ICT を活用したコミュニケーション支援③ 学校の強み

ICT を活用したコミュニケーション支援
第3回 学校の強み

前 香川県小豆島町立苗羽小学校長 川井 文代

試行錯誤のリモート授業

「話す人の方を向いて聞きます」ずっとこう言って指導してきた。しかし、「受動的な学習態度がよし」という風潮を作っているという違和感もあった。最近は講演を聞きながら、パソコンや携帯で記録をとったり、分からない言葉を調べたりする。リモート学習も取り入れられている現在、子供たちの学び方を再度見直していくべきなのではないか。
リモート授業では受けている人が全員同じ画面に並ぶ。教室だと前方の人や後方の人がいるが、リモートだと全員が一番前の席という感覚だそうだ。それによって、子供たちも教師に見られているという意識が強くなる。教師も一人一人の様子や反応が分かりやすい場合もある。「今までと活躍する児童が変わってきた。」という発言をしている教師もいた。リモート授業の実践での工夫や苦労、反応、課題等をぜひ、つぶやいてほしい。研究的な実践もよいが、日常的な実践でのつぶやきは、授業づくりの参考になる。
実践した人からは、リモート授業では、伝えたいという熱量や細かなニュアンスは分かりづらく、説明中心だと一方的な授業になってしまう、理解しやすいように資料を作る場合も指示を短い言葉でも書く方が残りやすい、反応を受け取るタイムラグを理解して進めるといった対面授業とは違った配慮が必要であるという話を聞いた。子供の操作技能の習熟差への対応や、学習内容を理解しているのかを把握する技能も今後の課題であろう。社会は出来高制に移行しているという学者もいたが、課題が多くなったり、テストでの評価ウエイトが大きくなったりするだけでは、これからの社会で必要とされているコミュニケーション力は付かない。

学校の強み

学校の最大の強みは多様性であり、コミュニケーション力の育成である。Society5.0が進むほど、人間がもつ温かさや息遣いを感じることが重要になる。その中で、思い合ったり折り合ったり許し合ったりして成長していくことが大切なのだ。学校は、その中核である。
例えば、話合いをする途中で検索を行うことは是か非か。場面によって異なるであろう。だからこそ、マナーとしての基本ルールの理解、状況を判断する力、「話し合っている途中ですが、〇〇を今調べていいですか」といった声かけ等、具体的な技能を習得していかなければならない。一人一台になるこの機にICTを活用する学び方カリキュラムの再構築は急務である。

それとともにAIにはできない、交流の学びを大切にしてほしい。ただ話し合う、交流する機会を増やすだけではなく、スピーチや話合いのスキルアップをする指導を細やかにすべきである。例えば、子供たちがその単元の学習で「スピーチメモの用紙や文字の大きさ、文字数が分かった。目配りの仕方、間の置き方、1分間で話す文字数の目安を掴んだ。」等、具体的な力の獲得ができたという実感がもてる授業の積み重ねが大切である。そして、子供たちが「話し合ってよかった、折り合いながら活動をよいものにしていけた。」といった感動や充実感を重ね、学び続けるエネルギーが高まっていけるような指導の充実を期待する。

 

川井文代(かわい・ふみよ)

元小学校校長、前香川県小学校教育研究会国語部会長

パナソニック教育助成校として、感情コントロールアプリの教育実践など、ICT教育に携わる。自尊意識を高める学校教育の在り方や、 アクティブ・ラーニングの授業の研究・実践を行う。

Illustration: ひこ

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