授業実践 飛沫防止パーテーションを活用した造形活動

2021年1月20日公開

東京都新宿区立柏木小学校指導教諭 竹内とも子

コロナ感染防止のためのさまざまな制限により、美術室での授業づくりに悩んでおられる先生方も少なくないのではないでしょうか。しかし、視点を少し変えれば、今の環境でこそできる活動もあると思います。今回、私は飛沫感染を防ぐ透明のパーテーションを活用した授業を行いました。小学校での取り組みですが、中学校でも応用できると思い、ご紹介させていただきます。

(写真1) 飛沫防止の手づくりパーテーションを生かした造形作品

飛沫防止の透明パーテーションを手づくり

これまで経験したことのないコロナ禍にあって、各学校現場も、対策をさまざまに工夫し、対応していることと思います。本校の図工室の工作台は、幅90㎝×長さ180cmで四人掛けです。分散登校ならば、隣の席を空けて斜めに座る対応ができるものの、一斉登校となると、どうしても向かい合って座るしかありません。

そこで、安全で活動しやすい図工室をつくるために、対面による飛沫感染を防ぐ透明パーテーションを休校中に準備することにしました。異動したてでまだなじみのない図工室を物色していると、使えそうな材木と、厚手の透明ビニルシートを発見。丸い材木を接続する方法にはかなり悩みましたが、ホームセンターで見つけた水道管の継ぎ手がぴったりで、これだけ購入しました。子どもが立って活動しても飛沫がかからない高さに設定したり、金具などを使わないで、はめ込み式で固定したり、支柱を机の端より内側に立てたり、面取りをしたりと、安全性を確保するための工夫を重ねました。

しかし、授業再開後、この手づくりパーテーションが陽の目を見ることはありませんでした。といいますのも、狭い図工室でパーテーションが立っていることによる危険や、板書が見えにくいなどのデメリットもある上、他の特別教室では使用していないなどの理由により、一度、お蔵入りとなったのです。

その後、校内展覧会の内容に悩む中で、感染防止の視点から、共同してつくる題材を避けてきただけでなく、関わり合って表現活動を行うことが少なくなっていることに危機感をもちました。そこで思い出したのが、お蔵入りしていたパーテーションでした。

「三密」を避けつつ、表現活動を行える素材として、透明パーテーションをうまく生かせるのではないかと考え、次のような実践を行いました。

パーテーションを生かした授業実践

(1) 題材名「海中さんぽ」(小学校第2学年)

本題材「海中さんぽ」は、透明シートに楽しい海の中をイメージして皆で絵をかき、それを土台として、一人一人が色紙などでつくった海の生き物を組み合わせてともに構成するという内容です。

これまでに行った際は、(写真2)のように、過密な状態になることもあったため、今年度は透明のパーテーションを生かし、活動内容を変更することにしました。

(写真2) 以前の「海中さんぽ」の活動の様子

(2) 材料・用具と環境設定

材料は、パーテーション以外に次のものを用意しました。

・OHPシート(円形・正方形・長方形などにカットしたもの)
・透明カラーシート(接着剤なしで鏡面状のものに貼ることができるもの)
・カラーメッシュの折り紙 
・超透明セロハンテープ 
・カラーペン 
・はさみ

図工室全体の環境設定としては、透明パーテーションに、前時に各自が針金ハンガーでつくった魚をかけておいたほか、さらにその前時に板目紙と色画用紙でつくった魚も窓に吊るすなどして、表現活動のきっかけとしました。(写真1)。黒板の掲示は見えやすいよう高い位置に設け、透過性のある材料がどのように見えるかを例示しました。海中のイメージを広げる映像をプロジェクターで映し出したほか(写真3)、透過する色がよく見えるよう、机上に白い紙を敷きました。

(写真3) 透明なカラーシートの形や色が重なった感じなどを例示。
映像をプロジェクターで映し、本時のねらいなどは見やすいように高い位置に掲示した。

(3) 造形活動の様子

① 「海の中」のイメージを一人一人表す

「海の中」というイメージをもとに、思い思いの形に切ったカラーシートを、土台となるOHPシートに貼り、並べたり重ねたりして組み合わせました(写真4~6)。

(写真4) さまざまな形や大きさに切ったOHPシートを選ぶ。

(写真5) カラーシートは容易に切れて、貼り直しができる。

(写真6) 材料の透過性を生かして発想を広げる。

A4サイズの長方形のままOHPシートを配ると、その中で海中の風景が完結してしまい、友だちの表現との関係が生まれにくいのが気になりました。また、子どもたちは自由に海の生き物などの形に切り取りたくなるようで、その分、切る手間と時間がかかりました。

