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図書館へ行こう! 第8回

図書館へ行こう!

2019年8月21日 更新

猪谷 千香 文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第8回 子どもたちに、
本だけでなく遊具も貸し出す理由
――県立長野図書館

子どもにとって、図書館は必ずしも居心地のよい場所ではない。
以前、地方のある図書館を訪ねた際、ずいぶんと奥まった場所に児童コーナーがあった。その理由を、司書さんが残念そうに説明してくれた。

この図書館の児童コーナーは以前、日の当たる明るい玄関付近にあったそうだ。しかし、新聞雑誌のコーナーに隣接しており、そこの常連である利用者たちから、「子どもの声がうるさい」とクレームが入った。しかたなく、その図書館では児童コーナーを新聞雑誌コーナーから最も遠い場所へ移したという。

では、大人はどうかというと、事情はあまり変わらない。別の図書館を訪れたときには、玄関に図書館からのお知らせよりも大きな文字で、「館内禁煙」「飲食禁止」「携帯電話禁止」を告げる掲示が貼ってあった。入館する前から叱られているような気分になってしまった覚えがある。

図書館のような公共の場は、「誰かにとって良い空間」が、「別の誰かにとって悪い空間」になってしまう場合がある。そこで、管理者は公平を保とうとして、「誰かにとって悪い空間」になる原因を次々と排除する傾向にある。
その判断もわからなくはないが、図書館をもっと自由で楽しい場にできないのだろうか。「禁止」ばかりが増えていく図書館をみて、少し寂しい思いをしていた。

そんな頃に見つけたのが、県立長野図書館に2015年4月に着任した平賀研也館長のインタビュー記事だった(※1)。平賀館長は、図書館界ではよく知られた存在。前任の伊那市立図書館でも古地図アプリを制作して地域の魅力を伝えるなど、新しい試みを展開してきた。さて新しい赴任先では、一体、何をするつもりなのだろうとわくわくしていたら、記事では、平賀館長がまず、館内のいたるところに貼られていた「静粛に」「飲食禁止」などの貼り紙を剥がすことから始めた、とあって思わずにやりとしてしまった。

以来、県立長野図書館はどんどん変わっていった。ちょうど平賀館長の就任から4年となる2019年4月、長野市にある県立長野図書館をついに訪れる機会があった。

画像、県立長野図書館の館内
一般の図書館とは異なる光景が見られる県立長野図書館

わくわくしながら入ったら、まず1階にある児童書の部屋で出迎えてくれたのが、赤や緑のカラフルなストライダーだった。どうやら、貸し出してくれるらしい。
ストライダーは幼児向けの自転車のような遊具で、一般公道は走れない。しかし、実は県立長野図書館は長野市立若里公園の一角にあり、目の前にはストライダーで走るのにもってこいの公園が広がっているのだ。とはいえ、せっかく図書館に来てくれた子どもにストライダーを貸し出し、公園へ誘導するなんて、何を考えているのだろうか。

画像、ストライダー
児童書の部屋にあるストライダー
画像、タブレット端末
子ども向けのタブレット端末やボードゲーム​​​​

これ以外にも、タブレット端末が用意され、子ども向けのコーディングのソフトが使えるようになっていた。また、ボードゲームや双眼鏡と図鑑のセットなども揃っている。ここまで来ると、おぼろげながら平賀館長の思惑がわかってくる。
「五感を使って実感ある知を獲得しながら世界を再発見してほしいってこと」。今年5月、平賀館長のFacebookには、そんな言葉が書き込まれていた。情報は本だけにあるわけではない。全身でこの世界から知を得てほしいという、館長から子どもたちへのメッセージなのだ。

私がこのとき、県立長野図書館を訪れた理由は、3階フロアを大規模にリノベーションした「信州・学び創造ラボ」を取材するためだった。このラボは、信州に関する情報を知ることができる「信州情報探索ゾーン」、それから新しい社会的価値を創造するための空間「co-Learningゾーン」というふたつのゾーンに分かれている。「co-Learningゾーン」には、3Dプリンターなどの最新機器が備えられた「ものづくりラボ」も併設されていた。

画像、信州学び創造ラボ
信州・学び創造ラボ

一見、大人ばかりが利用しそうなフロアだが、子どもたちもここを大いに活用している。5月5日のこどもの日には、「ものづくりラボ」で、レーザーカッターやUVプリンターなどを使って鯉のぼりを作るワークショップが開かれた。これは県立長野図書館が、「信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センター・Fablab長野」などとの連携を締結したことから生まれたワークショップだった。

画像、鯉のぼりワークショップ
5月5日に「ものづくりラボ」で開催された、鯉のぼりワークショップ

この県立長野図書館では、子どもが本を読み、ストライダーやボードゲームで遊び、最新の機器の使い方を覚えながらものづくりを楽しみ成長する。そんな姿が想像できた。それこそが、平賀館長のねらいなのだろう。自由で楽しい図書館が、ここに生まれつつあった。

※1 マガジン航〈地方の図書館とその夜〉 第2回《長野》アルプスの図書館に「黒船」がやってきた

画像、平賀館長
県立長野図書館 平賀研也館長(右)

県立長野図書館

長野県長野市若里1-1-4 TEL:026-228-4500
【開館時間】一般図書室 9:00~19:00
      (土・日・祝日は17:00まで)
      児童図書室 9:00~17:00
【休館日】毎週月曜日・毎月最終金曜日(祝日の場合はその前日)、年末年始

Photo: 県立長野図書館

次回は、甘草屋敷子ども図書館(山梨県)を紹介します。

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