コロナ禍でも、楽しく豊かな学びを!③ 四つの作戦とポイント、新しい授業提案を、実際の授業を例に(低学年)

2020年8月7日公開

北海道教育大学附属札幌小学校 中島大輔

前回は、コロナ禍における「話すこと・聞くこと」の授業の工夫として、「コロナ禍における四つの作戦」「家庭との連携のための四つのポイント」「新しい授業提案」について説明しました。今回は、それらの工夫について、実際の授業を例にして具体的に説明していきます。「話すこと・聞くこと」の学習の中でも、コロナ禍で成立させるのが特に難しいと考えられる「対話の練習」「話し合うこと」の単元について 、ともに授業研究をしている仲間と教材化した内容を取り上げます。今回は低学年、次回は高学年を取り上げます。
なお、取り上げるにあたり、「コロナ禍における四つの作戦」「家庭との連携のための四つのポイント」「新しい授業提案」について、どの場面で、どのように取り入れたかが分かるよう、色分けすることとします。各実践は、この 三つのうち、二つ以上は取り入れて行うようにします。

コロナ禍における四つの作戦
→◆作戦

①「ディスタンス」作戦
②「ICT活用」作戦
③「モノの共有」作戦
④「1 対 多」作戦

家庭との連携のための四つのポイント
→◆ポイント

①子ども・保護者への周知
②時間の目安を示す
③活動期間に余裕
④活動状況のチェック

新しい授業提案
→◆新提案

①目標設定を明確にして新たな活動や単元を構想する
②知識・技能と思考・判断・表現のバランスを重視
③子どもの「情」を大切にし、活動を通して「知」を獲得できるようにする
④この状況を踏まえた教材化を図る

小学校1年生「これはなんでしょう」

低学年で、一つ目として取り上げるのは、小学校1年生の「話し合うこと」の単元である「これはなんでしょう」です。この学習の指導目標は、次のとおりです。

  • 互いの話に関心をもち、相手の発言を受けて話をつなぐことができる。(思・判・表A(1)オ)
  • 身近なことや経験したことなどから話題を決め、伝え合うために必要な事柄を選ぶことができる。(思・判・表A(1)ア)

目標達成のために、「ヒントクイズをしよう」という言語活動を設定しました。ヒントクイズとは、出題者が答えに関するいくつかのヒントを出し、ヒントをもとに解答者が答えを導き出すクイズです。

1年下巻、102-105ページ「これは、なんでしょう」

◆新提案 「情報の扱い方に関する事項」と関連させて

教材化にあたり、「情報の扱い方に関する事項」の、「ア 共通、相違、事柄の順序など情報と情報との関係について理解することができる」を、活動の中に位置付けることとしました。ヒントクイズでは、ヒントを出す際、あるいは答えを導き出す際に、ヒントを出す順序を考えていくことが求められます。「情報の扱い方に関する事項」も、他の指導事項と同様、6年間でしっかりと積み上げていくことが重要ですし、しっかりと生きて働く力とするためには、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の学習と関連させて進めることが望ましいと考えたのです。そこで本実践では、相手に伝わるよう、事柄の重要度やつながりを考えながら話す順序を決めて話したり聞いたりすることを大切に、学習を構成していくことにします。

今回は、単元を「活動1」「活動2」「活動3」の大きく三つに分けて構成しました。

活動1 ヒントクイズを体験して、目標を立てる

活動2 ヒントクイズを作る

活動3 友達とヒントクイズを出し合う

活動1 ヒントクイズを体験して、目標を立てる

活動1では、子どもが解答者として実際にクイズを体験します。教師が出題者となって、答えに関するヒントを出し、そのヒントをもとに子どもが答えを導き出すという方法で行ってみます。この活動の意図は、解答者(=聞き手)の立場を一度体験することで、クイズの方法を理解し、その楽しさを味わえるようにすることです。
実践では、この体験をとおして、「自分たちでもクイズを作ってみたいな。」「友達にクイズを出したい。」という声が生まれ、クイズを出し合うという言語活動への期待がどんどん高まっていきました。その上で、「わくわくどきどき!ヒントクイズをしよう」という言語活動を設定しました。この「わくわくどきどき」という言葉には、出題者(話し手)と解答者(聞き手)が、どちらも「わくわくどきどき」しながらクイズに取り組み、最後に解答者が正解を答えることで、「正解してもらえた(出題者)」「正解できた(解答者)」という気持ちが生まれ、どちらも笑顔になれるように、という子どもたちの思いが込められています。
子どもは活動1を通して、既習事項である「伝え合うために必要な事柄」について理解していく姿が見られました。つまり、クイズという条件で、必要な情報は何かを考え、理解していったということです。

