オンラインで学ぶ「生物が記録する科学」の授業と、見えてきた非同期型オンライン授業のポイント(後編)

2020年6月19日公開

お茶の水女子大学附属中学校教諭 渡辺光輝

オンラインで学ぶ、生徒の学習活動

前回の記事では、勤務校ではオンライン授業で

  • リアルタイムの配信や双方向のやり取りはできない。
  • ロイロノートやGSuite、ワードなどのアプリは一切使えない。
  • 教師から講義動画やPDF、リンクを配信して課題を伝えることは可能。
  • 生徒にウェブアンケートやテストを課すことはできる。
  • 生徒が撮った写真や動画を送ったりするのはNG。テキストの送信のみ可能。

などという制約があるということをお伝えしました。

その限られた条件の中で、いちばん頭を悩ませたのは、教師からの一方通行にせずに、何らかの学習活動を入れていくということでした。
教室での授業には遠く及ばないけれども、なんとかひねり出した、オンラインでの生徒の活動のアイデアは以下のとおりです。

  • オンラインのテストを授業に組み込む。
  • 感想交流型・記述問題型・パフォーマンス課題型の表現課題を組み合わせる。
  • 生徒個々へのフィードバックと全体への交流を促す。
  • 生徒が自分から疑問をもって調べることも促す。
  • 生徒からの質問や要望を受け付ける窓口を用意しておく。

オンラインのテストを授業に組み込む

まず考えたのは、オンラインで行うテストです。
オンライン授業のシステムであるMoodleではウェブ上でテストができる機能があります。それを授業の中に組み込んで、生徒の読みが深まるような問題をオンライン上で取り組めるようにしました。(下、写真は小テストの一部)

このオンラインテストは即座に結果が出るため、生徒は自分の読みの適切さを知ることができます。
しかしこのテスト機能は、学力を評価するために使ってはいません。
テストの問題に取り組むことで、自分でどんどん教科書を読み進めていくことを促すために活用することにしました。なお、生徒はノートや教科書を見ながらこれに取り組みます。

そのため、このテストは満点になるまで何度でもチャレンジできるように設定しました。また「正解」は示さずに採点結果のみを伝え、間違えた問題は、正解が何なのかを自分で考えてもらうようにしました。(教師が正解を伝えると、正解の暗記クイズになってしまう可能性があります)
もちろん、正答率が低い問題については、次の授業でそれをピックアップして、しっかりと説明をしてフォローしました。

オンラインテストは生徒へのフィードバックも早いですし、採点や集計も容易なので、授業で最も効果を発揮したツールの一つです。

感想交流型・記述問題型・パフォーマンス課題型の表現課題を組み合わせる

もう一つ、オンラインで取り組むことが可能な生徒の活動(課題)は、文章で書いて送るというものです。
これは、普段の授業のなかで、生徒にどんな発問や投げかけをして発言を引き出して読み進めていったのかを思い出しながら、オンラインでもなるべく生徒との学び合いができるようにしました。

ただし、この課題は一時間で何度も出せません。1、2問程度に厳選しなければいけません。
そこで、大きく「感想交流型」「記述問題型」「パフォーマンス課題型」の三つのパターンを組み合わせて、生徒に書いてもらうことにしました。

感想交流型

例えば「生物が記録する科学」では以下のような課題を出しています。

1時間目

最も印象に残った段落のまとまり(序論・本論1A・本論1B・本論2・結論)を一つ選び、それについての感想や疑問などを具体的に述べてください。

これは「初発の感想」にあたる課題です。生徒からの自由な受け止めや感想、疑問を書いて答えてもらいました。
後でまとめやすいように、どの段落のまとまりについての感想かを選んでもらうようにしています。(普段の授業だったら「近所の人とノートを見せ合って、お互いの感想を言い合いましょう」といって取り組むような課題でしょうか)

記述問題型

2時間目

なぜ、ペンギンは最大の潜水能力を使わないのか。
ペンギンの潜水について、本文中の言葉を使って三十字以内で説明しなさい。

授業で説明文を読み進めていく中で、取り上げた段落の要点をずばり一言で答える課題です。複数の段落にまたがったキーワードを押さえ、指定した字数で的確にまとめることが必要となり、理解度が試されます。

パフォーマンス課題型

3時間目

筆者が感じている「バイオロギング」の可能性に対するあなたの考えを、次の条件に従って書きなさい。

条件1 2段落構成とすること。1段落目には筆者が感じている「バイオロギング」の可能性をまとめること。2段落目にはそれに対するあなたの考えを書くこと。
条件2 百五十字以上、二百字以内で書くこと。

4時間目

あなたはペンギン研究者に向けて研究グッズを売るセールスマンです。「バイオロギング」を全く知らないペンギン研究者に向けて売り込むセールストークを次の条件で考えなさい。

条件1 キャッチコピー「バイオロギング」の魅力を端的に表すキャッチコピーをタイトルとして最初につける。
条件2 「バイオロギング」の特徴(長所)を三つ挙げる。
条件3 「バイオロギング」によってこんな研究が可能になるという説明をする。
条件4 五百字以内で書くこと。

