生活科の評価Q&A

2020年8月4日公開

東京都大田区立松仙小学校主任教諭 松村英治

生活科が誕生して30年ほどが経ち、各学校の生活科は充実・定着してきました。小学校時代に生活科を経験した教員が増えてきたことも、その追い風になっているように思います。一方で、「実は生活科は謎の教科」という声も聞こえてくるように、生活科の本質が分かったような、分からないようなまま、何となく授業をしているという方も少なくないのではないでしょうか。さらに生活科の評価となっては、ますます謎となってしまっている現実があると思います。

新学習指導要領の趣旨を実現するためには、授業の改善はもとより、評価の改善も欠かせません。国立教育政策研究所からは、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」も刊行されました。その作成に関わらせていただいた経験やこれまでの実践を基に、生活科の評価の疑問にお答えしていきます。

なお、生活科の「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」には、「指導に生かす評価」と「記録に残す評価」という文言の記載はありませんが、今後の評価実践において必要となる考え方であり、二つに分けて捉えることが有効であると考えるため、この文言を使用してQ&Aを作成しました。

新学習指導要領と評価

今次改訂においては、全教科等の目標や内容が資質・能力の三つの柱に整理され、評価の観点も同様にこの3観点になったことが目玉の一つと言えます。しかし生活科は、新設時より3観点での評価であり、その点では他教科等と比べると大きな変更ではありません。評価方法についても、具体的な活動や体験の中での児童の姿を丁寧に見取ることが大切であることも変わりありません。しかしながら、3観点とは言っても、その趣旨には変更があるので注意が必要です。

「気付き」が「知識・技能」に、
「思考・表現」が「思考・判断・表現」に、
「関心・意欲・態度」が「主体的に学習に取り組む態度」に変わっているのです。

各観点の評価のポイントは、Q2~4を参照してください。

生活科の「知識」とは、これまでも大切にされてきた「気付き」であると言えますが、①気付きが自覚されること、②個別の気付きが相互に関連付くこと、③対象のみならず自分自身についての気付きが生まれること、という気付きの質の高まりを念頭に置いて評価することが求められます。

「技能」については、評価規準が「△△において(の際)、○○している」と設定されている(「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」p40)ことからも分かるように、特定の習慣や技能を取り出して指導するのではなく、思いや願いを実現する過程で身に付けていけるように適切に指導し、そこで現れる姿を評価することが必要となります。

「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立教育政策研究所HP)

「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」p41においては、「思考・判断・表現」の評価規準の構造を「○○して(しながら)、△△している」などとするように示されています。○○には期待する思考を、△△には具体的な児童の姿を記述し、実際の評価においては、児童の△△を見ることで○○を見取ることになります。

例えば、「楽しみたい遊びを思い描きながら、校庭や公園の秋の自然の中から遊びに使う物を選んでいる。」と設定した場合、思い描いているのは児童の頭の中なので実際に見ることはできませんが、遊びに使う物を選んでいる様子は見ることができます。その様子から思い描いていることを見取ったり、選んでいるときに理由をたずねて思いを引き出したりすることが、「思考・判断・表現」の評価をすることにつながります。

「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立教育政策研究所HP)

もっとも留意したいことは、これまでの「関心・意欲・態度」とは質的に異なる評価の観点であるということです。

生活科においては、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」p41にあるように、①粘り強さ、②学習の調整、③実感や自信、という3つの視点から評価規準を作成した上で実際の評価を行う必要があります。

評価をするにあたっては、①~③について適切な指導が行われた上で、ということが大切です。つまり、これまでの生活科の指導において、①~③の中で行っていなかった(もしくは不十分だった)ものがあれば、今次改訂を機に指導の改善をすることが求められるということです。特に②の学習の調整は、調整する学習活動が設定されなければ指導することも評価することもできません。単元の中で調整する学習活動(状況に応じて自ら働きかけようとする学習活動)を確実に設定し、児童がそれに取り組む機会を確保することから始めてみてください。

「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立教育政策研究所HP)

指導したことを評価する、評価したことを指導に生かす、という意味では、他教科等と異なることは全くありません。しかし生活科の場合には教科の特質から、教科書を使った授業よりも、児童が思いや願いの実現に向けて具体的な活動や体験をする授業の方が圧倒的に多く、「指導する=教科書を教える」と捉えてしまうと、生活科における「指導と評価の一体化」が分からなくなってしまいます。

