美術の評価 Q&A 【第3回】 Q.休業中の課題と再開後の題材を関連付けるには?

2020年8月26日公開

実践女子大学特任教授 中村一哉

A. 再開後に同じ学習課題の題材を設定するとよいでしょう

今回は、休業中の課題への取り組みが、その後の学習活動にどのように反映されたかという視点から、題材相互の関連を通した評価のあり方について考えてみたいと思います。

その点について述べる前に、まず、評価の基本について、二つの点を押さえておく必要があります。

一つ目は、現行の学習指導要領の改善の基本方針に示された「育成する資質や能力と学習内容との関係の明確化」です。簡単に言えば、絵画や工芸など、題材の特性はそれぞれ異なっていても、評価する内容は題材によって変わるものではなく、「発想や構想の能力」や「創造的な技能」、「鑑賞の能力」などの資質や能力を、全ての題材を通して育成していくということです。

二つ目は、評価は毎回の授業や課題への取り組みといった特定の場面のみで行うものではなく、題材を通じたまとまりの中で行うことが基本であるということです。これは一つの題材の中で評価するという解釈もできますが、前述した一つ目のポイントを踏まえると、年間全ての題材を通して評価することが、美術科の場合には妥当と考えられます。

以上2点を総合すると、美術の学習では、相互に関連し合う題材の学習を通して、育成する資質や能力の高まりや深まりを評価していくことが大切であり、その変化の過程を把握しながら、それぞれの資質や能力の定着の状況を判断していくことが評価の基本であると言えます。

題材の関連について、具体的に見てみましょう。

今回の休業中に、中学校教科書『美術1』(光村図書)の「気持ちを伝えるデザイン」という、メッセージカードをつくる表現題材を使って、家族や友人、医療関係者の方々などに対する「周囲の人が元気になる応援カード」の制作を課題にした学校がありました。この題材では、受け取る相手の気持ちを考えて主題を生み出し、構想を練ることが重要な学習課題です。

『美術1』 P.36~37 「気持ちを伝えるデザイン」

例えば、学校再開後には「木のぬくもりと暮らす」「生活の中の焼き物」など、工芸の題材を設定するとよいでしょう。工芸では、どのような人が使うか、使う人の気持ちを考えて制作することが重要です。このような発想や構想は、メッセージカードで相手の気持ちを考えた経験の発展と言えます。どちらも目的や条件を基にした発想や構想を練る学習課題であり、他者の視点に立って考えることが共通する学習課題だからです。紙や木、土などの表現媒体は違っても、発想や構想の学習課題は同じです。工芸の授業の中で、休業中の課題で育成した力の定着やその発展を見取り、評価することもできるということです。

このように、題材自体が相互に関連し、発展する構造をもっているわけですから、学習の評価もまた、特定の場面のみで行なうのではなく、学習の流れの中で形成され、育まれた資質や能力を捉えていく必要があるということになります。つまり、それぞれの題材を通して考え、工夫し、表現した経験が、次の題材に生かされて広がったり、深まったりする変容を捉えるとともに、生徒自身がそれを自覚できるように導いていくことが大切ということです。

休業期間中の課題も、そのように考えると、評価の視点が変わってくるのではないでしょうか。

中村 一哉(なかむら・かずや)

東京都生まれ。実践女子大学特任教授。多摩美術大学卒業後、東京都の公立中学校教諭、東京都の教育行政職を経て、府中市立府中第五中学校長を務める。中央教育審議会「芸術ワーキンググループ」委員。光村図書中学校「美術」教科書の著作者。

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