どうする? 再開後の授業 【第3回】 授業時数減にも負けない、年間指導計画の見直し方

2020年8月20日公開

秋田県大仙市立西仙北中学校教諭 田中真二朗

本連載第1回は、再開後の授業を行うための学習環境の工夫について、三密防止対策や授業改善の視点からご紹介しました。第2回は、現在の状況だからこそできる授業を通して、限られた時間の有効な使い方などを紹介しました。最終回となる第3回は、現在の状況を踏まえた、年間指導計画の見直しについて紹介したいと思います。

休校措置などの影響で授業時数は減ってしまっているため、年間指導計画通りに実施していては授業時数をオーバーしてしまいます。題材どれかを削らなければいけないのか……という思いがよぎるでしょう。しかし、学習指導要領に記載されている指導事項はクリアしなければいけませんので、簡単に削ることはできません。では、実際にはどうすればいいのでしょうか。私は次の三つを意識して、年間指導計画を見直してみることを提案します。

1.他教科とのつながりを意識しよう

特定の題材を削らずに指導事項をクリアするには、一つ一つの授業時数を切り詰めていくのが最も現実的でしょう。そのときに懸念されることの一つとして、表現題材での発想・構想の時間が十分にとれないということが考えられます。

それを解決するためには、年間指導計画を、他教科との関連を踏まえながら見直すということが重要になってきます。

下の図は筆者の学校の年間指導計画(1年生)です。

 

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実施予定の題材に関連する他教科の単元に色をつけています。美術はただでさえ授業時数が少ないため、限られた時間で学びを深めるために、導入や発想の段階で他教科と関連させて考えてもらうということを私は以前から行っていました。

現在のような状況下では、このように他教科との関連を生かすことが特に役立っていると感じています。題材の実施時期を、関連する他教科の単元と近い時期に移動させたり、発想の段階で他教科の教科書を見せたりすると、短い時間であっても生徒の考えの広がり・深まりが全く異なってきます。

他教科の年間指導計画と一緒に並べてみて、関連する単元などがあれば、一度その教科書を見てみることをおすすめします。教科によっては、美術の授業でも紹介するような写真が載っていたり、作家や作品に関する細かい情報が載っていたりすることもあります。

例えば社会の教科書では、文化史として、日本美術はもちろん西洋美術も重要事項として紹介されています。また、英語の教科書の中には、浮世絵など日本の伝統的な美術作品や、日本美術が西洋の画家に与えた影響に触れている教科書もあります。詳しく取り上げられているものをチェックして美術の授業で触れると、生徒はさまざまな視点から作家や作品を味わうことができるでしょう。

このように他教科の教科書を詳しく見る時間が取れなくても 、他教科でいつどのようなことを学習するのかを大まかに知っているだけで、かなり違ってきます。

2.ねらいと活動の内容の整合性を見つめよう

授業時数が減ってしまっている今年度は、当初計画されていた学習活動を変更する必要も出てくるかもしれません。その場合も、題材のねらいとの整合性を吟味することで、短時間でも深く学ばせることができるでしょう。

例えば、全国各地で行われている授業の一つに、風景画があります。筆者の学校でも毎年行っています。この授業では、四つ切りの画用紙を使うという計画を立てている学校も多いのではないでしょうか。筆者はいつも8~10時間程度で実施していますが、今年度はもっと短い時間で行う必要が出てきているので、四つ切りサイズという条件をなくすというのも一つの手であると考えています。

具体的には、はがきサイズからA4サイズまでの範囲で生徒たちに用紙を選択させることもできます。長方形という形にこだわらずに、正方形でも丸でも三角でも、主題に合っていればよいと思います。紙を小さくすることで塗る面積が少なくなるので、時間的にも余裕が出る、何度も試行錯誤ができるなどのメリットがあります。

いっぽう、紙のサイズを小さくすることで、迫力のある表現がしにくいというデメリットがありそうです。ここで、この題材で身につけさせたい力を考えていきましょう。

筆者は、この題材のねらいを、「心に残る風景に、そのときの自分の思いをどう重ねてあらわすかを考え、表現方法を工夫して描くこと」としています。そのねらいを達成するために、題材の導入では、光や構図、描く風景に関する思い出や自分自身との関係など、主題を見つけるために注目すべきポイントを示しています。

そう考えると、あらわしたい光や構図、その風景への思いに合う紙のサイズや形まで考えさせることは、むしろ独自の表現を工夫するための手だてになるとも考えられます。紙のサイズを小さくすることで、ねらいが達成されなくなるわけではなさそうです。

このように、授業のねらいを明確にすることで、限られた時間内でどのような活動をするべきかが見えてきます。

3.生徒の生活と美術をつなげよう

授業だけで学びを完結しようとすれば苦しくなります。日常の生活の中に「美術」があることを普段から意識させることが重要です。通学途中の何気ない景色や、普段はよく見ていないものに焦点を当てて観察させることで、生徒はさまざまな発見をして、主題を生み出しやすくなります。生徒が日常の生活の中から美術を見いだすことができるように働きかけることは、私たち美術教師の大切な役割です。

時間がないからといって諦めるのではなく、今置かれている状況を前向きに捉えて、生徒の生活や、他教科の学びとつなげていくことでより楽しく、ワクワクとした美術の授業ができるのではないかと考えています。

本連載は、今回が最終回です。ご愛読、ありがとうございました。

田中 真二朗(たなか・しんじろう)

秋田県生まれ。秋田県大仙市立西仙北中学校教諭。宮城教育大学大学院修了後、宮城県私立高校非常勤講師、秋田県内の公立中学校を経て、2013年4月より現職。教育課程研究指定校(国立教育政策研究所、平成26年~28年度指定)。2012年、博報賞受賞。近著に『中学校美術サポートBOOKS 造形的な見方・考え方を働かせる 中学校美術題材&授業プラン36 』(明治図書 2019年)がある。光村図書中学校『美術』教科書の著作者。

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