指導とは、児童が目標に近づくための教師の関わりのすべてです。児童がおもちゃを作っているときに、自分の力で作ることができるように見守ったり励ましたりすることも指導、どうしてもうまくいかないときには助言することも指導、使えそうな材料や道具を準備しておくことも指導、ある児童のよさをクラスの前で紹介して全体に広げるのも指導です。ある児童に合わせた指導やクラスの状況に応じた指導をしていること自体が、評価したことを指導に生かしていると言えます。

さらにレベルアップするためには、その指導と評価が単元や本時の目標に合致しているかを見つめ直すとよいでしょう。目標と指導と評価に一貫性があり、それに適した学習活動が行われると、評価規準をクリアする児童も自ずと増えてくるように思います。

基本的には、教科書会社が作成している「年間指導計画・評価計画資料」を参考にすれば、過不足のないものはできますが、以下の方法で評価規準を作成することもできます。

「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編」では、各内容について、資質・能力に関する記述が明確に記載されています。例えば、内容(7)の「知識及び技能の基礎」では、「それらは生命をもっていることや成長していることに気付くとは、動植物の飼育・栽培を行う中で、動植物が変化し成長していることに気付き、生命をもっていることやその大切さに気付くことである。」とされています。他の内容も同様に、「Aという資質・能力とは、Bということである。」と具体的な記載事項があるので、その記載事項を一つ一つの要素に分割したり、さらに具体的にしたりすることにより、小単元における評価規準を作成することができます。(「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」p36~41)

令和2年度版 生活「年間指導計画・評価計画資料」

「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立教育政策研究所HP)

評価の実際

「記録に残す評価」とは、単元のある場面において、ある評価規準に基づきクラス全員の学習状況を評価し、その結果を名簿などに記録することを指します。その記録は単元末に集約され、単元全体での評価結果として学期末や学年末に活用されることになります。

「働き方改革」の流れの中で、評価の場面を精選する必要が生まれてきました。生活科においても、単元の全時間において名簿を持って回りながら細かく記録をするのではなく、学習活動がある程度進行して指導が十分に行われた段階で、「記録に残す評価」が計画的に行われることが求められます。

一方で「指導に生かす評価」とは、その他全ての評価に関わる営みを意味していると思います。次の授業を構想する上では、それまでの授業での児童の姿が基になるはずで、それが「指導に生かす評価」の一つです。また、思いの実現に向けて工夫して活動している児童を称賛したり、困っている児童に助言しながら一緒に活動したりすることもまた「指導に生かす評価」です。重要なことは、評価には二つの種類があり、意図的で計画的にそれらを行っていくということではないでしょうか。

例えば、内容(2)「家庭と生活」に関わる単元では、家族を笑顔にするために自分にできることを計画し、実践するという活動がよく行われています。この活動を3回程度繰り返し行うことを想定した場合、1回目の計画・実践・振り返りについて、「記録に残す評価」をする必要が本当にあるでしょうか。1回目は、自分の生活や自分自身について十分に見つめることなく計画する児童もいると思います。その児童は家庭で実践し、家族から言葉などをかけてもらうことにより、2回目は何をすればよいかと改めて考えるはずです。

このように試行錯誤を繰り返した結果を「記録に残す評価」として評価すればよいのであり、その過程においては、一人一人の活動の様子を丁寧に見取り(つまり「指導に生かす評価」をし)、個別に指導や支援をしたり、クラス全体での話題として取り上げたりすることが大切です。

文をたくさん書いたり絵を上手に描いたりすることができる児童への評価が高くなってしまう……というのは非常にありがちなことです。「町探検などの最後によく行われる、発表会での評価で気を付けることは何でしょうか。」ということもよく質問されるのですが、ここでもまた、声が大きくはきはきと発表できる児童への評価が高くなりがちではないでしょうか。原因としては、観察カードを書いたり発表したりする学習活動への評価規準が曖昧である(もしくは設定していない)ことが挙げられます。

「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」p46の事例では、評価規準を「モルモットの特徴、変化や成長に気付いている。」と設定した上で、この場面ではモルモットの特徴に重点を置くとしています。その場合、モルモットの特徴にいくつか気付いていればB、さまざまな視点から気付いたり、それらを関連付けたりしていたらAなどと考えることができます。

教師の朱書き(コメント)も、評価規準に応じたものが望ましいですね。「こまかくかけていますね。」ではなく、「みたりさわったりしてみたのですね。」、「ふわふわだからあったかいのですね。」などと児童の気付きを価値づけたり、「あしたはどうなっているのかな?」、「わかったらせんせいにおしえてくださいね。」などと次の活動を誘発したりするようなコメントを入れられるとよいでしょう。

