【第1回】感染予防に配慮したコミュニケーション活動の提案

2020年6月17日公開

東京成徳大学助教  土屋佳雅里

たった数か月で一変してしまった世の中

新しいウイルスの出現により、これほどまでに社会が、そして社会の一環である学校教育が変容を余儀なく求められている現状を、誰が予測できたでしょうか? くしくも、4月に全面実施となったばかりの新学習指導要領には、次の願いが込められています。「これからの社会が、どんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい」。今まさに起こっている予測困難な事態の下で、いかに自ら学び、考え、判断して教育を実行するのか? 子どもたちの目の前で、まずは教師が見本をみせるんだということを試されている気もします。新学習指導要領には、「感染予防に配慮した学習活動を」などというくだりは、一言もありません。これは、私たち教師にとって、早速到来した新しい時代にふさわしい、新しい教育への挑戦なのです。

そこで本稿では、「感染予防に配慮したコミュニケーション活動」という新しい課題について、その基本情報や、活動の具体案などを数回にわたってお伝えいたします。

第1回 「感染予防に関するガイドライン」ポイント解説

学校教育での感染予防に関する最新のガイドライン  

すでに出来上がっている2020年度学習指導計画に、新たに感染症予防に配慮したコミュニケーション活動を加味するとき、はじめに押さえたいルールが学校教育における感染予防に関する最新のガイドラインです。

以下の文部科学省のページでは、学習活動での感染予防のためのガイドラインのほか、関連する情報が随時確認できます。

上記ページ内の「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(2020.6.16 Ver.2)」を見てみましょう。

「第3章 具体的な活動場面ごとの感染症予防対策について 1.各教科等について」(p.36)では、各教科における「感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」として6例を挙げています。小学校外国語に特化した具体例はありませんが、6例をまとめると、感染予防策として、以下の2つの制限を考慮した活動が求められることになるでしょう。

◆6例に共通する2つの制限

【距離】近距離での活動(児童の密集、接触など)、長時間にわたり対面形式となるグループワークなど。

【声】近距離で、一斉に大きな声で話す活動など。

また、学習指導計画を見直す際、以下のページの資料もあわせて参照したいものです。

上記ページ内「学校の授業における学習活動の重点化に関する資料」欄の「学校の授業における学習活動の重点化に係る留意事項等について(通知)」には、長期休校や分散登校などの影響による学校での学習活動の重点化にあたり、その考え方や留意点、教科ごとの具体例などが示されています。

参考)小学校第6学年外国語の具体例(p7)

⑩外国語

○音声を聞いたり、話したりすることを繰り返して、十分に慣れ親しんだ語や表現について段階的に読むこと・書くことを学習していくという、外国語科の学習の特質を踏まえ、「聞くこと」、「読むこと」、「話すこと[やり取り][発表]」、「書くこと」の各領域の言語活動については学校の授業で取り扱うことが基本となる。

○その上で、例えば QR コード等で動画や音声の視聴ができない児童への 配慮を行った上で、教科書記載の QR コード等を活用して、学校の授業以外の場で、動画や音声を視聴して、概要をとらえたり、わかったことを書いたりして、次の授業の活動につなげることが考えられる。

○また、学習した表現等を繰り返し使うという外国語の学習の特徴を踏まえ、ある単元で学習する予定となっている学習内容の一部を、別の単元の授業の中で指導するといった工夫が考えられる。

ガイドラインを踏まえた、感染予防を配慮するコミュニケーション活動の工夫とは

学習活動における感染予防のためのガイドラインを踏まえた上で、次の課題は、「実際どのようにコミュニケーション活動を工夫していけばいいのか?」という活動の代替案作りになります。具体的な案を考えるとき、以下の3つのポイントを念頭においてみてはいかがでしょうか。

  1. 活動が本来の目標や評価規準から外れないように。
  2. 感染予防の配慮が必要とされるコミュニケーション活動は一部のみ。
  3. 感染予防が困難な活動を外すというのも一つの考え方。無理して行わず、そのときに実施可能な活動を行う。

ここでは、小学校英語教科書『Here We Go! 5』Unit 1 Hello, everyone.での活動「名刺交換をして自己紹介をする」を例に挙げ、代替案の可能性を探ります。

