ブックガイド特別編 読書の喜び

2020年6月16日公開

札幌国際大学教授 高橋 伸

読書の喜びの一つに、同じ時代を生きる人の本を読むことがあります。中学校時代に夢中になった星新一を始めとして、高橋三千綱、村上春樹、山本一力、内田樹など。新刊が出るたびに本屋に飛んでいったり、評判だけ聞きながら文庫になるまで辛抱強く我慢したり。次はどんな本がどんなふうに私を驚かせてくれるのか、と胸を躍らせたものです。

一方、作者の最後の本を読み終えるという悲しい出来事もあります。北海道が誇る時代小説家の宇江佐真理は、66歳でこの世を去りました。髪結い伊三次の続きを、もう、これから読むことはできないのだと悟ったときには、穴のあいたような喪失を感じました。

本を読みながら、「私はこの人と同じ時代を生きているのだ」という思いが湧いてきて、胸が震えることがあります。まことに勝手な思い込みですが、大好きな作家と、今、この同じ景色を見ているのだと感じるのです。そして、そのことを誰かに感謝したいと思うのです。そんなときは、大好きな本を何冊も買って人々に薦めながら、この幸せを噛みしめるようにしています。もちろんこれも、読書の喜びの一つです。

分散登校や短縮授業が行われる中、もっと文章に触れたい、国語を学びたいと思っているあなた。

ぜひ、教科書から読書を広げてみませんか。例えば、2年生なら長編版の『アイスプラネット』を読んでみましょう。教科書の「アイスプラネット」にもう一人加えるとしたら、あなたならどんな人物を登場させますか?長編を読むと、作者が加えた登場人物がわかります。

その他にも、作者の別のジャンルの作品を読んでみるなど、(椎名誠はSF小説も面白い)読書を広げる方法はまだまだあります。

家で過ごす時間が増えています。読書を通して、さまざまな風景の中に出かけてみましょう。

中学生に向けて

『春や春』 森谷明子 著
光文社文庫/2017年

「俳句なんて年寄り臭いものをひねっている変人」だと思われたくないと語るのは、主人公の高校生茜。まっすぐに言葉と格闘する姿が素敵です。

夕焼雲でもほんたうに好きだつた

ストーリーの中で重要な役割を果たす俳句です。心揺さぶられた人は、読んでみてください。

『つむじ風食堂と僕』 吉田篤弘 著
ちくまプリマー新書/2013年

好きな人は深々と好きになってしまう吉田篤弘。今回は少年が主人公の、とっつきやすい作品を紹介します。仕事について考えたくなる一冊です。悪くないな、と思った人は『つむじ風食堂の夜』もきっと気に入るでしょう。

教師に向けて

『3年間を見通せる 学級経営コンプリート』
冨山哲也 杉本直美 編著/東洋館出版/2020年

中学校国語教師には、おなじみのお二人の編集。執筆者が全員国語教師という、少し変わった学級経営の本である。3年間を見通しながら、教師が頭を悩ませる行事や、直面する問題について丁寧に解説しています。国語教師らしく、生徒や保護者にかける「言葉」を大切にして、学級づくりに取り組んでいることが伝わる書きぶりです。教師歴ヒトケタの先生にお薦めしたい本です。

『アクティブ・ラーニングとは何か』 渡部 淳 著
岩波新書/2020年

題名の通りに、アクティブ・ラーニングとは何かがわかります。読み進めるうちに、ぼんやりと正体がつかめなかったアクティブ・ラーニングの輪郭が、はっきりしてきます。アクティブ・ラーニングというと、実践に目が行きがちですが、この本に書かれているように、理論と実践の両方がかみ合ってこそだと、改めて感じました。

保護者に向けて

『ことばの果実』 長田 弘 著
潮出版社/2015年

言葉のもつ力に圧倒され、何度も途中で本を閉じては、その言葉を深く味わう。そんな一冊です。本当は、長田弘の「全作品」がお薦めなのです。誰がいつ手に取っても、その本が長田弘のものであれば、間違いないからです。彼の「最後のエッセー集」を、味わって読んでみてください。

『なつみはなんにでもなれる』 ヨシタケシンスケ 著
PHP研究所/2016年

何かを語るのがもどかしいような本です。読んでください。読み終わったら中学生にも読ませてください。一冊の本について語り合うのも、読書の喜び。たぶん、子どもと親の両方の経験があって、この本の醍醐味が味わえるのでしょう。


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