マスク越しでも、ディスタンスをとっても、笑顔の交流! 〜「動き」のある授業で実現〜(3) ウィズコロナでも、自我関与促す「動き」

2020年7月21日公開

札幌市立あやめ野中学校教諭 近野秀樹

3回目の今回は、学校再開後の本校道徳科授業の様子を紹介したい。

<授業の概要>
【教材】 「誰かのために」 (文部科学省発行教材「私たちの道徳 中学校」 p184~185)

私たちの道徳 中学校 (文部科学省)
【主題名】 「大切な命」  
【学年】 2年生 
【教材の概要】 余命3か月と宣告された末期のガン患者である母が、子供の卒業式に出席することを願い、1年8か月も生きて、下の子の卒業式まで見られたという鎌田實医師のコラムである。希望をもって生きることで、余命宣告の6倍以上も生き、さらに驚くことに、亡くなる前の「立つこともできない状態」で一時帰宅した際、子供のお弁当にと、おむすびを握ったというエピソードが紹介されている。

授業では、教材の内容に沿って、「まだ少し元気な時」と「最後のおむすびの時」の2回に分け、お弁当を渡す母と受け取る娘を二人ペアの「動き」で再現した。

「まだ少し元気な時」の再現では、「ハンバーグ弁当」「オムライス弁当」など、娘の好物を予想し、生徒たちは思い思いの動きとせりふにより、ディスタンスをとりながらではあるが、笑顔でひとときの「家族のふれあい」を再現していた。

「最後のおむすび」の場面に授業が進んだ時は、それまでの楽しい様子が一転、一度教室が静まりかえり、どのような様子だったのか、母娘それぞれの心情に対し自我関与して考え込み、再現する様子が見られた。

「渡したのは、どんなおむすび?」ときくと、「ツナマヨじゃない?」「いや、塩むすびだよ」「形は三角かな」「ちゃんと握れなさそうだから、いびつな形」「本当はハンバーグを作りたい」など、自由な対話が自然に生まれた。この時、直接発言をしていなかった生徒も、見方を広げ、さらに強く自我関与をする様子が見られた。

同様の指導案で昨年度も授業をしていたが、「ビフォーコロナ」と「ウィズコロナ」では、授業において次のような違いが生じた。

【ビフォーコロナ】

  • マスクがないのでお互いの表情がよくわかる。
  • 机を付けて、話し合いをしながら「場面再現の動き」をする。
  • ホワイトボードに書いたら、各自黒板に貼りに行く。
  • ホワイトボードを読みにみんなで黒板前に行き、「共感できる意見」には緑の磁石を、「もっと詳しく聞きたい意見」には青の磁石を貼りに行く。

【ウィズコロナ】

  • マスクを付け、一定の距離を保ったまま授業をする。
  • 机を離し、向かい合っての話し合いなどを避ける。
  • 密集、密接を避けるため、ホワイトボードは教師が受け取り、黒板に貼る。
  • 生徒が黒板の近くに意見を読みに行けないため、ホワイトボードは教師が全員分読み上げる。
  • 密集、密接を避けるため、緑・青のマグネットを活用した「動き」は見送り、教師のファシリテートにより対話を進めていく。

(今後、GIGAスクール(※)の環境が整えば、ホワイトボードを手元の端末で読めたり、マグネット代わりの相互評価ツールを活用できたり、という可能性がある)

活動の制限による展開の差はあれ、実際に授業をすると、「ウィズコロナでは動きが取りづらい」のではなく、「ウィズコロナだからこそ、動きが効果を発揮」していることが、写真の様子を見ていただければ伝わると思う。特に話し合い活動が制限されている現状においては、道徳科の授業で生徒が生き生きと対話し、笑顔を浮かべながら考えを深めていくためには、「『動き』のある授業」こそが有効だと考えている。

第4回では、さらに深く授業の様子を掘り下げていく。

※小中学生に1人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境を整備する文科省の計画。 新型コロナウイルス感染症の拡大による学校の臨時休業の影響で、令和5(2023)年度までの実現という当初の予定を前倒し、令和2(2020)年度中の実現を目ざす方針に変更された。

参考文献:磯部一雄・杉中康平、中学校「動き」のある道徳科授業のつくり方、東洋館出版社、 2020、p.106-116


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