コロナ禍でも、楽しく豊かな学びを!① 「話すこと・聞くこと」の授業を構想する

2020年7月7日公開

北海道教育大学附属札幌小学校 中島大輔

新学習指導要領全面実施の年にまさかの感染症流行……

2020年度を迎え、小学校では学習指導要領全面実施となりました。知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成のバランス重視、授業時数の増加等、様々な面で改訂がなされました。4月からは、国語科において新たな授業への挑戦や指導の手立ての工夫に取り組む、意欲的な1年となるはずでした。

そんな矢先、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行しました。そして、各自治体では長い臨時休業措置の中で自粛が求められました。やっと学校が再開されるという時期となっても、学校現場では、年間指導計画や授業時数の見直し、感染症対策といった対応に追われ、各先生方も苦しい日々を送ったことでしょうし、現在もそうかもしれません。私もそんな一人です。
学校再開が間近に迫ったとき、私の頭に浮かんだのは、次のようなことでした。

「時数減の中、国語科の〇〇の単元は、どのように進めたらいいのだろう。」
「何をどのように活用すれば、あるいは、どのように工夫すれば、
〇〇の言語活動は子どもにとって円滑に進められるものになるだろう。」

皆さんの中にも、そのような思いをおもちの方が少なからずいたのではないでしょうか。
私は上記のような思いから、改めて新学習指導要領を読み、その重点についてしっかりと捉え直すことから始めてみることとしました。その上で、コロナ禍における各学年の国語科指導計画を立ててみることにしました。

コロナ禍における「話すこと・聞くこと」の課題とは?

すると、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の領域の中でも特に、活動の制限によって実施が難しいのが「話すこと・聞くこと」だと思うようになりました。ほとんどの活動において、人と人とが向き合い、耳を傾けたり必死に伝えたりして進めることが中心となるからです。
そこで、感染症対策に配慮して「話すこと・聞くこと」の学習を展開しようとするとき、「実際に授業が成立するか」「児童の評価は可能なのか」という2点で、光村図書の「話すこと・聞くこと」にある「耳を傾ける」「話し合う」「対話」「声を届ける」の各系列の学習内容を整理してみました(下の表)。判断基準としては、授業中の活動の中で児童どうしが「密閉空間」で「密接」「密集」とならない、ということです。文部科学省でも、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」を示しており、 その中で、近距離での活動や対面形式となる活動、近距離で大声を出す活動を制限しています。その制限の中で授業を行ったことをシミュレーションし、活動が成立する場合は〇、成立が難しい場合は△として分類しました。

※文部科学省「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル ~「学校の新しい生活様式」~」

表 コロナ禍における「話すこと・聞くこと」の授業と評価について(筆者作成)

系列 主な内容 授業が成立するか 評価できるか





  • しっかり聞き、質問を考えたり、実際に質問して考えを引き出したりする。
  • メモを取りながら聞く。
  • 述べ方が適切か考えたり、自分の意見と比べたりする。

話し手と聞き手のソーシャルディスタンシングを確保して、活動することが可能。

聞くテスト、メモの内容を観察することなどで可能。




  • 道案内の仕方を考える。
  • 互いの考えを認め合い、整理しながら話し合う。
  • 自分とは違う立場で考える。
  • 2つの立場から考える。
  • 色々な考えを聞き、考えを深めたり広げたりする。

話し合う中で整理したり考えをつくったりする必要があり、対面形式が基本となる。

児童どうしが話し合う活動を見取ることが、評価の基本となるため難しい。


  • 考えを出し合って問題の答えを考える。
  • 相手の考えのよさや、自分の考えと同じところを考える。
  • 役割を決めて意見を整理し、見通しをもって話し合う。
  • 目的や条件、計画に沿って話し合う。

児童どうしが言葉のやり取りを繰り返す必要があり、対面形式が基本となるため。

「話し合う」と同様、児童の活動を見取ることが評価の基本となるため、難しい。





  • 面白さやもっと知りたいことを考えて聞く。
  • 声の大きさや速さを考えて話す。
  • 相手や目的に応じて話す。
  • 必要に応じて資料を使う等して話す。
  • 説得力のある提案をする。
  • 思いや考えを効果的に話す。

話し手と聞き手のソーシャルディスタンシングを確保して活動することが可能。

題材設定のメモや、話し手が伝える様子の観察をすることなどで可能。

その結果、「耳を傾ける」「声を届ける」は、ほとんどの言語活動において、活動の工夫によって児童どうしが「対面」にならないようにし、距離を保つことができるため、一定程度授業が成立するのではないか、ということが分かりました。
一方、「話し合う」「対話」については、多くの単元の活動で児童どうしが「対面」となるため 、授業の成立が難しいのではないか、ということが分かってきました。

予測困難な事態の下でこそ、本当に生きて働く力を

では、どうしたらいいのでしょう。はじめに思いついたのが「単元の入れ替え」です。つまり、「話し合う」「対話」については学年の後半に位置づけておき、今のような状況が改善したら実施する、という方法です。
しかし、コロナ禍という状況が今後必ず改善していく、という保証があるわけではありません。そう考えると、単元を入れ替えることが現状の課題を解決できるとも言い切れないのです。
さらに、新学習指導要領に立ち戻ってみると、その基本的な考えとして「これからの社会が、どんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい」 とあります。コロナ禍というのは、まさに予測困難な事態です。「話すこと・聞くこと」でいうと、現在のような状況に置かれていたとしても、相手の話をしっかりと受け止めたり、工夫して伝えたりする力を一層高めていくことが、本当に生きて働く力となり得るのではないか、そう考えたのです。

※文部科学省「改訂に込められた思い」

学校が再開され、日々の教育活動を進めていくと、そのような思いは一層強くなっていきました。このような問題意識を、国語科授業について共に実践研究を行っている教員の仲間と話題にしたところ、同じような思いをもっているということが分かりました。そこで、現在の状況を踏まえながら新たな視点をもって授業作りを行い、提案していくことが必要だ、という結論に至り、コロナ禍における「子どもにとって楽しく豊かな学びのある『話すこと・聞くこと』の授業」を構想し、発信することとしました。

楽しく、豊かな学びのある授業づくりに資する対策とポイント

私たちは、はじめに、言語活動が本来の目標から外れないようにしながらも、学習活動を成立させる工夫を考えました。それが「コロナ禍における四つの対策」です。そして、年間授業時数が例年よりも少ない状況を考えると、家庭との連携も必要となってくると考え、「家庭との連携のための四つのポイント」として取り上げることとしました。 また、このような状況だからこそ成立する効果的な学習はないか、と考えました。そこで、「新たな『話すこと・聞くこと』授業の創造」として提案しようと思いました。

その1 コロナ禍における四つの対策

  1. 「ディスタンス」作戦
  2. 「ICT活用」作戦
  3. 「モノの共有」作戦
  4. 「1 対 多」作戦

その2 家庭との連携のための四つのポイント

  1. 子ども・保護者への丁寧な周知
  2. 時間の目安を示す
  3. 活動期間に余裕をもって
  4. 活動状況のチェックと対応

その3 新たな「話すこと・聞くこと」授業の創造

  1. 目標設定を明確にし、新たな活動や単元の構想を
  2. 知識・技能と思考・判断・表現をバランスよく
  3. 子どもの「情」を大切にし、活動を通して「知」を獲得できるように
  4. この状況を踏まえた教材化

次回は、これらの詳細についてお伝えします。


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