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授業のアイデア 小学校 国語5年

授業のアイデア

2016年2月1日 更新

下村 健一 小学校国語5年「想像力のスイッチを入れよう」

この説明文の筆者・下村健一さんに、メディア・リテラシーの授業のアイデアについて伺いました。

小学校国語5年の教科書に掲載されている教材「想像力のスイッチを入れよう」は、メディアからの情報を適切に受け止めるための想像力の働かせ方――「想像力のスイッチ」の入れ方について、わかりやすく説いた説明文です。
2016年1月29日発行の小社広報誌「小学校国語教育相談室 No.87」の特集「情報化社会における授業づくり」では、この文章の筆者であるジャーナリストの下村健一さんにインタビューを行いました。
「単なる“文章の読解”にとどまらず、題材となっているメディア・リテラシーそれ自体への理解も深めてもらえたら」と語る下村さん。インタビューでは、文章に込められた筆者の意図や、授業でメディア・リテラシーを教える際のポイントなどについてお話しいただきました。

広報誌「小学校国語教育相談室 No.87」はPDFでもご覧いただけます

ここでは、紙面でご紹介しきれなかった、下村さんのメディア・リテラシーの授業のアイデアの中から、一部をご紹介します。

導入:「このニュースをどうやって知った?」

「自分で直接見聞きして」「人づてで」「メディアによって」の3択で

僕がメディア・リテラシーの授業をするとき、まず初めにする質問があります。子どもたちでも確実に知っているであろうニュース(校内の出来事から世間の話題まで)をいくつか例に挙げて、

「そのニュースをどうやって知った?」
と尋ね、次の3択のうち、当てはまるものに手を挙げてもらうんです。

  1. ニュースの当事者から直接見聞きして知った。
  2. 友達や家族などから間接的に聞いて知った。
  3. テレビやインターネット、(校内のニュースなら)お知らせのプリントやポスター掲示を見て知った。

要するに、(1)は自分で見聞きして、(2)は人づてで、(3)はメディアによって、知ったことを意味します。
実際に手を挙げてもらうと、答えは三つに分散するので、次はこう尋ねます。

「じゃあ、(2)と答えた人にもう一度質問です。君の友達や家族は、それをどうやって知ったんだろう?」
と。そうやってたどっていくと、(2)はだいたいみんな(3)、ごく一部は(1)に収束されていきます。

最近、実際に学校の教室で使って盛り上がったのは、

「『SMAPが解散するかも!』という第一報を、どうやって知った?」
という質問。(1)メンバー5人のうちの誰かから、直接「オレたち、解散するんだ」と打ち明けられて知った、(2)友達や家族から聞いて知った、(3)ニュースを見て知った、の3択から選んでもらいます。
すると、(1)はまずいないし、(2)も最終的には(3)に合流していきますから、ほとんどの子が、(3)に手を挙げることになります。オリンピックで日本選手が勝ったニュースでも、会場でその瞬間を直接目撃した子はめったにいませんし、日本人がノーベル賞を受賞したというニュースでも、その本人から直接電話で報告を受けて知った子はまずいません。「ほとんどがみんな、メディアを通して知ったんだね」という話になるんです。

「メディアによって」ばかりに偏らないように

ただ、「明らかにみんながメディアから情報を得たに決まっている」という問いばかりでは、誘導になってしまいます。「自分たちはすべての情報をメディアから得ている」と、子どもたちが錯覚してしまいかねません。ですから、第3問あたりで、少し種類の違うことを尋ねるのがポイントです。(1)に手を挙げる子も混ざってくるような質問を用意しておくんです。

例えば僕は、東日本の学校に招かれて授業をするときには、

「2011年3月11日に大きな地震があったことを、どうやって知った?」
という質問をよくします。これも、同じ3択で挙手してもらう。すると、(1)自分で直接揺れを感じて知ったという子がかなり出てきます。しかし、

「その地震によって、津波や原発事故が起きたことはどうやって知った?」
と続けるとどうか。東北地方の沿岸部の学校では、押し寄せる津波を目撃したことから(1)に手を挙げる子もときどきいるでしょうが、そうでない地域では、多くが(3)に手を挙げるでしょう。
同じ2011年3月11日に起きたことでも、自分で直接体験して知った部分もあれば、メディアを通して知った部分もある。大切なのは、(1)だけにも(3)だけにも極端に偏らないようにうまく分散させつつ、「思ったより多くのことをメディアから知っているんだな」と子どもたちに気づいてもらうことなんです。

この導入のよいところは、全員が必ずどれかに手を挙げることができるという点。誰も仲間外れにならずに、ここでみんなが授業に巻き込まれて、「本当だ。たくさんの情報をメディアから得ているんだ」と実感することができる。この後、メディアとの接し方についてみんなで考えていく必要性を理解する、よい下地作りになるんです。

二つ目のスイッチ『他の見方もないかな。』

以上のような助走の後、「想像力のスイッチを入れよう」を読んでいくと、そこでは、情報を受け止めるときに大切にしてほしいスイッチが二重かぎ(『 』)付きで列挙されています。それは、(1)『事実かな、印象かな。』、(2)『他の見方もないかな。』、(3)『何がかくれているかな。』、(4)『まだ分からないよね。』の四つ。
それぞれに、本文にある「Aさん」のケースだけでなくさまざまな事例を用いると、理解が深まります。例えばここでは、二つ目のスイッチ『他の見方もないかな。』について子どもたちと考えるときのアイデアを二つご紹介します。

