臨時休業中の学習に「成功した生徒」「失敗した生徒」 【第3回】

2020年8月24日公開

広島県福山市立福山中・高等学校教諭  上山晋平

今回は、「リスニング対策」について取り上げます。
臨時休業後のアンケートで、「臨時休校中に不安だったこと」や「休校明けに聞きたいこと」について生徒にたずねたところ、リスニング関係の回答が多数ありました。
リスニングへの関心の高まりは、おそらく「4技能」への関心が増しているためだと思います。また、リスニングはふだんの定期テストだけでなく、模擬試験や英語検定などの資格試験、さらには、高校入試や大学入試などでも必要です。生徒の関心も必要性も高いリスニングについて、一緒に考えてみましょう。

リスニングの5つの壁

―リスニング力アップに向けて克服すべき5つの壁とその対策―

生徒から、「リスニング力はどうやって高めたらいいですか?」と質問があったときに、どのように答えたらよいでしょうか。
効果的な対策を考えるには、本質的な原因を特定することが不可欠です。私がまず生徒に伝えているのは、「リスニングには5つの壁(障害)がある(これらが聞き取れない原因)」ということです。

リスニングの「5つの壁」

①単語力がない
②読解力がない
③スピードについていけない   
④形式に慣れていない
⑤聞くことに慣れていない

つまり、リスニング力を高めるには、「聞く回数」を単に増やすだけではなく、これら5つの壁を乗り越える工夫をする必要がある、ということです。

生徒には、次のようなポイントを板書しながら伝えるとよいでしょう。

①単語力(意味だけでなく、発音とスピードを伴う。)
②読解力(文法力を含む。読んでわからないものは、聞いても分からない。)
③スピード(速く読めるようになると、速いものが聞こえるようになる。)
④形式演習(問題の形式に慣れる必要がある。)
⑤多聴(集中してできるだけたくさん聞く。)

それでは、具体的に授業で生徒にどのように説明すればよいか、一つずつ見ていきましょう。

①単語力(意味だけでなく、発音とスピードを伴う。)

まず、「単語力がないとリスニングできない」ことは、皆さん納得だと思います。ここでいう単語力とは、意味だけでなく、「発音」と「スピード」の両方を含むものです。正しい発音で覚えてないとその音は聞き取れないし、単語の意味がすぐに分からないとリスニングにはついていけません。

教師  「dog」
生徒  「犬」
教師  「Good morning」
生徒  「おはよう」
教師  「diversity」
生徒  「……」

diversityとは「多様性」という意味です。皆さんもこの単語をカタカナで言われたら分かる人もいると思います。しかし、意味だけでなく、正しい発音と瞬間的に意味が分かるスピードがそろってはじめてリスニングに使える単語力になるのです。

発音とスピードを伴った単語力をつけるためのポイントを3つお伝えします。
1つ目は、「単語は発音と一緒に覚える(CDなどの音声を使う)」ということです。これは今見たとおりの理由からです。
ちなみに、diversityという単語を聞きたいときは、Youglishというサイトがおススメです。
このサイトは発音を学ぶのに秀逸で、自分が知りたい単語を入力すると、その単語をネイティブが発音している動画がたくさん出てきて、発音を確認できます。人によって異なる発音を楽しんだり、スクリプトまで一緒に出したりしてくれます。

2つ目は、「発音の3変化(かきく)を学ぶ」ことです。単語は単語どうしでくっつくと「変化」して聞こえます。変化をまとめると、次のように3つになります。

(か) わる音:なめらかに  He’s out.
(き) 
える音:末尾が消えて  just now
(く) 
くっつく音:つなげて  in an hour

 音の変化は「かきく」、これは覚えておくと役立つ場面も多いでしょう。

3つ目のポイントは、「ディクテーション」です。ディクテーションとは、「聞いた英語を書き取る」ことです。ディクテーション練習をして「自分が書き取れないところ」=「自分が聞けないところ」です。うまく聞き取れなかった部分を、文字を見ながら聞いて確認します。その部分を文字を見ながら音読してみて、再度文字なしで聞いて確認すると、正しく聞き取れるようになっている部分が増えるでしょう。こうして一つずつ自分の耳で聞き取れる音を増やしていきます。

