オンラインで学ぶ「生物が記録する科学」の授業と、見えてきた非同期型オンライン授業のポイント(前編)
2020年6月16日公開
お茶の水女子大学附属中学校教諭 渡辺光輝
3月末に急遽休校が発表され、春休みが始まりました。その後も休校延期の発表が続き、毎日予定が目まぐるしく変更される中で、どのように学習支援をしていくかが喫緊の課題となりました。
4月15日の段階で、やっとオンラインでの遠隔授業が始められることが決まりました。月末にかけて各家庭のネットワーク状況の調査と端末の貸し出し、全職員での研修を行い、5月の連休明けからオンライン授業がスタートしました。結果的にこの遠隔授業は完全休校している5月と、週2日だけ登校する6月の分散登校期間に行われることとなりました。(2020年6月現在)
はじめに 制約だらけの条件の中で
勤務校は、大学で設定したMoodleというシステムを使い、動画や資料配信中心の「非同期型(オンデマンド型とも)」の遠隔授業となります。他校のようにZoomなどを使った双方向型授業ができないなど、いろいろと制約がある中での授業づくりでした。
- 生徒にライブで語りかけたり、話し合ったりはできない。(同時双方向はできない)
- これまで授業で使ってきたシステム(GSuiteやロイロノートなど)は使えない。
- ネット経由でワークシートを配信し、それを家庭で印刷して使わせることはできない。
- 生徒がワードなどで作成したデータや、撮影した画像、動画を送ってもらうことはできない。
と、「できない」「できない」尽くし。
逆にできるのは、
- 教科書やノートを使った授業は可能。
- 教師から、動画のデータや資料のPDF、ウェブサイトのリンクを送ることはできる。
- 生徒から、テキストを送ってもらったり、WEBアンケートやテストはできる。
ということだけ。
このような状況で、遠隔授業開始当初はほとんど心が折れかけていました。
藁にもすがる思いで調べまわったときに出会ったのが、以下の資料でした。
これらの動画からのメッセージはとても心に刺さりました。教室での授業の完全な再現はできないし、同じレベルを目指すことはできない。でも、非同期型のオンライン授業でも、ある程度はやれるかもしれない、と。
※非同期型オンライン授業の設計で、とても参考になったのは以下の資料です。
「無理はしないで同じ形を目指さないこと:平時に戻るまでの遠隔授業のデザイン」鈴木 克明 熊本大学システム学研究センター長・教授(日本教育工学会会長)
【編集部注】
先生方が教科書等を使用して「非同期型オンライン授業」の動画を作る場合は、SARTRASへの申請が必要になります。下記をご参照ください。
非同期型オンライン授業の構成
オンライン授業は、以下のような基本構成で作っています。
- 10~20分の授業動画
- 参考資料のリンク
- 生徒が取り組んで提出する課題(テキスト入力・アンケート・小テスト)
- 授業についての質問や要望を書き込むアンケート
今のところ「枕草子」と「生物が記録する科学」の二つの授業をオンラインで実施していますが、以下、「生物が記録する科学」の授業を取り上げながら、非同期型のオンライン授業の工夫についてご紹介します。
授業の様子がイメージできるように、まず、「生物が記録する科学」の3回分のウェブ画面を紹介します。生徒はこのウェブ画面上から授業を受講します。
授業動画作成のポイント
授業動画は、Zoomというアプリを使って、パワーポイントのスライドに説明の音声をつけて作成(画像録画)しました。また、動画を切ったりつなげたりの編集はMacのiMovieを使いました。ZoomもiMovieも無料のソフトです。
もちろん初めての経験でしたが、初心者でもすぐにできるようになります。勤務校ではほとんどの先生はZoomを使って授業動画を作成していました。
※授業動画の作成については「Zoom 授業動画」などと検索するとたくさん作り方が出ています。
動画や資料の作成で私が意識しているポイントは以下のとおりです。
- 最初に必ず顔出しのメッセージを入れる。
- 動画は10~20分程度。長過ぎたら分割する。
- 単元の全体像と途中経過を随時伝える。
- 文章構成や表現の特徴などをスライドで視覚的に説明する。
- 適宜「ここで動画を止めて考えましょう」という促しを入れる。
- 既存のウェブサイト、You Tube、NHK for Schoolなどを積極的に活用する。
最初に必ず顔出しのメッセージを入れる
授業動画の作成で私が一番大切にしているのは「あなたに向けて、これを伝えています」という思いを伝えることです。
ネットにはYouTubeやNHK Eテレなど教材となる動画がたくさんあります。それにも関わらず、ユーチューバーやテレビ局ではない素人の教師が、なぜ稚拙な授業動画を作る必要があるでしょうか。
