iPadを活用して詩歌を作ろう~withコロナとGIGAスクール構想を見据えた授業デザイン~①

2020年10月1日公開

上越教育大学附属中学校教諭 岩舩尚貴

はじめに

当校のICTを活用した授業実践の歴史は古く、その実践と研究が始まってから今年で32年目になります。2016年からは生徒一人一台にiPad(Apple社)が行き渡り、校内Wi-Fiの完備や一人一人へのクラウドの割り当てといった環境を整えることで、学習者主体の探究的な授業実践が可能となりました。また、2019年度にはApple社から、同社のテクノロジーを活用して、優れた教育実践研究を推進している学校に送られる「Apple Distinguished School」の認定を国立大学附属学校としては初めて受けることとなりました。

今回のコロナ禍に際し、当校も3月2日から休校を余儀なくされましたが、積み上げてきたICT実践や環境があったことで、休校翌日からいち早くオンラインによる短学活と授業を開始することができました。

今回はコロナ禍の中で「新しい生活様式」「新しい授業スタイル」を意識して実践した「詩歌の創作」について、紹介させていただきます。一般の学校ではまだ整備されていないハードやソフトはありますが、今後展開されていくGIGAスクール構想に向け、全国の先生方の参考になれば幸いです。

以下に紹介する2つの実践は、ともにApple社の学習プログラム「Everyone Can Create」の「写真」プロジェクトを参考にしました。また、当校ではiPadを使用していますが、ロイロノート・スクールをインストールすれば、他のタブレット端末でも汎用的に行うことができます。

Apple社「Everyone Can Create」

株式会社LoiLo「ロイロノート・スクール」

1年生「野原の生き物になって詩を創作しよう」(4月実践)

中学校生活に期待と希望を膨らませる新入生が国語教科書を開き、初めて出会う教材が工藤直子さんの「野原はうたう」です。しかし、今年度の新入生は入学式の翌日から休校になってしまい、授業開きをオンラインで行う形になりました。

先述した通り、当校は一人一台のiPad環境があり、新入生保護者にも入学前にiPad使用説明会を開いて基本的な使い方の説明をしていました。したがって、入学早々にオンラインでの授業が可能となりました。

生徒の学習活動は以下の通りです。

  1. 教師が自作した「表現の技法」動画を視聴する
  2. 「野原はうたう」の詩4編を仲間と音読する
  3. 「野原の生き物」視点で家の周りの風物の写真を撮る
  4. 「表現の技法」を使いながら「野原の生き物」視点で詩を創作する
  5. 仲間の詩を鑑賞する

(1)教師が自作した「表現の技法」動画を視聴する

「野原はうたう」を学習するにあたり、まずはじめに行ったのは、当校国語科の紹介動画と、「言葉3 さまざまな表現技法」(1年P.219)の授業動画の配信です。動画の配信や、活動の指示は全てGoogle classroomで行いました。

年間計画では、2学期に学習する「表現の技法」ですが、今回の状況に合わせて単元を入れ替えました。その理由は「表現の技法」で獲得した知識・技能を活用して「野原の生き物」になりきって詩を創作する活動を行うためでした。

 

(2)「野原はうたう」の詩4編を仲間と音読する

ビデオ会議アプリ「Zoom」で同期し、「野原はうたう」の詩4編を音読しました。すでにZoomを使って朝学活や終学活を行っていましたので、同期型授業は比較的スムーズに行うことができました。まだ話したことのない仲間たちと画面越しに音読をするのは戸惑いもあったかと思いますが、授業を通して「つながり」ができた時間だったようにも思います。(余談ですが、当校音楽科はZoomを使った合唱の授業も行いました)

(3)「野原の生き物」視点で家の周りの風物の写真を撮る

iPadのカメラアプリを使い、「野原はうたう」の詩のように、人間以外のものの視点で写真をたくさん撮り、気に入ったものをロイロノート・スクールの提出箱に提出するよう指示しました。提出箱に出された写真は、共有することができ、仲間がどんな生物になりきって写真を撮ったのかを家にいながら確認することができます。これもまた授業を通して新しいクラスの仲間のことを知る機会にもなりました。

(4)「表現の技法」を使いながら「野原の生き物」視点で詩を創作する

撮った写真を材料にして、「野原の生き物」になりきってロイロノート・スクールで詩を創作しました。その際に、動画で学習した「表現の技法」を使って創作するよう促しました。

(5)仲間の詩を鑑賞する

ロイロノート・スクールの提出箱に提出された仲間の詩を鑑賞し、Googleフォームを使って感想を仲間に送り合いました。ロイロノート・スクールは「生徒間通信」という機能があり、自分のカードを相手に送信することも可能です。しかし、まだ中学校に入学して人間関係ができていないこともあり、今回は教師が一括で感想を集め、それらを各生徒に返すという形をとりました。

このように、今年度の新入生の最初の国語授業はオンラインで表現技法を学び、それらを生かして詩を創作するというものでした。教室での交流も始まっていない中でしたが、クラスメイトになった仲間の詩を読み合って互いの感性に触れる時間は、言葉による素敵な出会いの時間になったのではないかと思います。


掲載された記事および画像の無断転載を禁じます。