コロナ禍でも、楽しく豊かな学びを!④ 四つの作戦とポイント、新しい授業提案を、実際の授業を例に(中・高学年)

2020年8月21日公開

北海道教育大学附属札幌小学校 中島大輔

前回は、コロナ禍における「話すこと・聞くこと」の授業の工夫として、低学年の実践を紹介しました。今回は、中・高学年を取り上げます。
なお、取り上げるにあたり、「コロナ禍における四つの作戦」「家庭との連携のための四つのポイント」「新しい授業提案」について、どの場面で、どのように取り入れたかが分かるよう、色分けすることとします。各実践は、その三つのうち、二つ以上は取り入れて行うようにします。

コロナ禍における四つの作戦
→◆作戦

①「ディスタンス」作戦
②「ICT活用」作戦
③「モノの共有」作戦
④「1 対 多」作戦

家庭との連携のための四つのポイント
→◆ポイント

①子ども・保護者への周知
②時間の目安を示す
③活動期間に余裕
④活動状況のチェック

新しい授業提案
→◆新提案

①目標設定を明確にして新たな活動や単元を構想する
②知識・技能と思考・判断・表現のバランスを重視
③子どもの「情」を大切にし、活動を通して「知」を獲得できるようにする
④この状況を踏まえた教材化を図る

小学校4年生「クラスみんなで決めるには」

一つ目は、小学校4年生の「話し合う」系列の単元である、「クラスみんなで決めるには」を取り上げます。この学習の指導目標は以下のとおりです。

  • 目的や進め方を確認し、司会などの役割を果たしながら話し合い、互いの意見の共通点や相違点に着目して、考えをまとめること。(思・判・表A(1)オ)
4年下巻、36ページ「クラスみんなで決めるには」

◆新提案 ねらいに沿った機会の保障

この単元では、司会グループ(司会、記録、時間)、発言者それぞれの役割を理解し、その役割に応じて話し合いに参加し、考えを形成する姿をねらいます。学級を半分に分けたチームの話し合い→学級全体での話し合いと段階を踏むとともに、話し合いとモニターという二つの立場を設定することで、多くの役割を経験する機会を保障し、互いの意図を理解しながら参加する態度と力を養うようにするのです。

この学習も、低学年と同様に、三つの活動に分けて構成します。

活動1 単元の見通しをもち、計画を立てる

活動2 話し合う活動をくり返し、コツを見つける

活動3 振り返り、試す

活動1 単元の見通しをもち、計画を立てる

はじめに、自分たちの学級での話し合いの様子を撮った動画を、全体で視聴し、単元の見通しをもてるようにします。そのためには、事前に特別活動の学級全体で話し合う様子などを録画しておく必要があります。そして単元の導入で、その動画を視聴させるのです。
視聴後、学級全体で交流をします。交流の中では、「進行役」「発言者」という二つの立場に着目するよう促します。「話し合いが進まなくて司会が困っているよ。」「発言する人の意見がバラバラで、見ているこちらもどうしたらいいか分からなくなる。」といった発言を取り上げ、どういったことで困り感が生まれるのかを明らかにしていきます。そして、「進行役の必要性」「発言者の工夫」についての問題意識が高まるように仕向けていきます。
次の時間には、話し合って決めたい議題について交流し、計画を立てる時間をとります。議題は、子どもの現状(問題や課題、取り組んでいる活動等)からつながる事柄を設定するようにします。教科書では、「地域へのお礼の会の内容(関連:総合的な学習)」を取り上げていますが、他にも、「ペア学年との交流会の内容(関連:学校行事)」や「学年で挨拶パワーアップ作戦(関連:特別活動)」などが考えられます。

活動2 話し合う活動をくり返し、コツを見つける

「活動2」は、話し合う活動をくり返す中でコツを見つけ、力を高めていく時間です。話し合いの仕方は、3段階に分かれます。

話し合い1 進行役への問題意識をもつ→動画で進行役のコツを見つけ試す

話し合い2 発言者への問題意識をもつ→動画で発言するコツを見つけ試す

話し合い3 人数が増えた際の問題に着目
→動画で全員が納得する進行・発言のコツを見つけ試す

この活動の前に、全員で話し合い動画を改めて視聴し、モニター観察の仕方を考えるようにします。つまり、話し合いのどのような点に着目しながらモニターを行うかを、予め決めておくのです。
その上で、実際に話し合いを行います。話し合い1と話し合い2は、学級の半数で話し合う活動にします。ここでは、児童から生まれるであろう問題意識を教師側で想定しておき、話し合いの後の交流で意図的に取り上げ、コツを見つけるきっかけとなるようにします。話し合い3は、学級全員で話し合う活動です。ここでは、人数がさらに増えますので、その際の問題点に着目しながらコツを見つけるようにします。
話し合いの際の、以下のような手立てを考えてみました。

