滋賀県立美術館ディレクター 保坂健二朗が選んだこの1点

「誰かの作品」

「誰かの作品」 画像
キャンヴァス、油彩/91×116.7cm/岐阜県、2年

作者の言葉

私が美術館で見る高尚な絵よりも、素朴な自然体の絵というものに興味がありました。それでいうと誰へ向けた絵でもなく、後世に残そうとするわけでもない、消えてしまう落書きは、自然体で内から出る絵だと思います。日常にひっそりとひそむそれは、いつも見られていないけれど作品になりえるものです。

私が選んだ理由

「絵によって、絵を語る」

芸術の起源を洞窟絵画に求める人は少なくない。しかし忘れてならないのは、消えてしまった起源があったかもしれない可能性だ。たとえば波打ち際に描かれた絵のように。絵によって絵について語るその方法をメタ絵画と言うが、この絵はまさにそれ。「砂浜に描かれた絵」を自分でキャンバス上に描きつつそれを「誰かの絵」として提出したり、人物像の手の傍に枝を添えたりと、コンセプトがよく練られている。砂を巻き込んだ波の描写も見事だ。

保坂健二朗 画像

保坂健二朗

1976年茨城県生まれ。滋賀県立美術館ディレクター。光村図書高等学校『美術』教科書の編集委員。

2025年6月4日公開

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