活動2 ヒントクイズを作る

活動2では、活動1で高めた思いを生かしながら、身近なものの中から答えとなるものを選んだり、そのヒントを考えたりします。既習事項「身近なことや経験したことなどから話題を決める」ことに、クイズという条件で取り組みます。「色」「形」「大きさ」などの見た目や、「いつ使うか」「何に用いるか」などの使い方について、他者と関わりながら見いだしていけるようにします。

クイズの答えとするものは、教師側で意図的に設定しました。右のように「細長い」「書く(描く)」「消す」「四角」のように、見た目や使い方に共通点のあるものを組み合わせて設定しました。そうすることで、ヒントを工夫する必要感を生むようにしました。
 子どもにクイズの答えとなるものを示す際には、バラバラに配置し、あえて共通点が分かりにくいようにします。そうすることで難易度を少し上げ、他者と関わりながら、自分の力で適切なヒントを考えていけるようにします。

◆作戦 パーテーションとモノの共有を組み合わせて

ただし、他者と関わりながら「答えとなるもの」と「そのヒント」について考えるためには、3密を避けるための対策が必要です。そこで、以下のように行います。

子どもどうしの机の間にパーテーションを用意(「ディスタンス」作戦)します。さらに、黒板に教室内の教具などの写真や絵(「モノの共有」作戦)を提示し、同じ方向を向いて話し合えるようにします。このように、二つの作戦を組み合わせることで、感染症対策とします。

活動3 友達とヒントクイズを出し合う

活動3では、実際にクイズを友達と出し合います。答えやヒントを変えたり、クイズを出す相手を変えたりしていく中で、出題者(話し手)と解答者(聞き手)、どちらも「わくわくどきどき」になるような、よりよいヒントの出し方を探っていく活動になります。

活動を進めていく中で、ヒントの数を教師側で制限し、少しずつヒントが少なくなるようにしました。ヒントを三つに絞ってクイズを出し合う活動では、友達とクイズを出し合う中で、「最後に答えが分かるようなヒントにしよう。」「三つの中でどのヒントから出すかも大切だよ。」という意見が出されました。ヒントの重要度や順序へ目を向け、よりよいヒントの出し方を考えていくことができました。

ヒントはワークシートに書き記すようにしました。

ただし、よりよいヒントの出し方が分かったつもりでも、実際にクイズを行ってみると思った通りに伝わらない、という子どもも少なからずいました。そこで、45分間の活動を「実際にクイズを出し合ってみて試す場」「(全体で話し合うことで)よりよいヒントの出し方を考える場」「改めて『わくわくどきどき』になるようクイズを出し合う場」という三つの段階で進めました。授業を実践してみて教師として気づいたのは、友達との交流によって見えてきたことを、活動を通して実感的に分かっていくようにすることが、生きて働く力につながるものになる、ということです。

小学校2年生「ことばでみちあんない」

二つ目として取り上げるのは、小学校2年生の「対話の練習」の単元である「ことばでみちあんない」です。この学習の目標は、次のとおりです。

  • 相手に伝わるように、話す事柄の順序を考えることができる。(思・判・表A(1)イ)
  • 話し手が知らせたいことや自分が聞きたいことを落とさないように集中して聞くことができる。(思・判・表A(1)エ)

「対話の練習」は、時数の少ない単元です。ですから、段階的に力を付けていけるよう単元構成を工夫することが大切になります。ここでも先の実践と同様に、単元を「活動1」「活動2」「活動3」として大きく三つに分けて構成します。それが下に示した三つです。この三つの段階は、子どもの活動自体がステップアップしていく構成としました。