「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立教育政策研究所HP)

スタートカリキュラムの評価には、①各教科等の評価規準に基づく児童の学習状況の評価、②期待する児童の姿に対する評価、③カリキュラム自体に対する評価、などがあると考えられます。

①はQ2~4、8などで述べてきたものと同じですが、入学当初であることを踏まえ、「記録に残す評価」よりも「指導に生かす評価」を積極的に行うとよいでしょう。

②は、安心して自分を発揮できているか、友達と楽しみながら関わっているかなど、スタートカリキュラムを通して一人一人が確かに成長できているかを評価するものです。あらゆる場面を通してクラスの児童一人一人を丁寧に評価し、次の関わりに生かしていくことが必要です。

もし、不安そうな様子がよく見られる児童がいたら、より積極的に関わるようにして教師との関係づくりに努めたり、その児童のよさを把握して褒めたりクラス全体の活動の中で取り上げたりするとよいでしょう。友達との関わりが十分ではない児童には、誰とどんな遊びをしたいのかをたずねて思いを把握したり、声のかけ方を一緒に考えて実際にやってみたりするなどの指導や支援が必要です。

③は、①②などを通してカリキュラム評価をするものであり、すぐに改善できることは翌日や次週の活動に生かしたり、検討が必要なことは次年度に向けた反省としてまとめたりすることが有効です。

合科的な指導とは、単元または1コマの時間の中で、複数の教科の目標や内容を組み合わせて、学習活動を展開するものです。その際の評価規準は、複数の教科の目標や内容に沿っていくつかを設定するパターンと、一つの評価規準の中にそれらの要素を組み合わせるパターンがあると考えられます。

いずれの場合においても、例えば「話し合ったら国語」、「絵を描いたら図工」というのは適切ではありません。学習指導要領に定められている目標や内容を踏まえ、どのように話し合うことができればよいのかといった目標や評価規準を明確にし、その上で学習活動を展開して指導にあたり、学習状況を評価することが求められます。つまり、合科的な指導においても、目標と指導と評価が一体化していることは必要不可欠です。

「発達と学びをつなぐスタートカリキュラム」のp27には、「自分が伝えたい「学校の大好き」「学校の仲良し」を選んで、伝え方などを考える。」という2時間の学習活動に対して、生活科1時間と国語1時間が配当されています。ここでは、学校探検を振り返って伝えたいことを選ぶことを通して、学校での生活やさまざまな人や施設と関わっていることが分かるという生活科の内容上のねらいを目指すとともに、経験したことから話題を決め、伝え合うために必要な事柄を選ぶという国語の内容上のねらいをも併せて達成することを意図しています。

表面上の学習活動だけで判断するのではなく、それを通してどの教科のどの内容が育成されるのかを見極めることが求められます。

「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム」(国立教育政策研究所HP)

通知表は、法令上の作成義務があるものではありません。各学校の判断で作成し、様式も工夫するものであることから、生活科の評価が所見であっても3段階の観点別評価でもかまいません。(文部科学省が示す指導要録の参考様式では、生活科は国語や算数と同じように3段階の観点別評価となっています。)

所見を書く場合には、生活科の目標や内容、単元の目標や評価規準に沿って書くことが大原則であり、このことは国語や算数なども同様なはずです。したがって、「学校探検の発表会では、大きな声で堂々と話すことができました。」などの記述は、個人内評価としてはあったとしても、生活科の評価としては望ましくありません。教科書の指導計画やあらかじめ設定した評価規準を基に、それを当該児童の具体的な姿に置き換えながら記述するとよいでしょう。

秋の様子に気付くことができるように校庭の秋見付けをしようと考えていたにも関わらず、授業の導入での秋への意識付けが不十分で、校庭でいろいろなものを拾ってくるのはよいものの、「どうしてそれを拾ってきたの?」とたずねても、「面白い形の石があったから。」「この枝なら戦いごっこができそうだぞ!」などとしか返ってこない……1年間で生活科の授業を105時間(102時間)行っていれば、このような授業になってしまうことも少なくないと思います。

