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図書館へ行こう! 第1回

図書館へ行こう!

2017年9月6日 更新

猪谷 千香 文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第1回 プロの図書館員が認める図書館
――伊万里市民図書館(佐賀県)

「良い図書館って、どんな図書館ですか?」

最新の図書館事情をまとめた拙著『つながる図書館』(ちくま新書)をきっかけに全国の図書館を取材して歩くようになってから、よく聞かれる質問だ。しかし、答えることはとても難しい。
もし、小説が大好きな人だったら、ベストセラーがたくさん揃っている図書館が「良い図書館」だろうし、コーヒーを飲みながら読書を楽しむ人だったら、おしゃれなカフェのある図書館が「良い図書館」だろう。図書館を使う人の数だけ、その人にとっての「良い図書館」は存在する。

しかし、質問にちょっと手を加えてみたらどうだろうか。「私たちの町にとっての良い図書館って、どんな図書館ですか?」。するとイメージが鮮明となり、こう答えることができる。「子どもが集まる図書館です」。

今、日本は少子化という大きな問題を抱えている。さまざまな解決法が提案されているが、一番大事なのは、子どもに優しい社会であることだと考えている。そうでなければ、若い世代が子どもを産んで育てようという気持ちにはならないだろう。
一方、図書館は教育施設であり、最も利用されている公共施設でもある。図書館に子どもがあふれていなければ、私たちの社会が本当に子どもにとって優しいとは言えないと思うのだ。

では、あらためて自問自答してみよう。「子どもが集まる図書館は、どこにありますか?」。その回答としてまずご紹介したいのは、2015年に開館20周年を迎えた佐賀県の伊万里市民図書館である。

画像、伊万里市民図書館
伊万里市民図書館「南の庭」

『つながる図書館』を書くために図書館について調べていた時、あちこちの図書館関係の方から、「伊万里市民図書館はすごい」と異口同音に聞いた。よく雑誌の特集にある「シェフが認める他店の味」ではないが、プロの図書館員たちが認める図書館である。

当時、伊万里市に隣接する武雄市では、全国でTSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブが指定管理者となりリニューアルした、スターバックス併設の図書館(武雄市図書館)が話題になっていた。
しかし、伊万里市民図書館の話は聞いたことがなかった。過去の新聞記事も調べたが、全国紙は武雄市図書館のことばかりで、伊万里市民図書館についてほとんど情報は得られなかった。これは、思い切って行くしかない。2013年夏、初めて伊万里市民図書館を訪ねてみた。

エントランスを入ると、築20年近い建物は決して華美ではないが、清潔感があり、長年にわたって丁寧に利用されてきたことがすぐにわかった。伊万里市は人口約5万6000人の自治体だが、図書館では約400人の市民がボランティアとして日常的に活動。さまざまなイベントを自主的に企画したり、制作した作品を館内のいたるところに展示したり、ボランティアの方たちが活発に図書館を利用している様子が伝わる。

伊万里市民図書館は、館名に「市民」を冠するにふさわしく、市民が主役の図書館だった。その中には、子どもたちも含まれている。子どもの図書ゾーンに足を踏み入れると、大勢の「先客」がいた。ある子はお友達と相談しながら、書架で本を選び、ある子は小さな椅子に座って本を熱心にめくっていた。子どもの興味を引くような、奇抜な仕掛けや珍しいおもちゃがあるわけではないが、子どもたちはいたって普通に、本に触れている。
伊万里市民図書館では、これが当たり前の風景なのだろう。日常的に子どもたちが図書館へ通い、本を借りて読む。それを支えているのが、図書館の司書やボランティアの方たちの努力だ。

伊万里市の子どもたちは、乳児健診の際に行われるブックスタート(※1)で初めて絵本と出会い、保育園や幼稚園に入ると移動図書館車によるお話し会が開かれ、図書館の利用カードを作ってもらう。もちろん、これらの活動もボランティアとの協働だ。

画像、ブックスタート
ブックスタートでは、本を渡す前に実際に読み語りをする。ここでもボランティアの方の協力が欠かせない。
画像、お話し会
移動図書館車巡回の折に行う「出前おはなし会」。ボランティアの方によるパネルシアターの様子。

家庭や学校で同じ本をみんなで読んで感想を言い合い、コミュニケーションをはかる「家読(うちどく)」(※2)の運動も、図書館を中心に全市を挙げて行われている。こうして、子どもたちは自然と図書館に足を向けるようになるのだという。なるほど、他の図書館のプロたちが「すごい」というのも納得である。

この連載では、伊万里市民図書館のような「子どもが集まる図書館」を訪ねて行きたいと思う。少しでも、子どもに優しい図書館が広がるように。


※1 乳児健診に合わせて、赤ちゃんに絵本との出会いをプレゼントする取り組み。図書館の利用案内やおすすめの絵本を紹介したリーフレットなどと絵本2冊が入った「ブックスタート・パック」を保護者に渡し、家庭で心豊かな時間をもつことの大切さを伝える。

※2 家読(うちどく)

伊万里市民図書館

〒848-0027 佐賀県伊万里市立花町4110番地1
TEL:0955-23-4646 FAX:0955-22-3231
【開館時間】10:00~18:00(金曜日は20:00まで)
【休館日】毎週月曜日・祝日・年末年始、館内整理日(第4木曜日)・特別整理日

Photo: 伊万里市民図書館

次回は、岐阜市立中央図書館を紹介します。

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