活動1 地図を見ながら行う「ことばで道案内ゲーム」

活動2 聞き手が地図を見ないでメモを取りながら行う「ことばで道案内ゲーム2」

活動3 身に付けた力を活用する発展型ゲーム

2年上巻、112-113ページ「ことばでみちあんない」

活動1 地図を見ながら行う「ことばで道案内ゲーム」

活動1では、導入として、これまでに道案内をした経験を話し合います。道案内をしたことがある子もいれば、したことのない子もいます。このような経験は子どもによって差があるため、全員がイメージを共有できるよう、実際に道案内をしたことがある子に様子を話してもらったり、教師が体験を語ったりするようにします。
その上で、教科書にある地図を見ながら、教師による案内で待ち合わせ場所を見付けるゲームを実際に行ってみます。ゲームの中では、あえて曲がり角や曲がる方向がはっきりしない説明をすることにより、言葉を吟味する必要感を生むように教師が仕掛けます。

活動2 聞き手が地図を見ないでメモを取りながら行う「ことばで道案内ゲーム2」

活動2では、ペアで「言葉で道案内ゲーム」をします。「道案内ゲーム」では、道案内をする際、「目印になるもの」「○番目の曲がり角」「曲がる方向」などの情報について、道を進む順序に沿って伝えるのが大切だということを確かめていきます。
「言葉で道案内ゲーム」に慣れ親しんだら、今度は地図を見ずに、メモを取りながら教師による道案内を聞く「言葉で道案内ゲーム2」に取り組みます。地図を見ないので、必要な情報をしっかりメモすることが求められます。ゲームの後、しっかりと待ち合わせ場所にたどり着けたか、どんな内容をメモに取るといいのかについて、交流するようにしました。ここでは、「メモをとるとき」の学習を振り返るようにすると、既習を生かすことができます。
子どもたちからは、「全部メモしていると間に合わないよ。」「短い言葉と数字だけだと、すぐメモできたよ。」といった意見が出されました。
その後、ペアで、メモを取りながら「言葉で道案内ゲーム2」を行うこととしました。

◆作戦 パーテーションによって感染症対策

 この2つの道案内ゲームでは、本来子どもどうしが対面となって活動を進めることになりますが、3密を避けながら対話の練習をするためには、環境を工夫する必要があります。
 道案内という活動の特徴を考えると、子ども同士でペアとなる机の間にパーテーションを立てるという手立て(「ディスタンス」作戦)が有効と考えました。

◆新提案 不足を生むことで力を高める手立てとする

しかしこのことは、単なる感染症対策ではありません。パーテーションを立てることにより、子どもどうしでお互いの身振りや表情が見えにくい状況となります。そういった状況で道案内をする場を設けることで、話し手は「相手に伝わるように説明の順序や言葉をよく考える」という意識をもつようになり、聞き手としては、「大切な言葉を落とさないように集中して聞く」という意識をもつことができるようになる、と考えたのです。

活動3 身に付けた力を活用する発展型ゲーム

活動3では、前時までとは違う地図を使った発展型ゲームをします。この活動3は活用の場として設定し、身に付けた言葉の力を実感することができるような時間とします。今回は、「宝探し道案内ゲーム」を行いました。このように、それまでと異なる場面で考えたり表現したりする経験は、実生活に生きる力の育成につながっていきます。

実際に「道案内ゲーム」を行ってみて難しさを感じた部分もあります。2年生では、まだ方位を学習していないことから、曲がる方向は、地図に正対して「上」「下」「右」「左」で表すようにしたのですが、地図の中を進んだり曲がったりしているうちに、どちらの方向を進めばいいのかが分からなくなる子どもが少なからずいました。学級の実態や発達段階に合わせて、ルールを工夫する必要がありそうです。

宝探しゲームで用いた地図

◆ポイント 家庭で楽しみながら言語活動

2つの実践を取り上げましたが、どちらもゲーム性を高め、楽しみながら力がつくように工夫しました。ゲーム性を高めることで、自宅に持ち帰った際に、家族と一緒に楽しみながら取り組むことが可能となります。その際は、学年便りなどに「活動のねらい」「クイズやゲームのルール」などを明記し、言語活動について保護者と情報共有することで、家庭の協力を得るようにすることが大切です。

次回は、高学年での取り組みをご紹介します。


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