新入生だからこそできる!臨時休業期間中の課題案 ~コロナ禍の生活を豊かにする「読書生活デザインノート」~③

2020年7月16日公開

埼玉大学教育学部附属中学校教諭 廿樂裕貴

オンライン補習の最後に「今日のブックトーク」

本校では5月からZoomによるオンライン補習を行いました。家庭の情報端末の設置状況やオンライン上の学習による生徒の負担も考えて、国語は全部で3コマのオンライン補習を実施。オンラインでは双方向のやりとりをすることに限界があること、新入生のため互いに面識のない生徒も多数いること、15分という時間制限があることなどを踏まえて、補習では言葉の単位・文節の関係などの文法事項の知識を教えることを中心に行いました。(ちなみに保護者の端末を使っている関係でライブで見ることができない生徒もいたため、補習を動画で撮影・編集し、YouTubeでの限定公開も実施。これがなかなか大変でした。)

Zoom補習は一方的な知識の注入になりがちです。そうすると教える人は、分かりやすく教えてくれるなら誰でもよくなってしまいます。実際、新入生たちは自粛中に様々なオンラインの学習ツールや学習塾のオンライン講習を活用して学んでいたそうです。そんな中で現場の教師ができることは何だろうと試行錯誤の末に思いついたのが、ブックトークでした。入学したら国語を担当する教師が、自分にお薦めの本について語ってくれる。こういうことに新入生たちは学びの価値を見出してくれるのではないだろうかと考えました。ブックトークは補習の最後の1分間だけ。では、ブックトークで取り上げた本を紹介します。

5月11日(月)第1回ブックトーク

「逆ソクラテス」伊坂幸太郎 著/集英社
最近私自身が読んで爽やかな読後感に満たされた本。主人公の小学生たちが世間の思い込みや先入観を知恵と発想によって乗り越えていく連作短編集。「ぼくは、そう思いません。」など印象的な台詞が随所にあります。様々な制限がある自粛生活の中で、諦めがちな心にエネルギーを与えてくれる本として紹介しました。保護者から子供たちのことで悩み相談も受けていたので、読書を通して新入生たちを元気づけることを一番に考えた選書です。

5月18日(月)第2回ブックトーク

「読書力」齋藤孝 著/岩波新書
生徒のノートを見て、新書を読んでいる生徒が少なかったこと、特定の作者や平易な表現で書かれた本に偏っている生徒がいることが見受けられたために取り上げた本。読書好きと読書力があるということは違うということを、論理的に説明してくれます。読書生活を豊かにする上では読んでおきたい新書です。第2回にはちょうどよい難しさだと判断しました。私もこの本の選書リストから志村ふくみさんの名著「色を奏でる」に出会いました。

5月25日(月)第3回ブックトーク

「中学生からの大学講義1 何のために『学ぶ』のか」桐光学園・ちくまプリマー新書編集部 編/ちくまプリマー新書
6月からの学校再開に向けて、そもそも何のために学校で学んでいくのだろうという疑問をもっている生徒に向けて薦めた本。事実子供がそのようなことで悩んでいるという保護者からの悩み相談もありました。外山滋比古、鷲田清一など著名な大学教授が中高生に向けて行った講演の書き起こしなので、語り口も親しみやすいです。これからの変化の激しい世の中で生きていく新入生には、背伸びしてでも読んでもらいたい本だと思い、選びました。

ブックトークでこの3冊をお薦めしたところ、インターネットで購入して休業中に読んだ生徒もちらほら。学校再開後に私のところに来て、「『逆ソクラテス』読みました。私は、『敵は、先入観。』というセリフに心をつかまれました。」などの感想を伝えてくれる生徒も多くいました。休業期間で会うことができない時に同じ本を読んだという経験は、普段以上のぬくもりのあるコミュニケーションを生んだようにも思えました。

