国語のおもしろさを学校からご家庭へ②

国語のおもしろさを学校からご家庭へ
 ――授業のユニバーサルデザインをヒントにして ②

2020年6月22日公開

星槎大学大学院教育実践研究科 教授 阿部利彦
日本授業UD学会湘南支部顧問

1.保護者にも「見通し」を持ってもらうために  ――時間設定・目標・ねらいを示す

授業のユニバーサルデザイン化を先生方と検討する時に難しいことが「焦点化」です。子どもの意見を大事なポイントに結びつけたり、関連づけたり、深めたりすることには、教師としての技術と経験が必要です。
ですから、家庭学習を「まとめ」や「ふりかえり」に位置付けてしまうと、保護者は家庭学習を負担に感じてしまいます。
家庭学習は、予習として、授業の導入の前段階、リハーサルに位置付けると連携しやすくなるでしょう。そうすれば、子どもたちもより安心して先生との授業に参加することができます。

さて毎日の授業を行う際も、本時のめあてや学習内容をあらかじめ黒板に掲示したりして、先生方はまず児童に「見通し」を持たせておられると思います。それを保護者の方にも同じように示す必要があります。
ある単元の学習をするにあたり、どういう展開で進めるのか、ねらいや着地点はどこなのかがわからないままに勉強をみてくださいと言われても困ってしまいます。保護者にも、まず見通しを持ってもらうことで不安を減らすことができるのです。

家庭学習をお願いするにあたっては、自分が教師として働きながら家に帰って我が子の勉強を見るとしたらどのくらいのことが可能か、ということを考えていただければと思います。仕事や家事があり、複数のお子さんがいらっしゃるご家庭もあり、さらに他の教科の学習もあることを考えると、国語の時間設定は15分以内が妥当なところでしょう。
そこで、「15分でできること」をデザインしていくわけですが、授業と同じようにいくつかの活動をおりまぜる発想が必要です。45分授業で導入・展開・まとめを15分ずつ入れる要領で、家庭では5分単位の活動を三つくらいにイメージしましょう。

2.家庭では「感想」より「内容をおさえる」

タイムスケジュールの見通しを基本とした上でさらに先生方にお願いしたいのは、国語はとくにゴールが見えにくい科目なので、各単元の指導目標を保護者にわかりやすく伝えていただくことです。
例えばスイミーであれば、目標は「スイミーの行動を具体的に説明できる」あるいは「スイミーのお話を家族に紹介できる」などが適切でしょう。なぜなら「スイミーの気持ちを考える」とか「しっかりした感想文を書く」というレベルまではまだ必要がないのだなと確認でき、保護者も安心できるからです。
保護者が教えにくいと感じてしまうのが、「登場人物の気持ちを考えさせる」ことです。「このお話の好きな場面やおもしろかったところを見つけ、書きなさい」や「初めて読んだときの感想を書いてみよう」という課題をさせるのも、なかなか難しいものです。お子さんによっては「おもしろいところ」が見つけられない場合もありますし、「初発の感想」を聞いても、保護者はそれをどう扱ったらいいか困ってしまいます。
それにこれらの活動は、クラスの他の子の考えと自分の考えを「似ている」とか「自分とちがう」などと比較して多様な考えに触れることで刺激され、より深まる学習なので、自分一人の考えだけではそこで立ち止まってしまうことになり、考えたことが活かされません。
初発の感想と読み深めた後の感想とを比較する、という課題も、子どもによっては全く変わらない可能性があります。それは、先述のように、自分以外の考えに触れられないので視野が広がらないためです。
ですから家庭にお願いするのは、「場面・登場人物・話の展開をおさえる」ということを中心にした方が取り組みやすいでしょう。さらに言えば、先生のねらい、その単元で目指す着地点を課題の内容と同時に伝えておくと、保護者も自信を持って指導することができます。


阿部利彦(あべ・としひこ)

星槎大学大学院教育実践研究科教授

星槎大学大学院教育実践研究科教授。専門は教育相談、学校コンサルテーション。東京障害者職業センター生活支援パートナー(現・ジョブコーチ)、東京都足立区教育研究所教育相談員、埼玉県所沢市教育委員会健やか輝き支援室支援委員などを経て、現職。星槎大学附属発達支援臨床センター長、日本授業UD学会理事、日本授業UD学会湘南支部顧問を務める。

Illustration: 夏野なえ

掲載された記事および画像の無断転載を禁じます。