②読解力(文法力を含む。読んでわからないものは、聞いても分からない。)

リスニング力アップに向けた2つ目の壁は「読解力」です。これは文法力も含みます。ここでいう文法力とは、「一文を正しく書くルール」であり、その一文がたくさん集まった文章を読み取る力を「読解力」とします。

英文(スクリプト)を読んでわからないものは、当然聞いても分かりません。
そこで、リスニング力アップには、「単語力」や「文法力」を付けて、文章の読解力を鍛える必要があります。リスニングでは、リーディングと違って同じ文を何度も読み返すことはできません。そこで、「英文は前から(左から右)順に理解する(返り読みをしない)」ことがポイントとなります。

少し長い文だと、スラッシュなどを引きながら前から意味をとる練習をするのが効果的です。

 スラッシュを引く箇所は、次のように「セギフゼン」を1つの目安としてもよいでしょう。
(慣れてきたら、だんだん長くして、上級者になるほどスラッシュは不要になる。)

セ 接続詞の前 

 I was very happy / because we won the baseball game. 
(私はとても嬉しかった/なぜなら野球の試合に勝ったから)

ギ 疑問詞の前 

 Could you tell me / where the post office is?
(教えてくれませんか/どこに郵便局があるのか)

フ 不定詞の前 

 Let’s go to Hiroshima stadium / to watch a baseball game.
(広島スタジアムに行こう/野球の試合を観るために)

ゼン 前置詞の前 

 There is a convenience store / in front of the post office. 
(コンビニがあります/郵便局の前に)

「長文読解(リーディング)の練習もリスニング力アップにつながっている」と生徒に分かってもらうと、各技能を伸ばすことが他の技能のアップにもつながるという意義が伝わるかと思います。

③スピード(速く読めるようになると、速いものが聞こえるようになる。)

次は、リスニングにおける「スピード」の大切さです。ゆっくりなら聞き取れるけれど、スピードが速くなると聞き取れない、しかも文章が長くなればさらに難しい、という場合の対策です。

速いスピードのリスニングできるようにするにはどうしたらよいでしょうか。ここでは野球の練習方法が参考になります。たとえば120キロの球が打てないからと言って、100キロの球ばかりでバッティング練習をしても、120キロの球は打てるようにはなりません。逆に、120キロの球が打てないのなら、130キロの球で練習するか、同じ120キロでも距離を近くにして早く見える状態で練習するのが効果的です。速いスピードに目が慣れると、それまでのものが遅く見えるのです。

これはリスニング練習でも一緒です。速い英文を聞き取れるようになるには、自分が速く読めるように練習をするのです。そのためには、「速音読」という練習法が有効です。速音読とは、「英文の意味を理解しながらできるだけ速く音読すること」です。不思議ですが、自分が速く読めるようになると、速い英語が聞こえるようになります。

速音読する際のポイントは、次の「文字、意味、音」の三角形を意識することです。
通常、速く読もうとすると、①(文字)→③(音)のように、読んだ英文を音声化しがちです。

画像、速音読の図1

しかし、速音読で大切なのは、「意味」を取りつつ速く音読することです。そのため、次の図でいうと、①「文字」を見て、②「意味」を介して③「音声」化するように意識します。

画像、速音読の図2

このことは生徒には活動のたびに板書するなどして、何度も伝える必要があります。

速音読の練習を楽しく続けるには、教科書などですでに習った文章を、ストップウォッチを使ってゲーム感覚で練習をするとよいでしょう。毎回、何秒で読めたか記録を取って自己更新を目指すのです。
ただ、速音読の際にも、発音が崩れないように意識しなければなりません。音声は、「5つの壁」の1つ目で見たように大切だからです。

正しい発音をまねしながら抑揚などもうまくなるには、「シャドーイング」もおススメです。これは、聞こえた英語の少し後を、文字を見ずに言う練習です。生徒には「0.1秒遅れて聞こえた英語を言いましょう」と伝えるとイメージしやすいようです。