《順序》を入れ替える

授業で『他の見方もないかな。』の考え方を説明するときに、いつも使っている絵があります。それが、次の2枚。これを「たった2枚の紙芝居を見せるよ。どんな物語だと思う?」と言いながら見せるんです。

画像、紙芝居
A:人が走っている絵→犬が走っている絵
画像、紙芝居
B:犬が走っている絵→人が走っている絵

Aの順序を入れ替えたものがB。AとBからは、どんな物語が読み取れるでしょうか。
Aは、人が走っている絵→犬が走っている絵の順序。大部分の子どもたちは、「人が逃げていて、犬が追いかけている」と答えます。それに対して、Bは、犬が走っている絵→人が走っている絵の順序。「どんな物語?」ときくと、「逃げた飼い犬を、飼い主が追いかけている」と、多くの子が口をそろえて答えるでしょう。

たった2枚の紙芝居でも、見る順序によって、受け取る物語のイメージは一変する。それを受けて、「普段見ているニュースは、もっとたくさんの情報が、ある順序で並べられて伝えられている。もしかすると、その順序によって、君は物語のイメージを決めちゃっているかもしれないね」と話します。「だから、新しい情報に出会ったときには、この紙芝居を思い出して、『待てよ、並べ方を変えたら、他の見方もできないかな』と考えてみてね」と。

※下村健一さんのサイト「シモムラスイッチ」では、この2枚の絵を使った短い解説動画を見ることができます。

シモムラスイッチ

《重心》をずらす

『他の見方もないかな。』を考えるときに示す例は、《順序》の入れ替えだけではありません。例えば……。

いじめの相談が、昨年より増えた。

この一文を出して、「聞いた瞬間、いいニュースだと思った人? 悪いニュースだと思った人?」と投げかけ、それぞれに挙手してもらうんです。すると、ほとんどの子は「悪いニュース」のほうに手を挙げるんですが、「いいニュース」に手を挙げる子も何人かいたりするんです。
「悪いニュース」に手を挙げた子は、「これをいいニュースと考えるなんて信じられない!」という反応を示します。逆に、「いいニュース」に手を挙げた子は、「どうしてこれが悪いニュースなの?」と反応し、教室は一気に盛り上がります。

そこで、『他の見方もないかな。』の出番です。「悪いニュースだと思った人は、『いじめが増えたんだ』と考えたでしょう。でも、いいニュースだと思った人は、『相談が増えたってことは、相談できるいい先生や窓口が増えたんだ』と考えたんだよね」という話をします。例文中の「いじめ」と「相談」という二つの言葉のうち、自分が重心を置いて受け止めた言葉によって、ニュースのイメージが大きく違ってくることに気づいてもらうためです。

こんなに簡単な一文であっても、どこに重心を置いて捉えるかで、自分にとっての情報の意味が違ってくる。普段、見聞きしているニュースには、もっとたくさんの重心の置き所があるかも知れない。「だから、ちょっと立ち止まって、『他の見方もないかな。』と見直してみることが大切なんだね」と説明すると、みんな、「ああ、なるほど!」と実感してくれます。

――「想像力のスイッチを入れよう」の授業をするにあたって、先生方ご自身でも、このような事例をたくさん思いつかれているのではないでしょうか。そうした効果的な事例をぜひ交換させていただけたらうれしいです。

※下村健一さんが説明文「想像力のスイッチを入れよう」の意図、メディア・リテラシーについて教える際のポイントについて語ったインタビューは、小社広報誌「小学校国語教育相談室 No.87」に掲載しております。

広報誌「小学校国語教育相談室 No.87」

※この他にも、「想像力のスイッチ」の入れ方についての子ども向けの解説動画、メディア・リテラシーを教える際の留意点を説いた指導者向けの動画が、下村健一さんのサイト「シモムラスイッチ」で随時更新されています。

シモムラスイッチ

 

下村 健一 [しもむら・けんいち]

1960年、東京都生まれ。東京大学法学部政治コース卒業。1985年TBSに入社、報道局アナウンス班に所属。現場取材、リポーター、キャスターとして、「スペースJ」「ビッグモーニング」などで活躍。1999年TBSを依願退社。以後、TBSテレビ「筑紫哲也 NEWS23」「みのもんたのサタデーずばッと」等に出演を続けるいっぽう、市民グループや学生、子どもたちなどのメディア制作を支援する市民メディア・アドバイザーとして活動。2010年秋から2年半、民主・自民の3政権で内閣官房審議官等として総理官邸の情報発信を担う。東京大学客員助教授、慶應義塾大学特別招聘教授、関西大学特任教授などを経て、現在は白鴎大学特任教授。令和メディア研究所主宰。インターネットメディア協会理事。著書に『窓をひろげて考えよう』(かもがわ出版)、『想像力のスイッチを入れよう』(講談社)、『答えはひとつじゃない!想像力スイッチ1~3』(汐文社)など。    ※プロフィールは、2021年1月現在の情報です。

▼5年「想像力のスイッチを入れよう」筆者・下村健一先生の解説動画配信中!

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