図書館へ行こう!
2020年12月22日 更新
猪谷 千香 文筆家
図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。
猪谷千香(いがや・ちか)
東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。
第11回 学校の真ん中にライブラリー
――軽井沢風越学園(長野県)で新たな学びが生まれる
「これからね、ミミズとりいくの!」
2020年夏、長野県軽井沢町の森の中にある「軽井沢風越学園」を訪れたとき、まず出迎えてくれたのは、子どもたちの笑顔だった。
ミミズをとりにいくと教えてくれた男の子は幼稚園の子だろうか。バケツを持ち、えっちらおっちらと森へ向かっていく背中が、かわいらしくも頼もしかった。
ここ、風越学園は、2020年4月に開園・開校したばかりの幼稚園と義務教育学校で、幼稚園児から中学生までが学ぶ。開校前から注目を集めてきたが、理由の一つはそのライブラリーにある。
「学校の真ん中がライブラリーになっています。それ以外にも、学校中に本棚があって、本が誘いかけてくるというイメージですね」
そんなふうに説明するのは、風越学園の司書教諭、大作光子さんだ。昨年度より着任、ライブラリーの立ち上げに取り組んできた。2万7000冊の本は、大作さんによる選書だ。
大作さんの言葉どおり、一歩校舎に足を踏み入れると、目に見えるいたる場所に本棚が設えてあり、本の森の中を歩いているような感覚になる。
校舎は、浅間山を臨むテラスを「要」として、扇状に広がっている。1階にライブラリーと特別教室、2階には普通教室があり、1階と2階をつなぐスロープにも本棚がある。
ライブラリーは、4つのエリアごとに色分けされているのが特徴だ。幼稚園の子どもたちがよく利用する「絵本・遊びエリア」は黄色。いわゆる日本十進分類法(NDC)でいうところの9類、文学の本が集まる「読みものエリア」は緑色。最も幅広いのが橙色の「探究エリア」で、0類から8類までの本が配架されている。
そして、この学校ならでは、と思わされるのが水色の「創作エリア」である。
「創作エリアは、0類から8類の中から、理科室や図工室・工房でのものづくりにつながっているもの、それから、生き物や農業などにつながるものもあります。創作活動につながるような本ですね」という大作さん。
「創作エリア」の先には、すぐに創作に取り組める図工室・工房などのラボスペースがあり、学校のカリキュラムと環境設計は、実は密接な関係性がある。
風越学園では、「自己主導」「協同」「探究」を柱とする独自のカリキュラムを展開している。幼稚園年少から小学2年生までを「前期」、小学3年生から中学3年生までを「後期」とし、異年齢で混じり合いながら「協同」で学ぶ。大人ではなく、子ども自身が学びコントローラーを持つ「自己主導」、そして自分で問いを見つけ、自分なりの方法で「探究」する。
時間割も子どもたちが自ら決めるというから、驚きだ。子どもたちも、教室にとどまっていない。教材を持って、校舎内のあちこちに移動し、本棚の間を行き交いながら探求していく。そうしたカリキュラムには、本は絶対に欠かせない。
例えば、7年生(中学1年生)が、取り組んでいたのが、旧軽井沢をテーマにした謎ときゲームを作るというプロジェクト。そのプロジェクトを進めるにあたり、必要だったのが軽井沢の地域資料だ。
「もともと地域資料は集めていたので、その本をブックトラックに乗せました。ライブラリーのOPAC(オンライン蔵書目録)上でも、どういう本がブックトラック上にあり、誰が使っているか、わかる状態にしています。プロジェクトがたくさん並行して走っているとき、ブックトラックも校舎のいろいろな場所に置かれているだろうと予想されたので、使っているシステムをカスタマイズしてもらいました。」
子どもたちの学びに合わせ、本棚も変化する。普通の学校図書館では考えられないようなことが起きるのが、風越学園のライブラリーだ。子どもが動けば、一緒に本も動く。
本に囲まれて育つ子どもたちを見ていて、司書教諭として気づきはあったか、大作さんに尋ねてみた。
「正直、どこまで読んでくれるかは未知数でしたが、みんな良い本を読んでくれるなあと思いました」
1年生から7年生まで週2回、「読書家の時間」があるという。
「その時間はひたすら本を読みます。読んだら読書ノートにアウトプットしたり、お互いに伝え合ったりする。また、どう読んだら面白いのかミニレッスンがあることも大きいです。」
学校の中心にライブラリーがあることは、子どもだけでなく、スタッフ(教職員)にも影響を及ぼしている。
「朝、子どもたちを迎えるまでの時間に、絵本コーナーをうろうろしているスタッフが多いです。みんな、今日は何を読もうかな、と本を探してくれている。それがあたり前の光景だということが、すごくうれしいです。もしも、職員室から学校図書館が遠くて、さらに鍵もかかっていたら、難しいと思います。でも、ここは校舎の入り口がライブラリーへの入り口なので。スタッフがそういう意識を持ってくれる、そして実行できるという環境がうれしいです」
学校が開校直後、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言下で、軽井沢町立図書館をはじめ、近隣の公立学校の学校図書館はすべて休館を余儀なくされた。しかし、風越学園のライブラリーだけは動いていたという。
「近隣に小学校3校、中学高校が1校ずつありますが、風越学園が地域の拠点になるような学校図書館になれたら、と思っています。いずれは、地域の子どもたちにも貸し出しできないかなあ、とか」。
これまでにない夢が、ライブラリーから広がろうとしている。
Photo: 軽井沢風越学園
次回は、アキシマエンシス(東京都)を紹介します。