美術評論家・女子美術大学客員教授 水沢勉が選んだこの1点
「生まれてみたいから生まれてきただけ」

作者の言葉
天使のような愛しい末っ子の弟を描きました。黄金の雲が反射する水たまりを駆けている様子です。どんな情勢や運命だとしても、全ての生命はこの世界に憧れたから生まれてきたのだと私は思います。
私が選んだ理由
「詩の光に包まれているようです」
とても完成した絵。伸び伸びとしなやかな筆づかいで、背景の風景をその細部までこだわって描きあげています。でも、窮屈な感じはまったくしません。前景は、意図的に、ボケたようにおおらかに描き、そこに光るシルエットの状態で子どもの姿が描き込まれています。夕暮れの陽ざしが広がる水面に反射していること自体を強調し、そこに光の申し子ともいうべき小さな人型を配したのです。詩的な解放感がすばらしい。

水沢 勉
1952年神奈川県生まれ。美術評論家、女子美術大学客員教授。光村図書高等学校『美術』教科書の編集委員。
2025年6月4日公開