【第2回】「名刺交換」をはじめとする カードのやり取りを行う活動での工夫

2020年7月15日公開

東京成徳大学助教  土屋佳雅里

地域によりますが、学校が再開して1か月少々たち、感染予防に配慮した学校生活に、教員も児童も多少は慣れてきた頃ではないかと思います。実際に、配慮下で学習を進めてみてはじめて、「この活動まではOK」「この動きはやめたほうが無難だ」など、現実的な「線引き」がみえてきたのではないでしょうか。筆者は、学習支援している小学校で、学校再開後3コマを終えたあたりから指導の上での線引き加減がわかってきた気がします。

さて、今回は、そのような経験もふまえながら、感染予防に配慮する必要のある活動について、代替案の一例をご紹介します。
以下は、「名刺交換」をはじめとする、カードのやり取りを行う活動での工夫です。

Unit 1 Hello, everyone.  言語活動「名刺交換」 (所要時間の目安 30分)

カードのやり取りを行う活動においては、近距離でのやり取りが感染予防の配慮が必要な部分になります。そこで、「近距離で1対1の対面」でのやり取りを、普段の一斉授業における先生と児童との距離感を基準に、「児童1人 対 全員」に置き換えた活動に変更します。一例として、ワークシートを用いる名刺交換の活動をご紹介します。

【Goal】
名前や好きなものを言って、自己紹介をすることができる。

【評価規準(例)】 
新しいクラスの友達と仲良くなるために、アルファベットの活字体やI like....などの表現を用いて、自分の名刺に名前や好きなものを[書いている。《思・判・表》 / 書こうとしている。《態度》]

準備するもの 

【先生】
・ワークシート(クラスの人数分)
※学習指導書セット内ワークシート
 「Unit 1 Jump!」(p10)

・大きめの箱(1個)
※中身が見えない箱、
 手を入れられる穴を作っておく。

【児童】
・はさみ
・色鉛

画像、ワークシート
学習指導書セット内ワークシート Unit 1 p10

◆手順と教室英語(例)

T = teacher、 S = student

(1)自己紹介の見本を見せる 

先生が作った名刺を使って、見本の自己紹介をします。

T:Hello! I’m Kagari.

I like chocolate.

Nice to meet you.

《Point》 

・見本の名刺は、書画カメラ等でモニター画面に大きく映し出すとわかりやすいのでおすすめです。あるいは、A4サイズ程度に拡大した名刺を見せてもいいですね。 

(2)ワークシートで名刺を作る

ワークシートを配り、児童は各自で名刺を作ります。児童の好みによりますが、色鉛筆を使って、カラフルに仕上げてもいいことにします。  

T:Take one sheet, please.

(名刺を提示し、書く場所を指しながら)

Write your name in Romaji. Write “I like ○○.”

(イラストを描いたり、色鉛筆を使ったりするジェスチャーをしながら)

You can draw illustrations. You can color the cards. Are you ready?

《Point》 

・児童はローマ字を3年生国語科で学習済みですが、充分に定着しているとはいえず、5年生の時点でローマ字の読み書きができていないことは大いに考えられます。アルファベットを書くときには無理強いをしないこと、書く文字数や内容に無理がないよう配慮することが大切です。ローマ字で書く部分(名前、好きなもの)は、教科書 p23、25、あるいは、ワークシート(p5, 7)に書いたものを見ながら、写し書きをするといいですね。  

・なお、今回の活動で使用する名刺は1枚ですが、ワークシートには6枚分の枠が用意されています。作る枚数は1枚だけでも、6枚全部書いてもOKとします。「1枚作るのがやっと」という児童、「たくさん作って、その中からとっておきの1枚を選びたい」という児童など、それぞれのペースにあわせてよいと思います。

(3)児童から名刺カードを1枚ずつ集める

児童は名刺カードを書き終えたら、作成した名刺カードからお気に入りを1枚選び、はさみで切り取ります。先生は教室内を巡回し、切り取った名刺カード1枚を、箱の中に集めます。

T:Cut your best name card out with scissors.

I’ll collect your best name cards. Put your cards in this box.

《Point》 

・箱の中に名刺を集めるときは、先生と児童の間で、小声でも、“Here you are.”“Thank you.”のやり取りを行うといいと思います。配慮下ではありますが、無言でのやり取りは避けたいものです。

(4)箱の中から1枚選び、自己紹介を行う

名刺カードを回収後、児童全員の前で箱の中からランダムに1枚を取り出し、書画カメラで提示して全員に見せます。“Whose card is this?(誰の名刺カードですか?)”のように、児童に問いかけ、全員で誰の名刺カードかを確認します。または、名刺カードを箱から取り出した後、“I like …”と好きなものをヒントに、誰の名刺カードかを当ててもいいですね。
名刺カードを作成した児童は、席に座ったまま、その場で自己紹介を行います。時間の許す限り、名刺カードを選んで自己紹介を行うことを繰り返します。

S:Hello! I’m ~. I like ~. Nice to meet you.

《Point》 

・活動後は、集めた名刺を大きめの画用紙等にクラス全員分が一覧できるように貼り、教室の壁等に掲示するといいですね。また、可能なら、全員分の名刺を貼った用紙をカラーコピーして配ると、クラス全員の名刺が手に入ることになります。通常の名刺交換は 「近距離で1対1の対面」で行うため、せいぜい5名ほどのやり取りになりますが、「児童1人 対 全員」で行うことで、実物の交換ではありませんが、名刺を介した全員との自己紹介のやり取りができることになります。

*  *  *  *  *  *

今回のような名刺交換の方法なら、本来の、「自己紹介ができる」という【Goal】、および「アルファベットを用いて自分の名前や好きなものを書いている(書こうとしている)」という【評価規準(例)】から外れることがないため、問題ありません。ですが、規準を満たしているというだけでなく、名刺交換の先にあるもの、自分のことを言葉(ここでは英語)で表現すること、および児童どうしが英語を通してより理解し合い、人間関係を深めていくことを、どんな状況下でも忘れてはならないと思います。マスクをしていると、お互いの声を阻んでしまうという現実もありますが、マスクを通していても、声の調子で、その日の児童の様子がわかります。声は児童の心を映します。ぜひ、心の声を聞きとるようにしたいものです。

名刺交換のようなカードのやり取りを用いる活動は、他にも誕生日カード、クリスマスカードなどが考えられそうですが、いずれも、「児童1人 対 全員」の距離感を意識すれば、感染予防の配慮下でも問題なく活動を行うことができます。

今回はワークシートを用いた実物の名刺カードのやり取りを想定しましたが、もし、ICT環境が整っているなら、ICTツールを活用することで、さらに容易に感染リスクを下げることが可能です。次回は、教室内で行う、ICTを活用した感染予防に配慮するコミュニケーション活動の工夫の具体例を紹介します。


Illustration: Kagari Tsuchiya

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