コロナ禍でも、楽しく豊かな学びを!② 四つの作戦とポイント、そして新たな『話すこと・聞くこと』

2020年7月17日公開

北海道教育大学附属札幌小学校 中島大輔

今回は、コロナ禍において、「話すこと・聞くこと」の学習活動を成立させるための基本的な工夫について、詳しくお伝えします。まずは、「コロナ禍における四つの作戦」です。

コロナ禍における四つの作戦

①「ディスタンス」作戦

飛沫による感染を避けるため、障壁となるようなものを子どもと子どもの間に設置したり、距離を置いて他者とやり取りできるような方法(電話等)を用いたりして、密を避けることができるようにする作戦。その際、子どもどうしの距離は原則1m以上確保し、さらにマスクを着用した状態で活動するようにします。

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②「ICT活用」作戦

動画撮影および動画視聴、リモート通話等を活用しながら他者とやり取りできるようにし、子どもどうしが密となることを避ける作戦。自分たちで動画を撮影することについては、ビデオカメラよりも、撮影したらすぐ視聴できるカメラ付きタブレット端末が使いやすくてよいです。その際、タブレット端末の操作についてもしっかり指導しておけば、より円滑に活動を進めることが可能となります。

③「モノの共有」作戦

子どもが作成した原稿、図や表、思考ツール等、さまざまな情報について、ホワイトボードに掲示する等の方法をとり、他者と一緒に精察しながらやり取りを行うことができるようにする作戦。他者と同一の情報を共有することで、やり取りを円滑に行うことができるとともに、同一の方向を向いてやり取りができ、対面となるのを避けることができます。

④「1 対 多」作戦

対面で他者と「1人 対 1人」となるのではなく、1人と多人数でやり取りを行う形、つまり「1人 対 多人数」とする作戦。その際、1人と多人数は一定の距離をとり、多人数のほうは同一方向を向くようにします。そのようにして感染予防をします。

家庭との連携のための四つのポイント

四つの作戦の他、家庭の教育力を生かすことで、学習活動を成立させる工夫についても考えました。
例えば言語活動が「スピーチ」なら、「学校でスピーチを考え、練習し、実際に発表する相手(聞き手)を家族とする。」「スピーチを家族に行い、もらった感想をもとに、自分のスピーチについて気がついたこと等をまとめる。」といった形で、家庭での学習活動を単元に位置付けることが考えられます。また「対話」であれば、「学級で共通テーマを決め、そのことについて家族で話し合いをし、結果を学校で報告する」といったことも可能となります。聞き手や対話の相手を家族とすることで、活動できることの可能性は広がっていくのです。
一方、家族を学習活動に位置付けることによる弊害も考えられます。
例えば、さまざまな事情により家族の協力を得るのが難しい家庭はどうすべきか、といった問題があります。
また、家族での活動を位置付けることで、本人の考えとは別の考えが取り入れられることがあります。そのことによって良い方向に進む方が多いのですが、反対に、本人の願いに適った活動ではない状態になることもあります。そのような弊害をなるべく避け、効果的な学習となるように注意することが求められます。
そこで考えた家庭との連携のためのポイントは、次の四つです。

①子ども・保護者への周知

家庭での学習内容や、取り組む際に配慮すべき点等について、子どもはもちろん、保護者にも分かりやすく周知します(お便り等で知らせる、懇談会で伝える等)。

②時間の目安を示す

取り組むのにどの程度の時間をかけるのか、子どもと保護者に目安を示します(保護者の負担軽減のために長時間を要するような活動は設定しません)。

③活動期間の余裕

家庭で取り組むのに一定の期間を設けます(各家庭の状況に配慮します)。

④活動状況のチェック

途中で家庭での取り組み状況を確認し、家庭の協力を得ることが難しい場合への対応を行います。

この四つのポイントを踏まえ、家庭との連携を図っていくようにします。

新たな「話すこと・聞くこと」 の授業

コロナ禍という状況がいつまで続くかは不透明であり、感染予防をしっかりとしながら手立てを講じて実践することは、今後も求められるでしょう。かといって、感染症対策が必要な状況というのは、国語科の学習としての制限や縮小が求められるばかりの、子どもにとって資質・能力をはぐくむ弊害だとだけ捉えるべきなのでしょうか。先にも述べましたように、コロナ禍というのは予測困難な事態です。そういった中においても、子どもが自ら学び、考え、判断して活動していく、それこそが資質・能力を育む、といえます。「話すこと・聞くこと」でいえば、どのような状況に置かれたとしても、相手の話をしっかりと受け止めたり、工夫して伝えたりする力を一層高めていくことが、本当に生きて働く力だといえるでしょう。
そう考えると、現在の状況を踏まえながら新たな視点をもって授業作りを行い、提案していくことが必要だと考えるのです。
このことを、「新たな『話すこと・聞くこと』」とし、授業を創ろうと考えました。「新たな『話すこと・聞くこと』の授業」は、次の4点に配慮して創ります。

①目標設定を明確にして新たな活動や単元を構想する

学習指導要領に示される目標に準拠しながらも、教科書に示される活動にとらわれず、新たな視点で活動や単元を構想し、具体化します。

②知識・技能と思考・判断・表現のバランスを重視

子どもが、目的意識や自分で設定した目標に基づきながら、獲得した知識・技能を生かし、思考・判断・表現できるように活動を設定します。あるいは、思考・判断・表現する中で、必要な知識・技能を獲得できるようにします。

③子どもの「情」を大切にし、活動を通して「知」を獲得できるようにする

単元の導入時に子ども自身が「話すこと・聞くこと」の活動に取り組みたくなるよう手立てを講じます。あるいは、「分かる」と「できる」の間にズレを生み、子どもの中に「不足感」「困り感」が醸成されるよう手立てを講じて、活動を通して新たな「知」を獲得できるようにします。

④この状況を踏まえた教材化を図る

学習指導要領に示される目標を基にしながら、コロナ禍という制限された状況だからこそ求められる「話すこと・聞くこと」の授業を構想します。例えば、言語だけでなく非言語を取り入れ、その効果について理解を深める言語活動が考えられます。

次回は、授業実践の具体的な内容についてお伝えします。


Illustration: 夏野なえ