「自己を見つめる」授業の工夫 コロナ禍の今、取り組める道徳の授業・学び

2020年7月10日公開

長野県佐久市立中込中学校教諭 荻原忍

新型コロナウイルス感染症の影響で、友達と向かい合って自分の考えを述べたり、友達の思いに耳を傾けたりすることが難しくなっている現状がある。そのような状況下だからこそ、自己を見つめることができる授業を大切にしたいと思い、道徳科の授業に臨んでいる。そのためには、友達と考えを交流し合うことができる工夫や、自分の考えが広がったり深まったりしていると実感することができる工夫が必要だと考えている。そこで、自己を見つめ、人間としてよりよく生きようという思いを膨らませることができるように、次の2点を意識しながら道徳科の授業を行っている。

1 互いの意見を視覚的に確認する

一つ目は、ペア・グループ学習を導入することが難しい現状の中で、友達が、資料に登場する誰の思いや考えに共感しているのかを、教師だけでなくクラス全員が分かるように、2色の両面カードを用い、視覚的に確認できるようにする工夫である。

2学年『2 テニス部の危機』では、「あなたは、白石君(部長)と木戸君、どちらの思いに共感しますか」と発問する場面で、この両面カードを使い、自分はどちらに共感しているのかを示す色を表に、高く掲げさせるようにした。生徒は、友達が今、どんな考えや立場でいるのかを一目でつかむことができた。教師にとっては、それぞれの立場について意図的に指名を行うことが可能となり、話し合いを深めたり広げたりすることができる。また、どちらにも共感できるという生徒が現れることも予想される。その際には、カードを折って、共感している割合を示させるようにした(写真下)。どんなところに共感できて、どこが共感できないのかを問い返すことで、発言している生徒や聞いている生徒は、多様な考え方や感じ方を交流し合いながら、自己を見つめることができるのではないだろうか。

2 自分を見つめる時間の積み重ねを大切に

二つ目は、生徒自身が自己の生き方についての考えを深めるための、道徳ファイルや道徳ノートの作成である。コロナ禍以前は、1時間1時間の話し合い場面を大切にしてきた。もちろんそれは、今後も大切なことではあるが、新型コロナウイルス感染拡大防止を考えたとき、少人数での話し合い活動が十分に行えない状況であることは否めない。その分、自分を見つめる時間、自分の考えを書く時間を大切にしたい。また、今後、再び休校を余儀なくされることもあるだろう。そのような状況になったときに、道徳科の授業で蓄積してきた学習カードや振り返り等の学びの軌跡が手元に残っていれば、それらを見返すだけでも、自己の学びを実感できるのではないだろうか。

そのための工夫として、ワークシートを学んだ教材順に時系列で綴じていくのではなく、内容項目順に綴じたり、自分が考えたり感じたりしたことに加えて、教師のコメントや友達、家族にインタビューしたことを追記できるページを設けたりするなど、学級や生徒の実態に応じたファイルやノートの作り方が考えられる。個に加えてクラスや家族とのつながりを感じることができる道徳ファイルや道徳ノートを通して、あのときはこんなふうに感じていたけれど、部活や生徒会活動、学校行事等を経験する中で、考えはこんなふうに変わったなと自己と対峙することができる。そして、その軌跡の期間が長ければ長いほど、生徒は自己と主体的に向き合い、道徳的価値の理解を関連付けながら、これから出会う事象や学びに対して、自分なりの視点をもって自己の生き方についての考えを深めることができるのではないだろうか。


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