徳教育と道徳科の目標は、共に「道徳性を養う」という表記になりました。これまでの道徳の時間は、道徳的実践力を養うことを目標としており、一部には、将来出会うであろう場面や状況において道徳的価値を実現させていく力を養うことであり、現在の生活に道徳的価値が実現されなくてもよいとの見方がありました。しかし、本来、道徳の学習は生きて働くものでなくてはなりません。道徳科で学んだことが将来に役立つとともに、明日からの生活にも生かされ、道徳的実践となって表出してもよいはずですし、そのことが期待されてもいます。まして、教科化の大きな要因であるいじめ問題についても、遠い将来に役立つだけでは意味がありません。今回の教科化では、実効性が求められているのです。

ただ、ここで注意すべきことがあります。それは、道徳科が諸問題解決のための手段であってはならないということです。道徳科は、計画的、発展的(系統的)に行われることで道徳性が育まれるべきであり、生活上の諸問題解決のための直接的な時間ではないということを忘れてはなりません。

富岡 栄(とみおか・さかえ)

麗澤大学大学院准教授。公立中学校教諭、管理職として、35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた。平成27年3月、群馬県高崎市立第一中学校校長を定年退職。退職後は大学にて道徳教育に関する講座を担当。日本道徳教育学会、日本道徳教育方法学会の評議員を務める。平成27年一部改正「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」の作成協力者の一人。

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