リモート授業、どう行うの?【第3回】 リモートだからこそできる授業とは(実践編)

2020年8月4日公開

北海道教育大学附属釧路中学校教諭 更科結希

第2回では、中学3年生の最初の題材「メッセージを持ち歩く」の授業の流れや、リモートで鑑賞の授業を行うために使用したアプリについてご紹介しました。今回は、実際の授業の様子をご紹介しようと思います。

第2時の流れ

教師と生徒はビデオ会議ツールGoogle Meetで双方向が繋がっている状態で授業を進行しました。同時に、導入ではホワイトボードツールのmiroを使用し、展開ではプレゼンテーションツールのGoogleスライドを利用しました。

導入では、グラフィティアーティストのバンクシーが壁に描いた作品「花束を投げる男」を用い、自分の意見をクラス全体で共有するためにmiroを使用しました。
まず、「『花束を投げる男』は落書きだろうか、アートだろうか?」と問いかけて考えさせるところから授業を始めました。「落書きとアートの違いは何だろう、miroのシートに打ち込んでみよう」と指示して、クラス全体で意見を出し合いました。(図1)

出た意見を分類したり、ユニークな意見を挙げた生徒には、Google Meet上で説明をしてもらったりしながら授業を進めていきました。miroは生徒の意見を一度に全員で共有でき、生徒自身が追記も可能なことから、対面の授業でも十分活用できるアプリであると考えます。

図1 「アートと落書きはどう違うのか」
miroの中で示した考え

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展開では、バンクシーの最新作「Game Changer」をグループごとに鑑賞しました。「この作品に描かれている子どもや看護師の人形はどんな様子だろう?」というように問いを投げかけて、描かれているモチーフから、その意味について考えさせました。

図2はそのときに使用したページです。展開ではGoogleスライドを利用しました。バンクシーのインスタグラムのリンク先を貼り付けたり、グループ別で共有した意見を記録したりしたかったためです。また、授業の流れと生徒の意見をひとつのスライドにまとめられるため、授業後の振り返りがしやすいだろうと考えました。事前に作成しておいた表に、各グループで意見を持ち寄りながら生徒が入力していきました。

表を見ると、同じ部分に着目した生徒でも、受け取り方の違いがあらわれているのがわかります。こうした交流を経て、作品の意味を考えていきました。

図2 バンクシーの「Game Changer」を
鑑賞する際に使用したシート

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次に、「この作品のタイトルは『Game Changer』です。いったい何が変わったのか、描かれている内容、対象の様子から作者の意図を考えてみよう」と問いを投げかけて、各グループで考えさせました。生徒からは、「これからの子どもにとってのヒーローは、頑張っている看護師たちだと伝えたかったのだと思う」という意見や「看護師は黒人の女性として描かれているから、人種差別に疑問を投げかけているのではないか」といった意見まで、さまざまな意見が出されました。

この授業の終盤は、作品に込められた作者の意図を感じ取ることを通して、生徒がエコバッグに印刷するデザインにどのような意味を込めるかに結びつけました。

リモートによる鑑賞の授業を終えて、対面授業へ

その後の授業は、自分が取り上げた社会問題に対して人々に伝えたいメッセージを、「提案するメッセージ」としてデザインするところまでリモート授業で展開しました。

臨時休業が明けた後、デザインの原画を用いてシルクスクリーンの版を作成し、エコバッグに実際に印刷しました。3密に注意を払いながらの制作となりましたが、無事印刷を終えることができました。

生徒が自宅で考えたメッセージのアイデア

シルクスクリーンでエコバッグに印刷する

リモート授業では、生徒の意見の共有には工夫が必要となります。それは、今回アプリを使用することにより解決することができ、そのアプリは、対面授業の中でも活用できるものでした。生徒が同時に意見を述べ合える環境をつくることによって、これまでより短時間で生徒全員の意見を把握して、活用することができるようになります。

次回は、こうしたリモート授業の経験を生かし、現在の対面授業の中で、工夫している学習の流れやICTの活用などについてご紹介していきたいと思います。

更科 結希(さらしな・ゆき)

北海道生まれ。北海道教育大学附属釧路中学校教諭。北海道教育大学卒業後、北海道釧路町の公立中学校教諭を経て、2012年4月より現職。北海道教育大学大学院修了。現在、研究主題「創造活動の価値を見出すことができる児童・生徒の育成」の実現に向けて、日々授業研究を行っている。


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