「名刺交換」の活動は、基本的に、近距離で1対1の対面になり、互いに自己紹介をしながら名刺のやり取りを行うという流れが一般的です。そのため、感染予防の配慮が求められる制限下では、【近距離】【声】とも大きく関わってくるため、見直しが必要になる場合が多いとみられます。

(1) 活動が本来の目標や評価規準から外れないように。

既存の活動に何らかの工夫を施すときは、何より、活動本来の目標やねらいから外れないように注意する必要があります。見方を変えれば、目標や評価規準がブレない限り、あらゆる工夫ができるということです。

光村図書が提供している「年間指導計画案」では、Unit 1 「名刺交換をして自己紹介をする」活動での単元目標は、「名前や好きなものを言って、自己紹介をすることができる」、「新しいクラスの友達と仲良くなるために、自分や相手の名前のつづりや好きなものを聞いたり伝え合ったりするとともに、名刺を作って自己紹介をすることができる」となっています。

ガイドラインに沿うと、「言う」「伝え合う」という【声】の部分に見直しが求められそうです。「言う」「伝え合う」ことを外さない活動の工夫がほしいところです。

画像、年間指導計画資料

年間指導計画案(2020.6.18更新)

評価規準も見てみましょう。例えば「書くこと」の領域なら、「新しいクラスの友達と仲良くなるために、アルファベットの活字体や I like.... などの表現を用いて、自分の名刺に名前や好きなものを[書いている。《思・判・表》/ 書こうとしている。 《態度》 ]」になります。「書くこと」に関しては、ガイドライン上の制限はなさそうです。

画像、年間指導計画資料

年間指導計画案(2020.6.18更新)

(2) 感染予防の配慮が必要とされるコミュニケーション活動は一部のみ。

先に述べたように、ガイドラインでは、学習活動において、【距離】【声】の制限が求められています。とはいえ、既存の全ての活動を変更する必要はなく、【距離】と【声】に関連する一部の活動のみになります。変更の度合いも、目的とねらいに影響がない範囲での調整です。各Unit の個々の言語活動が、配慮の必要がある活動ならば代替案を検討するという流れになります。

Unit 1では、「名刺交換をして自己紹介をする」活動は代替案が必要になりますが、文字指導は個々で行う活動になり、また、デジタル教材を使用する内容の聞き取りや理解などの活動は、「先生 対 児童」の「1人 対 全員」の活動になるため、ガイドラインの制限上は問題なく、変更する必要はありません。

画像、単元系統一覧表

『Here We Go!』単元系統一覧表(5年)

(3) 感染予防が困難な活動を外すというのも一つの考え方。無理して行わず、そのときに実施可能な活動を行う。

外国語科の指導内容は、学習指導要領の外国語科の目標「……コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成する」ことを目指すための言語活動が主ですから、学習内容の中心はコミュニケーション活動です。児童どうしの密なやり取りがふさわしいコミュニケーション活動も多々あり、感染予防がどうしても困難で、代替案に苦心する場合が出てきます。そのような活動は、無理して行わないのも一つの手です。その時点で実施可能な活動を行う考え方でいいと思います。

外国語をめぐる言語活動は、【近距離】で【声】を出すことに重きをおくコミュニケーション活動だけではありません。例えば、「Story」、「文字遊び」、「英語の物語」など、外国語という言葉そのものとむきあう大切な活動があります。単元の中でいえば普段はあまり時間をかけられないような活動にスポットを当てるチャンスではないでしょうか。静かな教室、学習環境で、じっくりと言葉の世界に浸る……昨今の指導の流れからすると、もしかしたら今は貴重な時間に成り得るかもしれません。

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今回は、感染予防に配慮するコミュニケーション活動の工夫として、「名刺交換」の活動を例に挙げながら、3つのポイントをもとに代替案の可能性を考えてきました。

では、具体的に、どのように代替案をつくっていけばいいのでしょうか。

例えば、「名刺交換」なら、制限がかかりそうな、「近距離で1対1の対面」での名刺のやり取りの部分を工夫すればいいですね。そこで、普段の一斉授業における先生と児童との距離感を基準に、「児童1人 対 全員」に置き換えることで、感染予防に適した距離を保つことができます。さて、「1人 対 全員」の「名刺交換」とは、どのような活動を思い浮かべますか? 次回は、この「名刺交換」をはじめ、代替案を具体的に紹介していきます。


Illustration: Kagari Tsuchiya

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