画家・東京藝術大学名誉教授 O JUNが選んだこの1点
「視線」

作者の言葉
私は周りを気にしてなかなか行動できないところがあります。そんな自分をじっと見下しているもう一人の自分を描きました。
私が選んだ理由
「この絵は、大きな自画像だ」
女子生徒がじっとこちらを見下ろしている。眼鏡越しのまなざしが気になる。目だけではない。鼻、口、耳、顔の造作の描き込みもいい。左右、あるいは鼻や口の微妙な非対称がよく観察されている。実は人は自分の顔をよく知らない。毎日鏡を見ていても、ふと見慣れぬ自分と出会う。私たちの内相と外相は日々刻々互いに複雑に干渉し、筋骨肌に伝え「表情」をつくる。それ故、人の顔を読むのはむつかしい。顔以外、制服の細部、筆触の異なる背景の空間の全体が交響し、この絵の表情を描き出している。大きな自画像だ。

O JUN
1956年東京都生まれ。画家、東京藝術大学名誉教授。光村図書高等学校『美術』教科書の編集委員。(撮影:木暮伸也)
2025年6月4日公開