どうする? 再開後の授業 【第1回】 生徒の学びと命を守る、授業再開のための工夫

2020年6月24日公開

秋田県大仙市立西仙北中学校教諭 田中真二朗

はじめに

新型コロナウイルスの流行というこれまで経験したことのないことが起こり、全国各地の先生方はさまざまな方法で生徒たちの学びを保障しようと、熱意をもって試行錯誤されていることと思います。

いっぽうで、「入学式すら行えない状況で、顔もわからない1年生に何をすればよいのか」「一方的に課題を出すだけで指導はどうすればよいのか」……という不安が全国各地で渦巻いている現状があります。

5月下旬、非常事態宣言がやっと全国的に解除され、これまでの日常に戻れるかと思いきや、「新たな生活様式」での暮らしが求められ、これまでの考え方を大きく変えなければならない状況におかれています。学校でも同様に、三密を避けるための工夫が強く求められています。

今回から始まる連載は、このようなコロナ禍において、美術の授業をどのように再開していくかについて、私の考えを記したいと思います。

美術は、生徒一人で学べるのか

まず、今の時代、インターネット環境が整っていれば、必要な情報の多くはウェブ上で得ることができます。何かをつくる課題が出されても、動画検索すれば世界の誰かが丁寧に説明してくれますし、制作する際のコツ、道具の扱い方などは先生がいなくても学べることになるのです。

では、美術は生徒が一人で学べる、といえるでしょうか?

学校教育の中の美術においては、かなり厳しいと思います。主題を生み出させるための指導、制作途中のつまずきに対する指導、主題と表現方法の工夫の関係性の検討、友達の見方や考え方の共有、制作後の振り返りと教師の制作中の評価……などなど、学校でしかできないことの方が圧倒的に多いといえるでしょう(オンラインによる双方向授業では、できることは増えるかもしれません)。

しかし、現実的には、授業を今まで通りに行うことはできなくなってしまいました。さて、どうすればよいのでしょう。

作品持ち寄りの機会をつくろう

現実的には、しばらくは課題を出して自宅で制作するということが多くなると思います。その際は、完成作品を学校へ持ち寄って相互鑑賞したり、振り返りを丁寧に行ったりすることでカバーできるはずです。中学生は同年代の人がどのようなものをつくったのかかなり気になるようです。さまざまな見方や感じ方を獲得するよい機会になると思います。また、生徒が課題を振り返る中で感じたことや、難しかったことなど、授業のねらいに沿って再度考えてもらうことで、授業の目的は達成されるのではないでしょうか。

三密を防ごう

学校での授業を行う際は、さまざまなメディアでも言われているように、三密を防ぐことが求められます。各学校においてもどうすれば防ぐことができるのか、かなり検討されていると思います。

美術の授業における、三密になる状況を挙げてみましょう。

・ 全員で一つの作品を鑑賞するとき。
・ 模範演習のために1か所に集まるとき。
・ 美術室で、対面型の机に座るとき。
・ 用具の共有や、片付けで混雑するとき。

挙げればキリがないのですが、普段の授業を振り返ると、密が生まれる状況を事前に把握して対処できるのではないでしょうか。

以下に、具体的なアイデアを挙げてみます。

① 美術室での対面を防ぐ

対面になる机の美術室の場合は、やむなく通常教室で行う場合もあるかと思います。その際は、黒板に生徒全員が向かう形式を取り、さらには机どうしの距離をそれぞれ等間隔にとって配置することになるでしょう。

また、筆者の勤務校は美術室から外に出られる構造になっています。屋根もついているので、雨の日でも屋外で制作ができる環境です。学校の構造や他教科の活動との兼ね合い次第ではありますが、うまく屋外での活動を取り入れることも、三密を避けるための有効な手段となるでしょう。

美術室の広さやつくりは学校によってさまざまです。天井から透明シートを吊り下げる方法をとる学校も、机に置くタイプの飛沫拡散防止シートを設置する学校もあるでしょう。美術室にある木片(垂木など)に溝を彫り、アクリル板を差し込む台をつくることもできます。

筆者の勤務校では、美術室にあるポストカードなどを展示するためのクリップと透明なアクリル板を使って、感染対策を行っています。生徒の口元に置き、さらにマスクを着用して話し合う活動を取り入れています。

このように、工夫次第で何か対策はできるのではないでしょうか。

② 集まらずに鑑賞する

鑑賞をする際、生徒を1か所に集めず、プロジェクターなどを用いて大型の画面で見せられるとよいでしょう。

また、生徒一人一人に鑑賞資料を渡すのもよい方法ですが、いちばんよいのは教科書を見て鑑賞することだと思います。教科書には、鑑賞に適した作品が多数掲載されています。この機会に、教科書を使った鑑賞にも取り組んでみるとよいのではないでしょうか。

③ 制作を自席で完結させる

共用の用具を取りに行く際に発生する密については、美術室内を歩き回ることのないよう、あらかじめ個別にセッティングする方法もあります。使用後の消毒も割と楽になると思います。個人のものを使うのがいちばん安全ですが、刃物などはそうもいきません。グループに一つ、写真(左)のようなボックスを用意しておくと、生徒の動きはかなり少なくなります。

また、美術の授業の中でも密が発生しやすいのが、絵の具の片付けです。本校では、パレットのかわりに紙皿を使用しています。紙皿だと、その時間生徒がどのように色をつくろうとしたのかがよく見えてくるので非常によかったです。筆洗は自分のものを使いますが、水を捨てる際は、班ごとに置いてあるバケツに捨てさせれば、洗い場が混雑しません。

授業改善を目ざして、前向きに取り組もう

学校によって環境も違います。そこでできる最善のことを考えて日々工夫して授業をつくりあげていきましょう。密を避ける工夫を考えるのは大変なことですが、実は授業改善にもかなり通ずるものがあると考えています。どうすれば密を防げるかを考えると、おのずと生徒の授業中の活動を生徒の目線でイメージすることになります。どんな部分に課題があるのか、その課題は生徒が自分で乗り越えられるものなのか、仲間と協働することで乗り越えられるものなのか……、それは、実際に授業を受ける側の目線に立たなければ想像できないからです。このように生徒の視点で授業を見つめると、今必要とされている三密防止対策だけでなく、自分がこれまで行ってきた授業そのものの構造や発問、用具や材料に対しても、さまざまな気づきが生まれるはずです。

今行う工夫は、どうしても生徒の行動を制限するためのものになってしまいますが、この機会に自分の授業を見直すことは、今後の授業改善にもつながっていくことでしょう。生徒の命を守ることはもちろん、教師の創造性を発揮しながら、この不便な状況を学びに変えられるようにしていきたいと思っています。

田中 真二朗(たなか・しんじろう)

秋田県生まれ。秋田県大仙市立西仙北中学校教諭。宮城教育大学大学院修了後、宮城県私立高校非常勤講師、秋田県内の公立中学校を経て、2013年4月より現職。教育課程研究指定校(国立教育政策研究所、平成26年~28年度指定)。2012年、博報賞受賞。近著に『中学校美術サポートBOOKS 造形的な見方・考え方を働かせる 中学校美術題材&授業プラン36 』(明治図書 2019年)がある。光村図書中学校『美術』教科書の著作者。

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