◆新提案 バディ制で学びを連続

話し合いの問題点や解決策を各自が意識できるように、モニタリングを複数人バディ制にします。バディとは、ともに活動する仲間や相棒を指します。参加者グループとモニターグループを「バディ」として組み合わせを固定し、常に視聴しあうようにするのです。モニター役は、客観的に話し合いの流れを捉えた上で、バディである相手グループに対して発見したことを具体的に伝えたり、気づきや全体で学んだことを基にして自分たちの話し合いを進めたりできるようにするのです。

バディとして組み合わせを固定  

参加者グループ

モニターグループ

「立場に注目してみよう」 ⇔ 「自分たちも立場をはっきりさせよう」

また話し合いの感染症対策として、以下のような手立てを講じます。

◆作戦 注目カードで課題を可視化

コロナ禍では、対面して話し合うことに制限がかかります。モニター役が、個々にアドバイスする際にも、対面せずとも課題点が見えるように、話し合い参加者の机上に「注目カード」を置くようにします(モノの共有作戦)。個々が自分の話し合いにおける課題点や意識したいコツを示すことで、モニター役がその課題を意識しながら見られるようにするのです。

※司会役と発言役で、色を変えるようにします。
※学習で共有した「話し合いのコツ」の言葉を使うようにします。

活動3 振り返り、試す

「活動3」は、学んだことを振り返る時間とします。振り返りを行い、話し合いやモニターを行ってみて理解したことや身に付けたことが明確になるようにします。「途中で話がだいぶそれてきた時は、コツ①『時を戻す作戦』を使うといいね。」「話をまとめる時には、コツ②『キーワード作戦』を使ったら上手にできた。」など、子どもの言葉で言語化していくのです。さらに、それらのコツを別の議題で試す時間をとることが、力を定着させるために必要です。時数確保の面から、国語の学習内で試す時間を取るのが難しい場合は、他教科や学活で試す場を設けることも有効でしょう。

小学校5年生「どちらを選びますか」

二つ目は、小学校5年生の「対話」系列の単元である、「どちらを選びますか」を取り上げます。この学習の指導目標は、以下の通りです。

  • 互いの立場や意図を明確にしながら計画的に話し合い、考えを広げたりまとめたりすること。(思・判・表A(1)オ)
5年、96ページ 対話の練習「どちらを選びますか」

活動1 テーマ設定

活動2 討論とモニターその1

活動3 討論とモニターその2(その1と役割を入れ替えて)

活動1 テーマ設定

はじめに、対話のテーマを設定します。その時の留意点としては、対話のモニター役の児童が最後に判定する際の根拠をもてるような条件設定をする、ということと、テーマの内容を子どもたちにとって意見が出したくなるようなものにする、ということです。
教科書では、「家でペットを飼いたい!」というテーマを取り上げ、「休日に家でペットと過ごしたい。犬or猫?」について、依頼者を校長先生にする内容で設定しています。教科書の例の他にも、テーマを「短い夏休みを楽しみたい!」とし、「今の状況でも安全に楽しめるのは、海or山?」について、依頼者を学級担任として設定するのも面白いのではないでしょうか。または、テーマを「図書館にコーナーを開きたい!」とし、「『作者』でコーナーを作るなら、『レオ=レオニ(スイミー)』or『斎藤隆介(モチモチの木)』?」について、依頼者を図書館司書とすると、過去に学んだ内容を生かすことができます。
依頼を子どもに伝える方法としては、協力をお願いする依頼者に、子どもへの依頼動画を撮影させてもらい、子どもに視聴してもらうと、より意欲が高まって効果的です。

テーマが決まったら、実際に討論を行います。討論のしかたは、次のとおりです。

(1)テーマを子どもに伝える。
(2)各チームが意見を述べる。
(3)質疑応答をする。
(4)質疑応答の様子を踏まえ、どちらに説得力があったかをモニター役が判定。
(5)教師による助言等を行う。

