家庭学習に関する先生方の悩み、いっしょに考えます

2020年6月10日公開

福島県いわき市立内郷第一中学校教諭  畑中 豊

新型コロナウイルスの影響により、授業外での学び、なかでも「家庭学習」が話題となっていますが、そもそも「家庭学習」や「宿題」という言葉には、「与えられる」「やらされる」といったネガティブなイメージがつきまとっているとは思いませんか。「自学」と言いながら「1日1ページ」などというノルマを与えていたりしていませんか。

不安定な授業運営を強いられている今こそ、家での学習の大切さを見直し、新しい学びのスタイルをつくるチャンスなのかもしれません。与えられるのではなく、つかみ取ろうとする自主的な学びの姿勢を育てることには、大きな意義があり、後でふり返ったとき、「あの時期があったから」「あのとき真剣に考えたから」と言えるような学習スタイルをつくっていきたいものです。

そこでこれからは、生徒からの好感度アップをねらい、「家勉(いえべん)」「自分授業」などとネーミングを変えてみてはいかがでしょうか。予習型であれば「先勉(さきべん)」、復習型であれば「あとラー(ラーニング)」などなど。生徒から案を募るのもいいかもしれませんね。

生徒に宿題を出す目的はいろいろありますが、最も大切なのは「自立した学習者」を育てることです。教師の手から離れても「自分で学習できる」能力が身についていれば、高校に進学しても、さらには、卒業後も学び続けることができるはずです。反転学習やアクティブ・ラーニングを成功させるカギとなる家庭学習ですが、やってこない生徒がいたり、点検する時間がなかったりと、悩みはつきません。そこで、想定されるいくつかの場面について、どのように対応したらいいか、いっしょに考えてみたいと思います。


課題を提出しない生徒がいる

生徒のタイプをきちんと理解することから始めましょう。「書くこと」が好きな生徒もいれば「読むこと」が好きな生徒もいます。また、「決められたこと」をコツコツやることが得意な生徒もいれば「自由にやりたい」生徒もいます。

私はマイテーという名の家庭学習ノートを毎日1ページ課しています。「マイテ―」は、「毎日提出ノート」から生まれたネーミングで、“almighty”にも通じ、生徒はけっこう気に入っているようです。

「マイテ―」の内容には、次のようにさまざまなものがあります。

  • 千田潤一先生(※1)に教えていただいた「音読筆写」(基本文や重要文を声に出して読みながら5回ずつ書く)。
  • 「こうかん絵日記」週のはじめと最後の授業で日記を書かせ、4人のグループで回し読みをする。
  • 好きな映画の台詞やお気に入りの歌詞を書く。
  • 英検の勉強、小テストに向けての準備 など。

どれもやりたくない場合は、教科書の音読も可としています。生徒が「やりたくなる」しかも「有益だと感じる」課題を出すことがいちばんなのだと思います。

※以下は、いわきでいっしょに英語教育を勉強している宮崎美穂先生(いわき市立中央台南中学校)の生徒さんの「マイテ―」です。このようなノートを提出する生徒さんに敬意を表します。

画像、ノート例
習った英単語でクイズを作成
画像、ノート例
新発売の商品を英語にしてみる
画像、ノート例
好きなアーティストについて英語で書いてみる
(肖像権の関係で一部グレー表示にしています)

提出はするがテキトーにやってくる 

生徒の生活スタイルも知っておくべきです。分散登校の時期はさておき、通常であれば、部活動を終えて帰宅する頃には7時過ぎになる生徒も珍しくありません。電車やバスで通っている生徒は待ち時間を考えると8時近くになるでしょう。それから夕食、入浴となると宿題に使える時間はせいぜい2時間がいいところです。塾に通っている生徒もいます。他の教科からの課題もあります。そう考えれば「やってこない生徒に腹を立てる」こともなくなるでしょう。「やってきてくれてありがとう」という気持ちになれるものです。10分(足りないと感じるなら15分)でできる課題を出してはいかがでしょうか。「スキマ時間」を使って集中して取り組めるものを課すことにより、夕食までのちょっとした時間、就寝前のちょっとした時間、テレビが終わって風呂に入るまでのちょっとした時間、集中して取組むようになります。慣れてくると要領を覚え、内容が次第に充実してくるはずです。

