生活科実践アイディア 横浜市立池上小学校の取り組み②

コロナ禍におけるスタートカリキュラム

これまでの子どもたちの育ちと学びを尊重する問いかけ
~「園ではどうだった?」「どうしたいの?」~

子どもたちの健康や安全が何よりも優先されますが、1年生の子どもたちが安心して学ぶことができる「スタートカリキュラム」を工夫してつくっていくことが大切だと考えています。

休校が長びいて、自分の居場所や友達との遊びも制限されてきたと思います。だからこそ、「やっぱり学校っていいな」「友達と会えるってうれしいな」「みんなで勉強するって楽しいな」と思えるような毎日にしたいと思っています。

いちばん大切にしているのは、これまでの子どもたちの育ちと学びを尊重することです。

園では、3月まで年長さんとしてみんなからあこがれられていた子どもたちです。リーダーとして自信に満ち、年中さんや年少さんに、さまざまなことを教えたり、支えたりといった姿を見せてきたはずです。

また、園での生活や遊びの中で、いろいろなことを学んできていることも尊重しました。「園ではどうだった?」「どうしたいの?」「どうしたらいいと思う?」など、子どもたちのもっている力を引き出す問いかけを大切にしました。

一人ひとりに応じた支援をする
~困った子ではなく、困っている子ととらえる~

初めての学校生活にすぐに慣れる子どももいれば、なかなか慣れない子どももいます。また、一つの園からたくさんの友達といっしょに入学してきた子もいれば、たった一人で入学してきた子もいます。しばらく集団生活から離れていた子もいます。一人ひとりが新しい人間関係を築くことができるように心をほぐし、安心感がもてる時間と居場所を大事にしました。

子どもの行動には、必ず意味があります。困った子ではなく、困っている子どもととらえ、どうしてこういう行動をとるのかを考えたうえで、一人ひとりに応じた支援をしていくとよいと思います。

今年度は、5月末までの休校ということで、3月から休園になり、3か月間、ずっとおうちにいて、友達とかかわっていない子どももいるかもしれません。そういった子どもの背景を踏まえることも大切ですね。

心のケアで留意することを教職員の間で共有

休校や新生活により、不安やストレスを抱えている子どもたちの心のケアについて、留意すべきことを教職員みんなで考え、共有しました。

子ども一人ひとりを丁寧に見取り、児童理解に努める。

 長期間それぞれの家庭等で過ごしているので、子どもたちの状況がこれまで以上に個々に違うことが考えられます。生活の様子、学習の姿、仲間との関わりなど、あらゆる場面で、一人ひとりの姿をキャッチして、その子の理解に努めることが、その後の関わりや手立てにつながってくると思います。

コミュニケーションを図る。子どもの話をよく聞く。

生活の中で、子どもたちの発言に耳を傾け、子どもが考えていることを理解し、捉えることが大切だと思います。

また、これまで以上に子どもと話す時間を大切にしていこうと考えました。休校中のそれぞれの過ごし方を否定せず、子どもが自分の居場所を安心してつくれる人間関係を築いていきたいと思いました。

子どもの視点に立つ。

学びの主体は子どもであり、子どもと一緒に考えていくことが重要です。主語を子どもにすることで、新しい文化を創り出していくのは自分なのだという「主体性の感覚」を、意見を言う→聞いてもらう→否定されない→意見を言う、という繰り返しの中で育んでいき、自己肯定感へとつなげることが大切だと思います。

特に、1年生にとって学校は、園と同様、安心して自分の思いを先生や友達に開示できる場所であることがとても大切だと思います。

自分の言ったことを認めてもらえると、子どもたちは自信をもって「あれもやってみたい。これはどうだろう?」と探究的になり、いい意味でどん欲に学ぶようになっていきます。

焦らず、ゆっくりスタートする。

教師側からすると、やりたいことや、やらなければならないこともたくさんありますが、まずは「学校が楽しい」「友達や先生がいて安心する」と子どもが感じられるような環境をつくっていきたいと思いました。こんなときこそ、焦らずゆっくりスタートしたいものです。

興味・関心から、子どもの最大限の力を発揮できるようにする
~プロセスを大切にした「学校探検」~

子ども 屋上の鍵を借りに来ました。屋上ってどうなっているか見てみたいからです。

どうなっていると思う?

子ども きっと、広くてね。すごく景色がよくて風が気持ちいいんじゃないかな。

屋上に興味をもった子どもたちは、最上階である4階に上がりましたが、鍵がかかっていて扉を開けることができませんでした。

担任が「鍵はどこにあると思う」と聞くと、「たぶん、先生たちのお部屋にあると思う。幼稚園のときも、先生たちのお部屋にあったから」と答えました。

子ども自身が興味・関心をもっているとき、その子のもっている最大限の力が発揮されるといわれています。学校探検でも、子どもたちの興味・関心がどこにあるか見極め、「鍵をあけるにはどうしたらいいか」「何といえば貸してもらえるか」など、はてなを解決するために友達と力を合わせて考えるプロセスを大切にしました。

屋上を探検し、鍵を返しにきたときには、

「やっぱり、風が気持ちよくて、ランドマークも見えたよ。」

「もう一つの屋上を見つけたよ。あっちにも行ってみたいな。」

と、新しいはてなを見つけてわくわくしていました。

このようなプロセスで子どもたちは充実感や達成感を感じ、次への行動の意欲や自信につながっていくのです。

【参考】 文部科学省 「小学校学習指導要領(平成29年告示)」

 

寳來生志子(ほうらい・きしこ)

横浜市立池上小学校校長

横浜市の公立小学校勤務ののち、平成24~28年には、横浜市こども青少年局担当課長として、スタートカリキュラム推進を担う。平成29年より現職。同校では、入学して間もない1年生の学校生活の様子を積極的に授業公開するなど、スタートカリキュラムのあり方を全国に発信している。著書に、『育ちと学びを豊かにつなぐ 小学1年 スタートカリキュラム&活動アイデア』(明治図書出版/共著)などがある。
「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編」作成協力者、「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム」(文部科学省・国立教育政策研究所 編著)作成協力者、NHK Eテレ「おばけの学校たんけんだん」「すたあと」の制作協力などにも携わる。