④形式演習(問題の形式に慣れる必要がある。)

以上①~③の練習を通してリスニングの土台を鍛えると同時に、実際の得点アップにつなげるには、いろいろな出題タイプに慣れる必要もあります。慣れないとやり方が分からずに得点は伸びません。
リスニング力アップのために、この④の形式練習だけを行いがちかもしれませんが、ここまで見たように、リスニングの土台となる①~③の練習もとても大切なことを再度確認しておきたいと思います。
この部分と関連する「リスニング問題を解くコツ」などについても(「先読み」など)、後述したいと思います。

⑤多聴(できるだけ集中してたくさん聞く。)

リスニング力アップにはやはり「たくさん聴く」(多聴)ことが必要です。このときもただ英語を聞くだけでなく、できるだけ意味を取ろうと意識しながら聞くことが大切です。
洋楽を意味を考えずに楽しんで聞くだけでは、リスニング力アップにあまり直結しません。歌詞を見ながら音声の変化を確認したり、意味を考えたり、音読したりといろいろな工夫をするとよいでしょう。
今なら、インターネットなどで自分の好きな動画を英語で見るなどもよいでしょう。

私が生徒によく伝えるのは、自分の実体験です。簡単に毎日多聴できて、リスニング力アップにつながる方法です。以下のようにします。

  1. 教科書CDなどを準備する。
  2. それを朝のアラームが鳴る30分前くらいから自動で流れるようにセットする。

(たとえば、朝6時に起きるなら、5時半からずっと流れるようにCDプレイヤーなどで設定する。)

  1. 起きる30分くらい前から流れる英語を(半分眠りながらでも)毎日聞く。
  2. 数か月たつと、聞き取れるようになる英語が増えてびっくりする。

私は、「3か月で耳は変わる。4技能の中でリスニングがいちばん短期間で伸びやすい。留学してもそう。」と生徒に伝えています。

リスニング演習の心得

最後に、④の形式練習の一つにもつながる、「リスニング演習の心得」も紹介させてください。これらのコツを知ることで、得点アップにつながりやすくなり、得点が出るとさらに生徒はリスニングに自信をもって好きになるきっかけになります。生徒に伝えたいのは、次の4つのコツです。ここではポイントだけ箇条書きでご紹介します。

ア)先読み!
イ)問題用紙に印!
ウ)数字はメモ!
エ)イメージしつつ聞く!

リスニング問題への具体的な対応策

ア)先読み!

・放送前に「質問と選択肢を先読み」する。

(ポイントは、「5W1H」(人物、場所、行動等)を放送前にできるだけ押さえておくこと)

・問題文が2回読まれる場合は、次のようにする。

「(設問アナウンス中に)選択肢の先読み」する→放送1回目に解答する→方法2回目に解答を確認する(安心)→解答時間に次の問題の先読みをする」(遅れたら1問捨てて立て直す)

イ)問題用紙に印!
・質問や選択肢の「キーワード(名詞・動詞)」に○印をつける。
・選択肢の「共通点や相違点」に○印をつける。

ウ)数字はメモ!
・年・日付・時間・少数・分数などの数字 
・計算問題もあり 
・-teenと-tyに注意(thirteen/thirty)
・必要なキーワードはメモする(メモは早くシンプルに)

【メモ取りのポイント】
・メモは、「早くシンプルに」(すべてをメモはできない。ポイントだけを素早くメモする)
・そのために「頭文字」(M、ま、数字)や「→・=」の記号を使う(動詞など)。
・質問はメモしなくていい。答えをメモする。

エ)イメージしながら聞く!
・状況や登場人物を予想しつつ、視覚的にイメージしながら聞く。
(これができると頭で訳す必要がなくなる=リスニング上級者のイメージ)

生徒さんへの指導に役立てていただける情報が何かあれば幸いです。
臨時休業3回シリーズは、これで最後です。お読みいただき、ありがとうございました。

【参考文献】

『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 中学校外国語』国立教育政策研究所

『45の技で自学力をアップする! 英語家庭学習指導ガイドブック』上山晋平 著(明治図書)

掲載された記事および画像の無断転載を禁じます。