臨時休業中の学習に「成功した生徒」「失敗した生徒」 【第2回】

2020年8月7日公開

広島県福山市立福山中・高等学校教諭  上山晋平

今回は、臨時休業中の学習における「失敗例」や「自学で不安だったこと」に関して、その対応策を考えます。以下は、多くの生徒から回答のあった項目です。

「失敗例」および「不安だったこと」

  1. 学習計画を立てられない。または、計画を立ててもそれが具体的ではない。
  2. 生活習慣や学習環境に問題がある。
  3. 勉強へのやる気が出ない、集中できない。
  4. リスニングの学習のしかたに不安がある。

本稿では、上記1~3の「学習マネジメント」に関連する話題を取り上げます。4の「学習内容や方法」関連のものは、次回扱うこととします。

1~3の失敗例は、かなり多くの生徒に関連する内容であり、昔から続く時代を超えた課題といえるものかもしれません。こう考えると、私たちはこうした「自学の壁」を乗り越える策を共有すべきときにきているといえそうです。

私はこれら1~3の、学習の「やる気」や「継続」に関する突破口は、「ARCS(アークス)モデル」が参考になると考えています。これは、アメリカのジョン・ケラーという教育学者が提唱したもので、学習意欲に関する多くの理論と実践知を整理すると、学習意欲を高めるには次の4つに整理できる、としたものです。

Attention (注意:おもしろそうだ)
Relevance (関連性:やりがいがありそうだ)
Confidence (自信:やればできそうだ)
Satisfaction (満足感:やってよかったな)

※ARCSモデルの4つの側面(『学習設計マニュアル』鈴木克明・美馬のゆり 編著)

このモデルを活用すると、勉強しない生徒に対して、単に注意するのではなく、彼らの学習意欲を高めるためにどうすればよいかを分析して指導することができます。さらには、このモデルを生徒自身に伝え、生徒自身が自分の学習意欲を高める手立てを考えるよう促すこともできます。自らの学習面での弱さの原因やそれに対する対策を考えて実行できる生徒、これは今求められる「自己調整学習者」(自己の学習過程に対して能動的に関与する学習者)に近づくきっかけになるといえるかもしれません。

さて、ここからは、後述の参考文献をもとに、ARCSモデルを「生徒自身」が活用するためのヒントをご紹介します。それぞれA1、A2、A3のように3つずつの下位項目に分類されています。

Attention(注意:おもしろそうだ)

「注意」は「おもしろそうだ」「何かありそうだ」と思う側面です。好奇心を刺激したり、退屈しないように変化を加えたりするなどの工夫をするのが効果的とされています。(A1やA3は「一過性の学習意欲」とされています。注意を維持するためにはA2などの方法も必要となります。)

A1:興味を引く (知覚的喚起)

□文字だけの学びでなく、視聴覚を刺激する興味のある動画を見てみる。
□眠気防止の策を練るか、睡眠をとって学習に臨む。

A2:好奇心を刺激する (探究心の喚起)

□「なぜだろう」「どうしてそうなるの」という疑問を設定して追求する。
□問題を最初に見て「答えを知りたい」という気持ちを湧かせる。

A3:マンネリを避ける (変化性)

□ときおり勉強のやり方や環境を変えて気分転換を図る。
□ダラダラやらずに学習時間を区切る。

Relevance(関連性:やりがいがありそうだ)

関連性は、「やりがいがありそうだ」と思う側面です。人は、「好き」ではないうえに「学習の意義」がわからないときには、「なぜこれを学ばないといけないの?」と自問してしまいます(よくあるのは、「なぜ英語を勉強しないといけないの?」という問い)。逆に、その学習が好きで、学習内容や活動に対して「よい結果につながりそうだ」「やる価値がありそうだ」(意義、価値)と自身とのつながりを見出すことができれば、「関連性」を高める有効な方法といえそうです。

R1:目標に向かう (目的志向性)

□その学習内容を習得するメリット(有用性や意義)を考える。
□主体的に取り組めるようにする(やりがいのある目標を設定するなど)。

R2:好みに合わせる (動機との一致)

□自分の得意な、やりやすい環境や方法、ペースを選ぶ(個or集団学習等)。
□学習自体が楽しくなる工夫をする(友人と学習、好きな人に質問など)。

R3:自分の味付けにする (親しみやすさ)

□学習内容と自分の経験やこれまでに学習したことを結び付けてみる。
□説明を自分なりの言葉で(どういうことか)言い換えてみる。

Confidence(自信:やればできそうだ)