活動2 討論とモニターその1/活動3 討論とモニターその2(その1と役割を入れ替えて)

活動全体としては、討論参加者とモニター役を入れ替えて、計2時間、討論を行うようにします。本単元の指導事項や配当時数を踏まえ、司会者は必ず子どもがする必要はないと考えます。むしろ、教師が司会をすることで、「情報の扱い方に関する事項」として思考ツールを効果的に活用し、「立場の違い」を明確にすることができるからです。ただし、しっかりと感染症対策をとって活動することは欠かせません。そこで、以下のような手立てをとります。

◆新提案 ねらいに沿った機会の保障

対話の練習系列は、全学年「話し合う」系列の前に位置付いており、指導事項のつながりも明確です。5年生の両系列のキーワードは、「立場の違いを明確にする」ことです。違いを明確にするためには、「比べる」という思考が必要になります。「比べる」思考ツールを活用して、子どもの考えを視覚化し、互いの考えを比較しながら話し合えるようにしていく手立てが有効です。「情報の扱い方に関する事項」との関連も図りながら、子どもの「比べる力」の育成を図っていきます。
(教科書参照:ベン図→P.249、座標軸→P.132)

◆作戦 「教師対子ども」と同一方向対話

  • ICT活用によって(ICT作戦)、同一方向対話でも、互いの顔が見えるようにすることができます。討論を録画しておき、モニター役の判定の根拠にした発言を再生できるようにすると、より効果的でしょう。
  • 黒板に短冊や付せん等を活用することで、一人一人の発話量を減らすことができます。
  • 司会を教師が務めることで(1対多作戦)、子ども全員が同一方向を向いて話せるようにします。

「教師 対 子ども」形式で進めるので、一人一人の立場が一目で分かるよう、「ハンドサイン」を用いることも有効です。例えば、「(2)各チームが意見を述べる。」の後、モニター役に対して、現時点でどちらの意見に説得力があったのかをハンドサインで示すように促し(犬派はグー、猫派はパーなど)、その様子から各チームが「(3)質疑応答をする。」の際の作戦を考えられるようにする、というのも面白いのではないでしょうか。
「教師 対 子ども」の形式をとる方法で提案していますが、この方法のデメリットも当然あります。対話という活動にも関わらず、一人一人の話し合いへの参加回数が限定されたり、一人当たりの発言量が少なくなったりすることです。
そこで、本単元後の「話し合う」系列では、ホワイトボードやサイド黒板を活用したり、模造紙と短冊・付箋を活用したりして、同様の場を複数設置することで、コロナ対策を講じながら、対話の機会を増やすことができると考えます。また、家庭でも対話の時間をもつよう促し、機会を増やすことができます。

◆ポイント 家庭でも議論や対話の機会を

 家庭でも、同じテーマや内容で話し合うことが可能です。その際は、学年便りなどに「活動のねらい」「話し合うテーマとルール」を明記し、保護者と情報共有することが大切です。モニター役もいると、さらに盛り上がるのではないでしょうか。また、家庭での話し合いの様子や結果を学校で報告させ、学校での内容や結果との違いを取り上げてみるのも面白いでしょう。家庭での議論や対話については、先に述べた「クラスみんなで決めるには」でも適用できます。

さて、新型コロナウイルス感染症の対策が日々求められる中、全4回にわたり、「話すこと・聞くこと」の学習を楽しく豊かなものにするための提案をさせていただきました。今回の提案や実践例が、皆さんの進める教育活動の一助となれば幸いです。特に、「コロナ禍における四つの作戦」「家庭との連携のための四つのポイント」「新しい授業提案」について、ご自身の国語科授業に生かせていただけたなら、この上ない喜びです。
現在、学校現場はコロナ禍で非常に苦しい状況に置かれており、この状況はしばらく続くことでしょう。私たちは引き続き、「ウィズコロナ」における楽しく豊かな国語科学習を追究していきます。同じような志をもち、日々授業改善に努めている先生方は、全国にたくさんいることと思います。ぜひ一緒にがんばりましょう。また、そんな方々と、いつか何らかの形で交流できる日が来ることを願っています。


Illustration: 夏野なえ