「デザインノート」から生徒を知る

休業中の課題のテーマとして、「面識のない新入生のことを知ることができるようにする」というものを挙げましたが、「デザインノート」はうってつけでした。

ある女子生徒は瀬尾まいこさんが好きで、「あと少し、もう少し」「そしてバトンは渡された」の感想を書いていました。「先生のお薦めはありますか?」と聞かれていたので、「私の瀬尾作品ナンバーワンは『戸村飯店青春百連発』です。私と弟の生活を見られてる!? と思うほど。読みながら頷きが止まりませんでした。」とコメントしました。その後その生徒も購入して読んで気に入ったようです。男兄弟は不思議だと言っていました。入学後自己紹介も兼ねて行った単元、「伝えよう、休校中に集めた言葉」では、その生徒は『戸村飯店青春百連発』で「惜別」という言葉の意味を学んだと紹介していました。

先ほど紹介した「やまなし」の考察を書いた生徒は、新型コロナウイルス感染症を防止するために、臨時休業中の期間を岩手県の祖父宅で過ごしていたそうです。「デザインノート」の「読書あれこれ」では他の宮沢賢治の作品についての感想も書いていましたが、宮沢賢治と自然を結び付けている記述がたくさんありました。宮沢賢治のふるさとである岩手県で作品を読んだことが、あれだけ豊かな考察を生んだんだなと納得させられました。休業明けには岩手県での生活についても教えてもらいました。

これらは一部にすぎませんが、「デザインノート」から分かった生徒の選書と記述により、生徒のことを知ることができるようになりました。どんなスポーツに興味があるのか、趣味は何なのか、どんな悩みをもっているのか。読書はそのことを直接教えてくれるわけではありませんが、間接的に生徒の情報を少しずつ教えてくれます。休業中に読書を通して生徒のことを少しでも理解することができたのは有意義だったと思います。

休業中の課題として「デザインノート」を出してみて

「坊っちゃんはなまいきで、少しわがままだけど山嵐との友情や赤シャツと野ダをたおすところが読んでいてスカッとしました。」ある生徒の感想です。この生徒は教科書の冒頭からこのあとの展開に興味を持ち、「坊っちゃん」を購入して最後まで読み切りました。オンライン補習でインターネットの電子図書館である「青空文庫」を紹介したこともあって、同様に結末まで読み切った生徒もある程度見られました。自粛生活で様々な制約がある時期だからこそ、落ち着いて読書に親しむことができた生徒もいたようです。先日行われた保護者会では、「先生が薦めてくれた読書生活デザインノートのおかげで、息子が自分から読書をするようになりました。」との声もいただいています。課題の一つとして、読書に取り組んだことで、コロナ禍の彼らの生活は少し豊かになったようです。

学校再開後に学校図書館で行ったガイダンスでも、「デザインノート」を活用し、読みたい本をリストアップさせました。図書館の利用人数も例年より伸びているとの話を図書館司書さんから聞いています。

最後に、自分でテーマを決めて「読書あれこれ」に取り組むことは、学習指導要領の指導事項〔知識及び技能〕(3)オ「読書が、知識や情報を得たり、自分の考えを広げたりすることに役立つことを理解すること。」の指導につなげることができそうです。「デザインノート」の記述を見てみると、読書を通して、言葉を学んだり、感性を磨いたり、表現力を高めたり、創造力を豊かにしたりしている生徒がたくさん見られました。「デザインノート」は3年間継続して取り組んでいきますので、今後は「デザインノート」を用いた単元を行っていく予定です。読書生活が豊かになることは、その子の実生活が豊かになること。そう信じて、これからも読書に親しむ生徒を育てていきたいと思います。

本稿は、休業期間中の実践についてまとめましたが、このような読書生活を豊かにする試みは、夏休みにも応用できると思います。
年間を通じて行っていくことで、子供たちの読書への意欲や言葉を通して物事を見つめる目が育まれていくことでしょう。


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