新入生だからこそできる!臨時休業期間中の課題案 ~コロナ禍の生活を豊かにする「読書生活デザインノート」~①

2020年7月16日公開

埼玉大学教育学部附属中学校教諭 廿樂裕貴

臨時休業により5月末まで自宅学習となりました。休業中の課題をどうするか、どの学校でも悩まれていたことと思いますが、特に新入生への課題の示し方には苦慮されたのではないでしょうか。本校も入学式を延期したため、顔も見たことがない新入生にどういった課題を出すことが適切なのか、どうすれば別々の小学校から入学してくる生徒たちの学びをつなげることができるのか、中学校での学びを一切体験していない生徒が主体的に取り組むことができる学習課題とは何なのか。さまざまなことを突きつけられたように思います。そこで私は、次の3つをテーマに課題を出すことにしました。

  1. 国語の学習課題を行うことによって、彼らのコロナ禍の生活が少しでも豊かになること。
  2. 課題の回収・点検を通して、面識のない新入生のことを知ることができるようにすること。
  3. どの生徒にとっても無理のない学習課題であり、楽しく取り組めるものであること。

 今回は本校1年生に向けて出した課題の一部をご紹介したいと思います。

読書生活を豊かにする「読書生活デザインノート」

「読書生活デザインノート」は公益社団法人全国学校図書館協議会によって発行されている読書生活を豊かにするノートです。文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官でいらっしゃる杉本直美先生が監修されたことでも有名。このノートの魅力は、感想を記述する欄だけでなく、心に残った言葉や文を引用する欄や読みたい本とその理由を書く欄があることです。このノートを全員分購入し(1冊180円)、読書に取り組む課題を出しました。

休業中の課題(4月30日まで)

  1. 本を3冊以上読み、読書生活デザインノートに感想等を書くこと。ただし1冊に教科書の巻末資料にある夏目漱石著「坊っちゃん」の冒頭を必ず含めること。
  2. 教科書P90、P197読書案内「本の世界を広げよう」から読みたい本を2冊選び、読書生活デザインノートに書くこと。

保護者の方には「是非愛読書をお子さんに薦めてください。またお時間のある方はデザインノートのコメント欄に一言コメントをしていただけるとありがたいです。」と追記しました。

てびきは、全国学校図書館協議会が作成した生徒用配布プリント「『読書生活デザインノート』の書き方・使い方」をそのまま活用しました。ポイントが端的にまとまっているので、てびきとして有効です。

「読書生活デザインノート」の書き方・使い方(公益社団法人全国学校図書館協議会)

臨時休業延長に伴う学習課題の回収(5月12日)

緊急事態宣言が出され、臨時休業が延長されました。電車通学を余儀なくされる生徒もいる本校では、郵送で新しい学習課題を出しましたが、そこに返信用の封筒も同封し、今まで行った学習課題を返送させることにしました。「読書生活デザインノート」も同じように回収し、一冊一冊コメントをしました。

読んだ本、読みたい本、読書あれこれ、合わせて1,000冊を超えていました。なんといちばん多い生徒で約3週間で19冊の本を読破していました。しかも読んだ本は「三国志」や「太平記」などの歴史もの。小学校からの引継ぎではわからない生徒独自の興味関心を捉えることができたこともこの課題の収穫でした。

ほとんどの生徒が課題の3冊を超える冊数の読書に取り組んでいます。すべてにコメントをするのは大変でしたが、コメントをすることで読書を通した双方向のやりとりをし、いわゆる「読みっぱなし、読ませっぱなし」の状態から脱することを目指しました。ノート指導でもそうですが、書かせたからにはコメントをすることが重要です。忙しいときにはひと言になってしまうこともありますが、「先生は君のノートをちゃんと見ているよ。」という合図を送ることは、主体的な学びへとつながっていくと思います。

新入生の読んでいた本

新入生の読んでいた本は次のようなものに分類できました。

小学生に人気のもの

宗田理、あさのあつこ、神永学作品など(ぼくらシリーズは大人気でした。)

現代小説

上橋菜穂子、重松清、有川浩、住野よる、東野圭吾作品など(「きみの友だち」が最も多かったです。教科書の読書案内の影響と中学校で友達ができるかという新入生らしい悩みから選書に至ったようです。読書はやはり生徒の生活を表しています。)

歴史小説

司馬遼太郎作品、三国志など

近代文学

「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」「こころ」「三四郎」「羅生門」「蜘蛛の糸」「人間失格」「走れメロス」など(宮沢賢治は不動の一位でしたが、次いで夏目漱石が2位。課題読書の「坊っちゃん」で敷居が下がったのと、保護者のお薦めにより手に取った生徒が多かったようです。「こころ」を薦めた保護者が多かったのは、高校の教科書の影響でしょうか?)

翻訳小説

「星の王子さま」「モモ」「不思議の国のアリス」「十五少年漂流記」「老人と海」など(「星の王子さま」と「モモ」が同じくらい多かったです。ともに教科書の読書案内に載ってます。「星の王子さま」は一度読んだけれど、この機会に読み直すという生徒もいました。再読したことで今まで気に留めていなかったキツネの存在が気になってきたそうです。)

古典

「竹取物語」「源氏物語」

ノンフィクションを読んでいる生徒は一部に限られていました。自粛生活でさまざまな制約があったためか、想像力を働かせられる冒険小説やファンタジーが多かったように感じられました。


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