「自信」は「やればできそうだ」と思う側面です。頑張ればできるという期待が持てること、そして自分が努力したからできたと思えるかどうかなどを考えます。「自分にはできないかも」「課題は達成できるか不安」と思っている生徒を学習に向けるのに有効な方略です。「自分ならできる」と思うことを「自己効力感」と呼び、自己効力感が高い人は、学びを工夫しようとする傾向が高まるとされています。

C1:成功への期待感を持つ (学習要求)

□あらかじめ具体的なゴールを決めて、努力の方向性を意識する。
□できることとできないことを明確にし、ゴールとのギャップを確かめる。

C2:一歩ずつ確かめて進む (成功の機会)

□他人とでなく、過去の自分との比較で、進歩を認めるようにする。
□最初はやさしいゴールで自信をつけ、頻繁な中間目標で進捗確認する。

C3:自分で制御する (コントロールの個人化)

□やり方を自分で決め、「自分の努力で成功した」と言えるようにする。
□うまくいった仲間のやり方を参考にして、自分のやり方を点検する。

Satisfaction(満足感:やってよかったな)

「満足感」は「やってよかった」と思う側面です。これまでのARCが「行動に至るための動機づけ」であるのに対して、Sは「行動の結末から次につながる動機付け」となります。頑張った結果が無駄にならないようにすることや、褒められることが満足感につながります。S1は内発的に、S2は外発的に満足感が得られるものです。最初は外発的に、徐々に内発的になることもあります。

S1:ムダに終わらせない (自然な結果)

□努力の結果を、自分の立てた目標に基づきすぐにチェックする。
□身についたことを使ってみる(現実に生かす、他の人に教える 等)。

S2:褒めて認めてもらう (肯定的な結果)

□困難を克服してできるようになった自分に何かプレゼントを考える。
□喜びを分かち合える人に励ましてもらったり、褒めてもらったりする。

S3:自分を大切にする (公平さ)

□他の人がどうかでなく、ゴールインした自分を素直に喜び、満足する。
□自分に嘘をつかず、終始一貫性を保つ(ゴールをあれこれ変えない)。

上記のARCSモデルを見てわかるのが、前回ご紹介した「成功した生徒が取り入れていた学習の工夫(分類)」と多くが重なるということです。比較してみると、次のようになります。

学習で成功した要因分類(第1回で紹介) ARCSモデル(第2回・本稿で紹介)
(1)「学習内容」をリストアップする C1(学習要求:具体的なゴールの設定)
(2)「学習時間」や「開始時刻」を決める A3(変化性:マンネリを避ける)
(3)「学習環境」を整える R2(動機との一致:好みの環境を選ぶ)
(4)学習の「目的や目標」を決める R1(目的志向性)、C1(学習要求)
(5)成功の「ご褒美」を決めておく S2(肯定的な結果:自分にプレゼントを考える)
(6)学習を「継続」する工夫をする C2(成功の機会:進捗度の確認)
(7)「学習動画」を活用する A1(知覚的喚起:興味ある学習動画の視聴)
(8)「他者の力」を借りる R2(動機との一致:学習の好み、楽しくなる工夫)
(9)飽きないように「気分転換」する A3(変化性:やり方や環境を変えて気分転換)
(10)毎日の「振り返り」をする S1(自然な結果:努力の結果を確認)

ARCSモデルにあって生徒の成功例の分類に入っていなかったものはいくつかありますが、そのうち、R3(親しみやすさ)、C3(コントロールの個人化)、S3(公平さ)については、上記の成功事例と重なるものがあります。今回の分析で、A2の「好奇心を刺激する」(探究心の喚起)については少し足りない部分であるとわかったので、今後はA2の「知りたい」「なぜだろう」「どうしてそうなるの」と生徒が疑問を設定して追求する姿勢を誘うことが必要になりそうです。

生徒に紹介する際は、次のようにするとよいでしょう。

  1. 第1回の「成功例」と第2回の「失敗例」を紹介し、自分に当てはまりそうなものを選択してもらう。
  2. それぞれの弱点を補う工夫(成功例やARCSモデル)を紹介する。
  3. 生徒はその中から自分自身に取り入れたいものを選んだり、少し変化させて自分好みに変えたりして実行してみる。

ARCSモデルについてより詳しくは、以下の参考文献をご覧ください。3冊ともおススメです。幅広い観点で生徒の自学を支える理論や実践の知見が紹介されていて、目からうろこの情報が満載です。

【参考文献】

『学習設計マニュアル』鈴木克明・美馬のゆり 編著(北大路書房)

『インストラクショナルデザインの道具箱101』鈴木克明 監修(北大路書房)

『「やる気」を科学的に分析してわかった小学生の子が勉強にハマる方法』菊池洋匡・秦一生 著(実務教育出版)

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