図書館へ行こう!
2017年12月19日 更新
猪谷 千香 文筆家
図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。
猪谷千香(いがや・ちか)
東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。
第3回 「住みたい」と言われる図書館
――武蔵野プレイス(東京都)
アンケートを取れば、「住みたい」と言われる街の上位にランクインする東京都武蔵野市。その図書館をネットで検索すると、やはり「住みたい」図書館と言われている。今年で開館6年になる「武蔵野プレイス」だ。
JR中央線と西武多摩川線が乗り入れる武蔵境駅から歩いて1分。公園の芝生の緑にひときわ映える、白くて丸みを帯びた建物が見えてくる。まるで、近未来の宇宙船のようなフォルムは、「市民の広場」をイメージして建築されたという。
事前にYahoo!のリアルタイム検索で、「武蔵野プレイス」と打ち込んでみると、TwitterやFacebookに「おしゃれ」「また来たい」「武蔵野市民になりたい」というものから、「住みたい!」というものまで、利用者の声がずらりと並んだ。
ここまで、評価の高い図書館は珍しいだろう。実際、2016年度は195万人が利用した。当初、想定された来館者数は70万人だったというから、その人気ぶりがよくわかる。一体、この不思議な建物になぜ人々が集まってくるのだろうか。その理由の一つは、地下2階にあった。
「図書館」と書いたが、正確に言えば、武蔵野プレイスは図書館を含めた四つの機能を持つ複合施設だ。地上4階、地下3階の建物は、図書館の他に生涯学習支援や市民活動支援の拠点となっている。そして、地下2階にあるのが、「ティーンズスタジオ」と呼ばれる青少年活動支援拠点だ。20歳以下の子どもたちが自由に使える空間が広がっている。
まず、目立つのはフロア中央に広がる「スタジオラウンジ」。中でも真っ先に目に入ってきたのが、テーブルサッカーの台だった。それだけでも十分、楽しそうなのだが、テーブル席に加え、ソファ席や靴を脱いで横になれるスペースまである。ここでは、従来図書館で行われていた勉強や読書だけでなく、食事やおしゃべり、昼寝もできるのだ。
もちろん、青少年向けの本や雑誌が揃う「アート&ティーンズライブラリー」もあるし、音楽やダンスのレッスンができるスタジオ、調理や工作ができるスタジオも備えられている。
最近、よく公共図書館の人と話していて話題になるのが、10代の子どもたちの「居場所」づくりだ。未就学児や小学校低学年は、親と一緒に公共図書館を利用してくれるが、それ以降は足が遠のいてしまう。いわゆる「若者の図書館離れ」といわれる傾向があるという。
学校と家庭の間、彼らがどこへ行くのかといえば、街のファストフード店やファミリーレストラン、ショッピングモールのフードコートで、友人たちと勉強したり、おしゃべりしたりして過ごすのだろう。自分の10代の頃を振り返って、それも悪くないと思いつつも、大人になった今では、あの「居場所」に本があったらもっといろいろなことができたのでは、とも考える。
それに、勉強や読書、おしゃべりだけが放課後の過ごし方ではない。社会が多様化している中、子どもたちもまた、多様化している。彼らのニーズに応える上で、図書館の機能だけに限らない武蔵野プレイスのあり方は、他の自治体の参考になるだろう。
「居場所」づくりは、ただ子どもたちにとって居心地の良い空間なだけではない。子どもたちはさまざまな悩みも抱えている。武蔵野プレイスのスタッフは、彼らの悩みを聞いたり、見守ったりしているのだ。事案によっては、その複合施設である強みを生かし、児童相談所やNPOなどにつなぎ、対応することもあると聞く。保護者や地域の人々にとっても、子どもたちが武蔵野プレイスにいてくれることが、安心につながっている。
10代をどのように過ごしたかが、子どもたちの未来を大きく変える。武蔵野プレイスで育った子どもたちがどんな大人になるのか、長い長い楽しみなのだ。
〒180-0023 武蔵野市境南町2-3-18
TEL:0422-30-1905
【開館時間】9:30~22:00
【休館日】毎週水曜日(祝日の場合は開館、翌日を休館)・年末年始・図書特別整理日
Photo: 武蔵野プレイス
次回は、「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」を紹介します。