私達教師がユーチューバーやNHKに勝てるとしたら「〇〇中学校の〇〇さん、あなたに向けて、これを作っていますよ」という思いの部分。それが生徒に届けば、きっとYouTubeやNHKよりも見てもらえるだけの力を持つでしょう。そう考えて「あなたに向けて、これを伝えますよ」という部分を大切にして、授業動画を作っています。
具体的には、最初は顔出しをして、生徒に向けて語る「ビデオレター」のカットを必ず入れています。また「リスナーからのお便りです」のように、授業に参加している生徒の反響を適宜紹介するなど「この授業の、この生徒とともにしか作れない授業内容」をできるだけ反映させるようにしています。
(下写真:「ビデオレター」の部分から。「生物が記録する科学」では南極のペンギンの映像とクロマキー合成して我が子と一緒に登場してみました。このクロマキー合成はiPhoneなどでとても簡単にできます)
動画は10~20分程度。長過ぎたら分割する
50分授業だとしても、50分間動画で説明を聞き続けるのはかなり体力を消耗します。YouTubeやEテレのコンテンツは10分が基本です。でも、あれもこれも入れようとするとどうしても長くなります。では何分が適切なのか。
そこで、どんなに長くても20分程度と決めて、その尺に収まるように内容を削り込み、早口でしゃべるようにしました。(私はゆっくりめに話すタイプなので早口ぐらいでちょうどよいようです)どうしても長くなるようなら、二つに分割することも検討しました。
また「枕草子」では現代語訳も加えてじっくり説明した「基本」コースと、要点だけ説明した「上級者」コースの二つの授業動画を用意したりもしました。
単元の全体像と途中経過を随時伝える
スライドによる説明のポイントとして、学習の全体像と、今ここに取り組んでいますという途中経過を示すようにしました。
といっても、そんなに凝ったことをしているわけではありません。教科書の学習の手引を示し「いまこれについて取り組んでいます」ということを視覚的に伝えたということです。
これを口頭で伝えるだけでは不親切ですし、教室での授業のようにわざわざ教科書を開いて確認させるようなことはできませんので、動画の中で学習の全体像を示すカットを随時入れて確認できるようにしました。(下写真はそのスライド)
スライドは文章表現を細かく説明するのに向いている
パワーポイントの狭い画面だけでどこまで国語の授業ができるか不安でしたが、一方でメリットと感じたことがあります。
それは、文章について文単位、単語単位で細かく説明するのに向いているということです。
例えば、説明文で使われている言い回しや注意してほしい一文などは、口頭や黒板に書いて説明するよりも、画面いっぱいに文章を示して説明したほうが格段にわかりやすいです。
アニメーションの動きとともに、文や単語をハイライトしたり、吹き出しをつけたりするなどして、ビジュアルでわかりやすく伝えるように意識しました。
(下写真:授業で提示したスライド)
「ここで動画を止めてみましょう」
動画授業が生徒にとって思いのほか好評だったのは「途中で止めたり、何度も見返したりできる」ということでした。
同僚の宗我部先生の助言で、動画の中に「ここで一旦止めて、ノートに自分の考えを書いてみましょう」という一言と、5秒くらいの「間」を入れてみました。「こんな説明、いちいちする必要あるのかなあ、必要なら生徒は勝手に止めるのでは?」と私自身はかなり懐疑的だったんですが、授業後の生徒からの感想で、その一言がとても良かったということがわかりました。
オンデマンド(=学習者の要求に応じた)型の授業動画の良さは、スイッチひとつで教師の説明を止めたり進めたりできること。つまり、自分の理解のペースで学べるということです。「ここで動画を止めてみましょう」という一言によって、生徒自身がそれに気づくきっかけになったようです。この一言がなかったら、生徒はそのまま授業動画を止めずに流してしまったかもしれません。
ウェブでアクセスできる資料はできるだけ使う
授業動画を作るのは、どんなに慣れてきても準備に一日はかかります。普通の授業のほうがよっぽど楽です。
苦労して作った動画資料ですが、この自作の動画だけにこだわりすぎずに、ウェブ上の資料もいいものがあれば、どんどん活用するようにしました。
考えてみれば、普段の授業も同じことをしていることに気づきました。教科書や教師の説明だけでなく、学校図書館の資料、ウェブなどの様々な資料を「学習材」として授業に組み込むこと、オンライン授業でもこれと同じ発想で、生徒が活用できる資料をなるべく集めて提示しました。
授業では、NHK for School、YouTube、筆者や研究機関のサイトなど、関連して紹介できそうな資料を事前に調べ、適宜提示しています。
※「生物が記録する科学」の授業で紹介したサイト
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