この課題は「文章を読んで自分の考えをもつ」指導事項に対応したパフォーマンス課題で、単元の最終段階で生徒に書いてもらいます。
いくつか押さえるべき条件を確認したら、授業で本文を読んできて、本文の内容や筆者の考えを受け止めた上で、自分なりに考えたことを文章にまとめていきます。

このように、さまざまな切り口で生徒の表現を引き出しながら、説明文の読みの学習を進めていくことができるようにしました。

生徒個々へのフィードバックと全体への交流を促す

少しでもオンライン上で意見交流ができるように、上記の課題について生徒が書いたものは授業動画の中で取り上げたり、PDFで一覧にして紹介するなどしました。

また、一人一人の感想や意見には、教師からコメントつけて返すことも心がけました。(これはとても大変なように見えますが、PCやタブレットの音声入力機能を使うと、タイピングするよりも圧倒的に簡単にできます。まさに生徒に語りかけるような感じで、パソコンに向かって話しながらコメント入力しました。これは外出自粛期間の自宅での孤独な作業でしたが、一人一人の生徒の学びを受け止め、しっかりとつながっているという実感のあった唯一の作業でした。)

生徒が自分から疑問をもって調べることも促す

ついオンライン授業では教師が前のめりになって一生懸命説明しようと動画を作ったり、資料をたくさん紹介したりして、情報過多になってしまいます。
しかし、教師の手を少し緩めて、生徒自身も、自分から学びを広げたり深めたりしていくことができるように促していく必要があると感じています。

実はオンライン授業の最大のポイントは「生徒全員がPCまたはタブレットを使っている」ということにあると考えています。つまり、生徒全員が100%ネット接続された一人一台端末の環境になっているわけです。それは、すごいことだと思いませんか?
生徒自身が、このネット環境を駆使して知りたいこと、疑問に思ったことについて調べられるように、授業では次のような課題を設定しました。

ペンギンについて疑問に思ったことを一つ取り上げ、それをネットや本などで調べてわかったことを書きましょう。意外な事実が見つかるかも?
※誰が(どこから)それがわかったか、情報源(ソース)を必ず明示してください。

そして、生徒自身が集めてきた情報を次の授業で共有して、他の生徒とともに、この授業によって生まれた学びを広げていくことができるようにしました。

生徒からの質問や要望を受け付ける窓口を用意しておく

最後のポイントは、生徒からの質問、要望窓口を作っておくということです。
遠隔授業開始の当初は、機械操作などについての質問もあることを想定して、教科ごとではなく学年全体で質問窓口を用意していました。
しかし、どの教科も、あまりにも毎時間、授業内容についての質問が殺到したので、学年単位ではなく教科、授業回ごとに質問窓口を作ることに変えました。
この窓口を作ってあらためて良かったなと思うのは、生徒はこちらの思いもよらないようなところで勘違いをしたり、つまずいてしまったりしていることがよくわかったということです。

普通の授業のなかでは、生徒が自分から手を上げて質問を伝えることはほとんどありません。こちらから拾い上げることもできません。しかし、オンラインで質問窓口を作ったことで、生徒は気軽に質問ができ、個別に対応することができたのは大きなメリットだと感じました。
また、こちらもとまどいながら授業を作ってきましたが「このやり方は良い」「これはわかりにくい」「もっとこうしてほしい」と素直に授業へのフィードバックを上げてくれたおかげで、生徒の声を活かしながら、毎回毎回、授業をブラッシュアップすることができました。これも普段の授業では、なかなか得られない経験でした。

初めてのオンライン授業で拙いものばかりでしたが、それを支え、励ましてくれた生徒からのアドバイスに心から感謝しています。

おわりに

以上、ポイントと思われるところを列挙してみました。
今後、コロナ対策でのオンライン授業がどれくらい続くかはわかりませんが、オンラインの授業でなくても、普段の対面の授業でも活かせそうなコツや大切にしたいことがいくつも見つけることができたのは良かったです。

早速これから「普段の授業でも質問の窓口を用意しよう」とか、「復習に授業動画が使えるよね」、「オンラインテストと対面授業の『ブレンディッド・ラーニング』で進めると良さそう」など、コロナ後のアイデアについて同僚と話しているところです。
全く同じようなスタイルでオンライン授業をしている学校はなかなか少ないと思いますが、少しでも参考にしていただけましたら幸いです。

※遠隔授業、オンライン授業についての参考になった文献

  • 鈴木克明(2002)『教材設計マニュアル 独学を支援するために』北大路書房
  • 稲垣 忠、 鈴木克明(2015)『授業設計マニュアルVer.2: 教師のためのインストラクショナルデザイン』北大路書房
  • マイケル・B.ホーン, ヘザー・ステイカー著 ; 小松健司訳(2017)『ブレンディッド・ラーニングの衝撃 「個別カリキュラム×生徒主導×達成度基準」を実現したアメリカの教育革命』教育開発研究所

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