余談になりますが、シャープペンシルよりは鉛筆で書いたほうが姿勢も良くなりますし、筆圧も弱くて済み、長い時間書くことができる、ということを生徒に話してはいかがでしょうか。水性ボールペンで書くことを提案してみるのもいいでしょう。インクが減るのが実感でき、成就感が得られること間違いなし。インクが空のペンは、入試のお守りになるはずです。いろいろな色のインクで書かせるなど、生徒の遊び心を刺激するのもいいかもしれませんね。

落ち着いて家庭学習ができる環境がない

生徒の家庭環境も考慮しなければなりません。保護者が協力的かどうか、課題に取り組む場所と時間が確保できるかどうかなど、生徒の置かれた環境を知ろうとせず、提出しないことをやみくもに責めてはよくないですね。「宿題」は家でするから宿題なのでしょうが、家でできない生徒には朝早く登校して学校でやらせてはいかがでしょうか。昼休みのうちにやってしまうというのもアリですね。授業の最後に宿題をやる時間をちょっと確保するというのも実は効果があります。ゼロからやるのと、ちょっとやった残りをやるのとではメンタルの負担が違うことは、自分の仕事を考えてもわかるような気がします。

チェックに時間がかかる

生徒に課題を出してチェックしないのは裏切り行為です。チェックできないのであれば出さないほうがいいでしょう。「チェックしなくてもやってくるのが自主的・自律的というものだ」という考えは一度やめて、ちゃんとやっている生徒を賞賛し、サボった生徒を励ますことがいかに生徒のやる気につながるかを忘れないでおきましょう。

生徒数が20人前後であれば、授業の始まる前に生徒を一列に並べて、1人1人宿題をチェックしてはいかがでしょうか。1人10秒前後で、全体で3分程度あればチェックできます。私はその際、生徒に英語の質問を投げかけます。生徒が質問に答えられたらサインします。答えられないと次の生徒に抜かされてしまいます。できるだけ同じような質問を生徒に投げかけ、耳にタコができるよう仕組むので、答えられなくて劣等感をもつ生徒はいません。

生徒をアニメの登場人物に見立てて質問をする“Today you’re Sazae-san!”という活動は、生徒から好評です。「サザエさん」「ルフィー」「ミッキー」「ハローキティ」など何でもありです。“Do you have any brothers? ” “What do you want to be in the future? ”(期待する答えは、“I want to be the king of pirates. ”)など質問を浴びせます。ぜひお試しください。

やらせっぱなしにしてしまう

家庭学習と授業をリンクさせることがとても大切です。What Am I? のクイズづくりやスピーチのスクリプトづくり、ビンゴシートの準備など、やってきたほうが授業がわかりやすく、おもしろくなるというような課題を出してみてはいかがでしょうか。 生徒がやってきた課題をグループ内で回し読みをし、共有し、アドバイスをし合うことで、次の課題へのモティベーションを高めさせることができます。やらせっぱなしにするのはもったいないことです。最大限活用しましょう!

「好きこそ物の上手なれ」ということわざどおり、英語が好きであれば、生徒は自分から課題に意欲的に取り組み、モティベーションを高く保ったまま授業に取り組むという好循環が生まれます。宿題をやってこない生徒を叱ることはよしとしても、叱り続けることは生徒、教師どちらにとってもいいことはありません。ましてや、宿題をやってこないからわからないんだというのは本末転倒です。授業が勝負であることは忘れないでおきましょう。

先ほど紹介した「マイテー」を裁断機で半分にしたものを「ハーフマイテー」と呼び、さらに半分にした物を「クオーターマイテー」と呼んでいます。とても疲れていたり、やるべきことが重なってにっちもさっちもいかなかったりしている生徒に救済策として与えています。あくまでもこちらの土俵で相撲を取ってもらうという作戦のひとつです。生徒は「さすがにこれをやらなかったらダメでしょ」という気持ちになるようです(笑)

※1 千田潤一 ……英語教育コンサルティング会社アイ・シー・シー代表取締役。

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