美術の評価 Q&A 【第2回】 Q. ワークシートを使って、どう評価する?

2020年7月30日公開

実践女子大学特任教授 中村一哉

A. 生徒の学習状況や思考の過程が把握できる「視点」のあるワークシートを活用しましょう!

第1回では、休業中の評価の手立てとして、「ワークシートの記入や感想等、記述した内容から学習の状況を把握し、作品との相関で評価する」ことが重要だということをお伝えしました。今回は、それが具体的にどういうことか、もう少し見ていきたいと思います。

ワークシートは、題材に応じて生徒の学習状況と思考の過程を読み取る「視点」を明確にすることが重要となります。具体的に見ていきましょう。

中学校教科書『美術1』(光村図書)の最初の表現題材は「見て描く楽しみ」です。身の回りのものを選び、スケッチをして水彩で着色するという題材です。まず、ここで大切なのは、「描きたいものを選ぶ」ということです。選ぶ対象は、自分にとって何か意味があるはず。そのことを意識して、どのような絵にしたいのかを考えていくのは、自分の「主題」を発見し、思いを確かめる「発想や構想」を高めていくための過程となります。その上で、形や色彩をどのように工夫したら自分が思うような表現ができるかを考え、これまでの経験を生かして実際に描いてみて、「創造的な技能」を身に付けていくことになります。ワークシートの作成に当たっては、そのような生徒の学習過程が把握できるような項目を設定する必要があります。

『美術1』 P.8~9 「見て描く楽しみ」

例えば、「あなたが選んだモチーフは?」と内容を聞くと同時に、「その理由は?」と選んだ意図を書くことで、生徒は自分の主題について意識化することができます。また、「描いてみた感想は?」と事後の感想を聞くのみではなく、描く前に「どのような感じを強調したいか」「そのために工夫することは何か」をたずね、実際に描いた後には、「工夫した点、難しかった点」を具体的に聞き、全体の感想と同時に「次の場面で生かしたいこと」を書いてもらうことで、課題意識を養うことができるはずです。モチーフを変えて、再度、同じ題材に取り組むようにすると、その変化を比較して、学習のねらいの定着がはっきりと捉えられるでしょう。

中学校教科書『美術2・3』(光村図書)のP.40~45には、「ゲルニカ、明日への願い」という鑑賞のページがあります。ワークシートを活用して学習を深めるに、例えば、まず「作品を見ての第一印象」を聞き、対話により鑑賞を深めた後に「ピカソがゲルニカを描いた理由を調べてまとめる」ようにします。その上で、再度、作品を見て、「どのように受け止め方が変化したか」を考えさせていくと、生徒自身が自分の見方や感じ方の深まりを自覚することができ、さらに、「作者の心情や表現の意図や創造的な工夫」を感じ取らせることもできるでしょう。そこから、また色々と発展させることもできます。

以上、具体的にワークシートの項目を見てきましたが、大切なことは、作品などの結果のみで評価をするのではなく、生徒一人一人の学習の過程を正確に把握して、生徒の表現を思いや意図と関連付けて評価していくことです。その際、ワークシートは生徒の学びを導くものであると同時に、育成する資質・能力の視点に立って生徒を理解していく貴重な手立てとなります。

中村 一哉(なかむら・かずや)

東京都生まれ。実践女子大学特任教授。多摩美術大学卒業後、東京都の公立中学校教諭、東京都の教育行政職を経て、府中市立府中第五中学校長を務める。中央教育審議会「芸術ワーキンググループ」委員。光村図書中学校「美術」教科書の著作者。

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