授業の学びを残して二度学ぶ~学びは一人一人の手の中に~
2020年6月16日公開
各務原市立桜丘中学校教諭 村上薫子
学校再開に伴い、各単元の指導時数の削減や1単位時間の内容の見直しが求められ、課題の焦点化、家庭学習の精選、学びを深めるプリントの作成など、模索しながらの授業実践が始まった。各単元で削減できた時間は、休校期間の遅れを取り戻す貴重な時間となる。教師は急ぎながらも生徒に「わかった!」「面白い!」と学ぶ喜びを味わわせたい。そこで、「指導時数削減に負けない学びの質の保証」をモットーに、人物の心の機微が巧みに描かれる『握手』の授業展開を考えた。
(1)「小説はこう読むと面白い」の提案
課題「人物の心情に迫り、主題を読み取ろう。」
①題名に着目 ②冒頭と最後の一文に着目
(2)教科書の本文と読む視点を提示した1枚プリントの配付
(全文を縮小してB4両面印刷し、余白に「読む視点」を記述)
(3)学習をまとめた「国語新聞」の発行
「小説はこう読むと面白い」の提案
どんな作品でも最初の出会いは題名であり、題名は主題につながるキーワードである。なぜ『握手』なのかを考えることを毎時間の課題とした。読み取りによる考えの変化や新たな発見が見いだせると実に面白い。そして、「小説の命」とも言える冒頭と終末。最後の一文の「わたし」の行動描写は主題にぐっと迫れるところである。また、ルロイ修道士が再会後すぐに亡くなったことが冒頭と終末の「桜」によって暗示される構成も見逃せない。
教科書の本文と読む視点を提示した1枚プリントの配付
作品を一目で見渡せる1枚プリントは、作品を丸ごと読む意識をもたせるのに効果的である。また、読み取ったことをテキストに直接書き込めるので、書く時間の短縮にもつながる。本作品を味わう手立てとして、プリントの余白に読み取りの視点を7つ提示し、生徒が意識して読めるようにした。
①なぜ題名は『握手』なのか。
・「握手」は何回出てきたか。
・それぞれの「握手」の意味は?
②ルロイ修道士の指言葉
③ルロイ修道士の人物像
④ルロイ修道士に抱いた違和感
⑤「わたし」がルロイ修道士の病気に気づいたのはいつか。
⑥最後の一文の「わたし」の気持ち
⑦ルロイ修道士は「わたし」と再会してどれくらいで亡くなったのか。
その他にも、1枚プリントは読み取りのポイントを教師が事前に記入できるよさがある。例えば、ルロイ修道士の人物像(③)が読み取れるところに教師があらかじめ線を引いておき(資料1)、生徒に考えさせた後に配付すれば、個々に自分の考えと比較することができ、全体での確認時間を省くことができる。そして、その1枚プリントを生徒の「テキスト入り授業ノート」とし、生徒が①~⑦の読み取りを書き込みながら学習を進められるようにした。(資料2)




学習をまとめた「国語新聞」の発行
「国語新聞」(資料3)は、学びの再確認・学びの足跡をイメージしたもので、生徒の手元における学習の手引きの役割も果たす。今回は、題名を読む面白さや視点⑥を中心に取り上げた。「わたし」の気持ちが直接的に書かれていない最後の一文「葬式でそのことを知ったとき、私は知らぬ間に両手の人さし指を交差させ、せわしく打ちつけていた。」の解釈は読者にゆだねられ、読書の醍醐味を味わうことができるだろう。

読み取りの視点の提示や、学びを効率的に書き込みながら作品を丸ごと味わえる1枚プリント、学習の手引きとなる国語新聞によって、生徒たちは二度学べる。これは他の教材・単元においても有効であろう。授業時数を縮小しても確かな学びは一人一人の手の中にある、そんな授業を今後も工夫していきたい。
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