そこで、予め形や大きさがさまざまなOHPシートを用意することで(写真4)、表したいことに合わせて土台を選べるだけでなく、発想の幅を広げられるようにしました。また、透明なカラーシートは、はさみで簡単に切ることができ、OHPシートに接着剤なしで貼り付けられるため、手も汚れず、何度もやり直しができます。それにより、子どもたちは形の組み合わせや色を重ねた効果を確かめながら位置を変えたり、新たにカラーシートやカラーメッシュ折り紙の形や色、透過性を生かしたりして、発想を広げていきました(写真6)。

② 透明性を生かし、友だちと協力して海の中のイメージを表わす

次に、一人一人がつくったOHPシートを、位置を考えてパーテーションに貼っていきました。パーテーションが透明なので、目の前の友だちの活動を見ることができ、互いに働きかけ合うことができます。セロハンテープで留めるだけなので、パーテーション全体の感じを見ながら付け替えることもできます(写真7・8)。

(写真7)テープで好きな位置に貼っていく。
(写真8)「ここがいいかな?」
(写真9)友だちと協力して貼る子どもたち。

OHPシートやカラーシートも透明なため、海藻の向こう側に魚が泳ぐ様子を表現するなど、形や色が透過して重なる面白さを生かした発想が生まれていました。また、つくったものを高い位置に付けようとした子が、「これ貼るから、そっちから押さえて」とパーテーション越しに前の席の友だちに声をかけ、それに応えて前の子が裏から押してあげている様子なども見られました(写真9)。透明パーテーションがあることで生まれる、造形的な交流の場面でした。

(4) 鑑賞活動 ~海中さんぽをしてみよう~

図工室に入る時、活動途中、そして退出の際、意図的に鑑賞する活動を取り入れました(写真10)。あるパーテーションでは、国語で学習した「スイミー」が表されているのを見た児童が、「スイミーだ!そうきたか!」と大人びた声を上げたり、透明シートをめくると絵が変わる表現を見て、自分も試してみたりと、友だちの表現を楽しんだり、新たな発想が生まれている様子でした。

(写真10) 鑑賞活動は「三密」防止のため、一方通行で行った。

また、透明なパーテーションを造形素材として用いたことで、シートの両側から表現したものを鑑賞することができるだけでなく、図工室の空間全体を鑑賞するような活動になりました。休み時間に図工室にやってきた他の学年の子どもたちも、図工室の変容に、「わー!」と声を上げて驚いている様子でした。

透明のパーテーションを造形素材とする効果

透明のパーテーションは、空間を仕切る役割をもちながら、造形の素材とすることによって、次のような効果があると考えられます。

  1. 透明であることで目の前の友だちの活動を見ることができ、互いに造形的に働きかけ、関わり合うための環境設定となる。
  2. 透過性のあるもので仕切ったり、重ねたりすることで、「空間」や「奥行き」という造形要素を意識することができる。
  3. 透過性のある形や色の、組み合わせや重なりの面白さ・美しさなどに気付く。

(1)については、透明なパーテーションがあることで、両側から一人一人がつくったものを貼ったり、友達の造形活動を受けてさらに表したいものを思いついたりできる効果があったことが挙げられます。(2)については、造形的に働きかけている目の前の透明シートだけでなく、図工室全体も仕切られ、海の中のイメージに変容した空間を楽しむことができました。(3)については、OHPシートや、カラー透明シート、メッシュ折り紙も含めて、それらを付ける透明のパーテーションが立っていることにより、透過性のあるものが重なる効果が生かされていたと考えられます。窓から差し込む光も重要な造形要素となりました(写真11)。

(写真11) 窓からさす陽光も造形活動の一つの要素に。

終わりに

感染症防止対策のためにつくったパーテーションは、空間を分けるものであっても、子どもたちを分断するものではなく、一人一人の造形活動つなぎ、発想、そして表現を広げるものとしての意味をもつようになったと考えています。

この実践が、校内展覧会で全校の子どもたちを楽しませ、つないでくれることを願っています。


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