しかしながら、「多くの児童の姿が本時の目標に達しなかった」と捉えている時点で、「指導に生かす評価」を実施していると言えます。ただしそれを「記録に残す評価」として残すかどうかは難しいところです。先に述べた例で言えば、秋のものを一つも見付けられなかった児童はCということになってしまいます。仮に、本時において「記録に残す評価」を実施しようと計画していた場合には評価計画自体を見直し、次時以降で指導にあたった上で再度評価することが考えられます。

子どもの姿の見取り方

自分の思いや考えを書き言葉や話し言葉の中で豊かに表現することができる児童は、教師にとっては評価がしやすいだけではなく、高く評価しがちです。一方で、書いたり話したりすることが苦手な児童が何も気付いていないのか、何も考えていないのか、思いや願いをもっていないのかというと、やはりそうではないはずです。生活科の授業では具体的な活動や体験が行われるため、そのような児童も、対象に自ら働きかける姿や対象からの働き返しに応じようとする姿、そのときの表情や仕草など、言語ではない方法で自分の思いや考えを表しやすいと言えます。そのような児童については教師も言語以外の部分で見取ることができるように留意し、さまざまな視点や方法によって評価していくことが大切です。

「指導に生かす評価」と「記録に残す評価」を分けて考える必要があります。「指導に生かす評価」の場合には、毎時間の学習活動の中で一人一人と丁寧に関わり、学習状況を把握し、それに応じた指導ができるようにしたいものです。しかしながら、クラス全員を毎時間というのは難しいので、前時までの学習状況を踏まえて本時で必ず関わりたい児童を数名決めておくとよいでしょう。

一方で「記録に残す評価」は、クラス全員を評価する必要があります。カードなどの表現物があれば、授業後にそれを中心的な評価対象としつつ、授業での様子なども踏まえて評価することができます。
学習活動中の姿をクラス全員分について評価する場合には、全員を一旦Bとした上で、「このような姿があればA」というものをいくつか念頭に置いておき、Aと判断できる児童をメモしていく方法があります。もちろん、Bに達しないと判断した児童がいればその場で指導をし、その結果Bになったのであれば評価結果はBとしてよいと思います。

このような「記録に残す評価」は、各観点について単元の中で少なくとも1回、できれば複数回実施することが求められます。逆に言えば、すべての観点から毎時間評価する必要は全くありません。評価計画を作成し、それに基づいて意図的・計画的な「記録に残す評価」を行うことが大切です。

生活科では、児童の活動の多様さから以前より評価の難しさが指摘され、それに対するいくつかのポイントが述べられてきました。例えば、嶋野道弘先生(前 文教大学教授)は「長い目」「広い目」「基本の目」(※)、田村学先生(國學院大學教授)は「時間軸でつなげて見る」「空間軸でつなげて見る」「評価規準を子供の姿として具体的に明確に描いておく」といったことを挙げておられます。

1時間の授業の中で児童の姿を見ようとした場合には、両先生方の指摘の三つ目が重要だと思います。明確な評価規準を具体的にもっておくことによって、そこに当てはまる児童とそこから外れる児童が分かります。外れるといっても、教師の予想とは異なる方向性で意欲的に活動している場合や教師の想定を遥かに超えていく場合もありますが、いずれにしても評価規準をもてば、そこを軸として何らかの判断はできるわけです。これは、授業の終わりの交流場面での発言も同じです。教師の思いや願いが強すぎて教師主導になるのは避けたいところですが、教師の思いや願い(評価規準)がなければ、児童の姿を見取ることすらできません。本時の目標は何なのか、そこを明確にすることから始めてみてください。

※「長い目」…1単位時間で見るのではなく、単元全体を通して子どもの変容を見取っていく。
「広い目」…子どもの行動、作品、発言、つぶやきなどをつなぎ合わせて評価する。
「基本の目」…あらかじめ目標の実現の程度を示す評価規準を設定し、それを基本として評価に臨む。
『生活科完全マスターブックVol.3』(光村図書)より

 

松村英治(まつむら・えいじ)

大田区立松仙小学校主任教諭。平成24年度より東京都公立小学校勤務。

生活科やスタートカリキュラムの充実を目ざし、全国に向けてさまざまな実践提案を行うほか、研修講師なども多数務めている。
著書に、『学びに向かって突き進む! 1年生を育てる』(東洋館出版社)、『育ちと学びを豊かにつなぐ 小学1年 スタートカリキュラム&活動アイデア』(明治図書出版/共著)などがある。
「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム」(国立教育政策研究所 編著)作成協力者、「評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究(令和元年・生活科)」協力者などを務める。光村図書『せいかつ』教科書編集委員。

 


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