学校再開後の生活科授業で大切にしたいこと① 子どもたちの期待に応えよう!

2020年6月12日公開

東京都大田区立松仙小学校主任教諭 松村英治

文部科学省の調査によれば、臨時休業中に「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」を実施できた自治体は5%に留まっていました。残りの95%の多くの学校では、プリントやドリルを中心とした課題を出さざるを得なかったのではないかと思います。もちろん、本校もその例外ではありません。与えられた課題に進んで取り組み、期日までにやり抜くことも大切です。しかしそれは、生活科が目ざしてきた学力観とは違います。

3か月もの間、受け身の学習が多くなりがちだった子どもたちは今、頭と心と体をいっぱいに使って感じ、考え、表現し、行為する学び(生活科)の飢餓状態です。具体的な活動や体験を通して学ぶ、身近な人々、社会及び自然を自分との関わりで捉えながら学ぶ、よりよい生活に向けて思いや願いを実現しようとしながら学ぶ、そして、自立し生活を豊かにしていくための力を身に付けるといった生活科授業を待ち遠しく思っているはずです。学校再開後は、子どもたちのそのような期待に応える生活科の授業づくりを目ざしたいものです。

しかしながら、今後も感染拡大を防ぐために「三密を避ける」などの観点から、これまでの生活科授業のイメージのままでの単元・授業づくりは難しい面が多くあるように思います。それを乗り越え、三密を避けながらも充実した生活科授業ができるように、「こんなときだからこそ生活科の授業を何とかしたい!」という思いをもっている先生方に工夫やアイデアを出していただき、それを広く共有していくことが必要です。その実現に向けて、次の三つの視点からこれからの生活科授業が抱えるであろう問題とその解決の方向性を考えてみます。

1.対話的な学びを諦めない

生活科では以前より、伝え合い交流する活動や振り返り表現する活動を重視してきました。このような活動では、ペアや小集団での会話やクラス全員で集まっての話し合いなどの充実が欠かせません。三密を避けるためにこれらの活動は一切できないと考えてしまうと、対話的な学びを諦めることになってしまいます。しかし、そもそも対話的な学びは、自分の考えを広げたり深めたりするために行うものです。そのため、これを実現するための方法を、寄り集まって話すこと以外に求めていけばよいのです。

例えば、校庭で秋を見つける授業を考えてみます。これまでは、授業の終わりに自分が見つけた物を話すことを通して伝え合う活動が多く行われてきました。その代わりに、小さなカードや付箋に自分の見つけた物を絵とちょっとした言葉で表現し、それを黒板や模造紙に順番に貼り合う活動を行うことが考えられます。そうすることにより、クラス全員が見つけた校庭の秋が一目で分かり、「秋って黄色やオレンジが多いね。」、「おしゃれな季節だね。」と気付きの質が高まることも期待できます。

また、貼り合ったカードを基に発表し合う際には、ICT機器を活用してカードを拡大して電子黒板に示すことも有効です。さらに、自分の意見を伝えるときには、短時間で伝えたいことを伝えられるようにジェスチャーなどの身体表現を駆使したり、聞いている児童も体を使ってリアクションをしたりすることを指導することもできます。

これらの工夫をすることは、三密を避けることができるという消極的なメリットだけではなく、学校における学習の本質であるつながりや関わりを大切にしながら、多くの子どもたちにとって学びやすく、そして学びを広げたり深めたりすることがより一層可能になるという積極的なメリットを生み出すことも可能です。

2.校外での活動の代替となる方法を考える

小学校学習指導要領の「第2章 第5節 生活」の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」の1(1)に「校外での活動を積極的に取り入れること」とあるように、地域で生活したり働いたりしている人々と関わったり、公共物や公共施設を利用したりする活動をはじめ、生活科では校外での活動を当たり前のように実施してきました。しかし今後は、子どもたちがそういった場所に直接足を運び、直接関わったり利用したりすることが難しくなる場合もあります。

その際、skypeやzoomなどを使ったオンラインでのインタビュー活動、質問したいことを手紙に書いて地域の方から返事をもらう活動、休日に家族と訪れて話を聞いたり写真を撮ったりしたことをクラスで共有する活動、公共施設などのホームページで調べて分かったことを自分たちで再現する活動など、校外での活動の代替となる方法を考えることが大切です。教材研究や授業準備を見通しをもって行い、活動の実施の可否を先方に早めに確認することも必要となってきます。

3.家庭学習でできる活動の充実を図る

これまでの生活科の実践でも、家庭生活において自分の役割を見つけて試してみたり、自分自身の生活や成長について調べたりする活動において、家庭学習を活用した単元の展開が行われてきました。一方で、臨時休業中には、家庭でできるさまざまな活動が生み出され、メディアでも紹介されていました。今、「新しい生活様式」が求められ始めています。学校においても、今後は三密を避けるために実施できない活動等を家庭学習で行うことも必要となってくると考えられます。

この場合、授業時数確保のためになんでもかんでも家庭学習に回すというのが不適切であることは言うまでもありません。特に生活科の場合は、具体的な活動や体験を通して学ぶという教科の特質があり、また低学年という段階や家庭の状況がさまざまであることも踏まえると、生活科授業で行うはずの活動を一律に家庭学習の場に求めることには十分な吟味が必要です。その上で家庭学習でできる活動という判断をした場合には、例えば、
 ①子どもたちが何をすればよいのかが分かるようにする
 ②活動の手順や方法、目的などを保護者に分かりやすく伝える
 ③ワークシートなどのアウトプットするツールを工夫する
などに配慮するとよいでしょう。

 

松村英治(まつむら・えいじ)

大田区立松仙小学校主任教諭。平成24年度より東京都公立小学校勤務。

生活科やスタートカリキュラムの充実を目ざし、全国に向けてさまざまな実践提案を行うほか、研修講師なども多数務めている。
著書に、『学びに向かって突き進む! 1年生を育てる』(東洋館出版社)、『育ちと学びを豊かにつなぐ 小学1年 スタートカリキュラム&活動アイデア』(明治図書出版/共著)などがある。
「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム」(文部科学省・国立教育政策研究所 編著)作成協力者、「評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究(令和元年・生活科)」協力者などを務める。光村図書『せいかつ』教科書編集委員。

 


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