道徳科でつけたい「情報モラル」の力
道徳科の授業の中で「情報モラル」を扱う際の留意点や内容について、三宅健次先生(千葉大学教育学部特命教授・附属中学校副校長)がお伝えします。
なぜ、情報モラルの扱いが「充実すること」になったのか
「特別の教科 道徳」の新設に伴って改正された学習指導要領では、情報モラルに関する扱いが「留意すること」から「充実すること」に変わりました。その背景には、情報社会の急速な進展に伴い、子どもたちを取り巻く情報社会の影の部分がさらに大きな問題となってきたことが挙げられます。
小学校の場合、情報教育を扱う科目はありませんが、コンピュータ機器を活用したICT教育が推進され、教科等の授業の中で情報教育が実践されてきています。いっぽう、情報社会の影の部分を扱う情報モラルは、情報教育を扱う科目がないため、実践しにくい現状があります。そこで中心となるのが、学習指導要領で「充実すること」となった、道徳の授業です。
いつ、どのように情報モラルを充実させるのか
それでは、道徳の授業の中で、情報モラルを充実させるために、どのような内容をいつ行ったらよいのでしょうか。
情報モラルの内容は多岐にわたりますが、大きく二つに分けることができます。一つは、情報社会における正しい判断力や相手を思いやる心、ルールやマナーを守る態度を育てる内容です。もう一つは、情報社会で安全に安心して利用できるよう、危機回避の理解や、情報セキュリティの知識・技能を身につける内容です。小学校の場合、このうち前者が主に道徳の授業で、後者が主に学級活動や総合的な学習の時間で扱う内容になります。
道徳の授業の中で、情報モラルを充実させるためには、少なくとも各学年で1時間は扱いたいところです。情報モラルの内容を低学年から行う必要があるのか、疑問に感じるかもしれません。しかし、情報モラルは必ずしも情報機器を扱った内容でなければいけない、というものではありません。低学年で扱う、「決まりを守る」「人の作ったものを大切にする」などの内容は、上の学年での「情報社会でのルールや法を守る」「情報社会での著作権」につながる内容で、情報モラルの一環と捉えることができます。中学年は情報機器を使い始める時期になりますので、節度ある使い方やインターネット上のコミュニケーションに関する内容、高学年では、もう少し視野を広げてマナーや情報社会での権利に関する内容がふさわしいと思います。
情報モラルの場合、日常のモラルの他に、匿名性や非対面性などのネットワークの特性が少し絡んできますが、道徳の授業の中で扱う情報モラルの内容は、情報社会や情報通信ネットワークの仕組みなど、専門的な知識がなくても授業を行うことができますので、臆せずに実践していきましょう。
三宅 健次(みやけ・けんじ)
千葉大学教育学部特命教授・附属中学校副校長。中学校技術科の教員として、Windows95が広まる以前から情報教育、特に情報モラル教育に取り組む。情報教育に関する論文および書籍の執筆、情報教育関連のテキスト作成の他、情報モラル教材の開発や情報モラルに関する講演なども多い。