
テーマ:対話を学ぶ、対話で学ぶ
学校の先生方をはじめ、保護者、教育に興味がある皆さまに向け、さまざまな情報発信をし、共に学び合える場として始まった「みつむらeduセッション」。今年のテーマは「対話」。教育のこと、子どもたちの未来のこと、いっしょに考えてみませんか。
当日の概要
日時:2024年10月26日(土)13:00~16:30
形式:オンライン開催(Zoomウェビナー)
料金:1,000円
定員:500名
対象:どなたでも参加できます
時間 | 内容 |
---|---|
13:00~13:05 | 開会 |
13:05~14:35 |
セッション1【講演】 「『自由』とは何か?」をテーマに、子どもたちが実際に本質観取に取り組む様子を動画でご紹介。授業でも家庭でも生かせる内容です。 |
14:35~14:55 |
休憩 |
14:55~16:25 |
セッション2【講演】 先生方や保護者に向けて、発達上「ちょっと気になる子」への関わり方や場づくりについてのヒントをご紹介します。 |
16:25~16:30 | 閉会 |
講師情報
苫野 一徳(とまの・いっとく)
熊本大学大学院准教授
1980年兵庫県生まれ。熊本大学大学院教育学研究科准教授。専門は哲学、教育学。著書に『親子で哲学対話―10分からはじめる「本質を考える」レッスン』(大和書房)、『愛』(講談社)、『学問としての教育学』(日本評論社)など多数。光村図書 小・中学校「道徳」教科書編集委員。
みつむらweb magazine連載:「道徳授業で哲学鍋を」
川上 康則(かわかみ・やすのり)
東京都杉並区立済美養護学校主任教諭
1974年、東京都生まれ。東京都杉並区立済美養護学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。
みつむらweb magazine連載:「通常学級での特別支援教育」「子ども理解の『そこ大事!』」
Q&A
みつむらeduセッション2024当日、講演時間内にお答えできなかったご質問(事前質問を含む)に対して、講師の先生方にご回答いただきました。
セッション1 苫野一徳先生
A.学校を、子どもたち「だけ」が学ぶ場ではなく、世代や文化、障がいのあるなしを超えた「多様性がごちゃまぜのラーニングセンター」にしていこうと提言しています。
近年、そのような学校が少しずつ登場してきました。福島県大熊町の「学び舎 ゆめの森」などもチェックいただければと思います。
A.考えを交換し合う。分からなければ尋ね合う。人はそもそも、何かを学ぶことから、社会を共に作りあうことまで、「対話」なくして生きることはできないだろうと思います。「深い学び」に限らず、「対話」はそのような人間の本質的なあり方に関わるものかと思います。
A.ニーチェは「愛せない場合は通り過ぎよ」と言っていますが、私は「愛せない場合は抱きしめよ」とも言っています。ご参考になればよいのですが。
セッション2 川上康則先生
A.先生の「脅しであったかもしれない」という気づき、とても大切だと思います。「その状況で、他に取りうる関わり方の候補があるかもしれない」と考え続けることが、不適切な関わりの予防につながるからです。
「○○をしないと、△△できないよ」という言い方を変えたいのであれば、述べる順序を逆にして、否定形を肯定形にする(「△△する人は、まず○○をします」)のはどうでしょうか。
A.私が対話するときの話になってしまいますが、目の前のお子さんの実態に合わせた発話量にとどめることを基本としています。大人はたいてい話し過ぎてしまうので、「一語文なら一語まで」「二語文なら二語まで」というルールを自分に課しておけば、余計な一言は減ります。
そして、手で操作できる教材を用いてその子の視線の向け方を確認したり、その子の理解度に合う視覚的支援を用いたりしながら、その子のことをよく見ることを大切にしています。
「想像」は、時に「憶測」「思い込み」になってしまいがちなので、そうならないように気をつけています。
A.大人側の共有や共通理解について先に述べます。「子どもの行動を丁寧に読み取ろう」、「子どもの話をよく聞こう」といったことを統一するときに、表面的には皆さんが同意したとしても、「みんなが一律に同じレベルでできるわけではない」ということに気をつける必要があります。
子どもの場合もそれに近く、「全ての子どもに一律に一斉に」というのは、管理する大人のほうは都合がよいかもしれませんが、「どの子も同じレベルでできるわけではない」ということに留意しておかないと、「できていない子に原因がある、強い指導をされても当然」という流れが簡単に出来上がってしまいます。
私は、ルール・メイキングは当事者の必要感が重要だと思っています。子どもたちが「このままだとトラブルが起きそうだから、こういうルールにしたいのだけれどもどうだろうか」という気持ちになっていなければ、ルールは、ただの押し付けになってしまうからです。
A.人の生き方や物事の捉え方が多様であるという理解は、とても大切なことだと思います。違いがあることは、社会にとって大きな強みです。みんなが同じ考え方・能力・関心であったとしたら、常に現状維持で新しいものは生まれないことになってしまうからです。これまでの学校が「同質性(みんな同じ)」を前提としてきたのではないかという反省に立つと、「多様性」はとても大切なことだと思います。
その一方で、多様性は教師からすると「しんどさ」にもなりえます。みんながバラバラだとクラスをまとめるのが難しくなります。「AさんにはAさんの事情がある」を理解し合うための対話が欠かせません。管理する側の一方的な都合で「校則」や「ルール」が厳しくならないように気をつける必要があるのではないでしょうか。
A.どの学校であっても、対話のない関係づくりはありえないと思っています。特に特別支援学級や特別支援学校では、その子なりの物事の捉え方を踏まえ、その子なりの視点を大切にしながら、丁寧に関わることが基本になると思います。
道徳に関していうと、ASD(自閉スペクトラム症)がある場合、「相手の気持ちに立って考えよう」「相手はどうしてそう考えたのだろう」といった問いが難しいことが多いようです。私自身は、その子がどれだけ全体状況や周囲の文脈を理解できているかをもとに発問を工夫することを大切にしています。
A.思い通りにならないときに、怒りや悔しさが込み上げてくること自体は悪いことではありません。課題に向き合っているからこその感情であり、「見込みがある」「伸びしろがある」子だと思います。
ただし、感情を爆発させてしまうような表現になっているのであれば工夫が必要です。
例に上がっていた「おかわりじゃんけん」ですが、その方法が引き金になっているようなので、じゃんけんではない解決方法を考えるようにします。
方法の例を示します。
①おかわり希望者全員で均等に割る
②おおよその「均等」でも「あいつのほうが多い」ということであれば、希望者のうち1人が分け、その他の人から選べば、分けた人の都合には陥らない
③曜日ごとに「今日は1班から」など、クラス全体のおかわりの順序をあらかじめ決めておく
④「自分がどれだけ食べたいか」をプレゼンし、みんなの納得を引き出せれば食べられるというスタイルもよい。
⑤全員「盛り切る」形にして、「おかわり」がないようにする (※残飯は出るかもしれませんが、クラスの安定が優先と考える)