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図書館へ行こう!
2018年3月14日 更新
猪谷 千香 文筆家
図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。
猪谷千香(いがや・ちか)
東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。
第4回 閉じた学校図書館の扉を開く魔法のサイト
「先生のための授業に役立つ
学校図書館活用データベース」
初めて「なでしこ図書館」を訪れた時、本棚よりも子どもたちの表情に目を奪われた。楽しそうに本を選び、司書を捕まえては元気に質問する。「次はどんな本を読もうかな」と友達と話しながら、貸出カウンターに長い行列を作る。
東京都小金井市にある東京学芸大学。教育の研究や教育に携わる人材の育成を目的に、幼稚園から大学院まで13の附属校園がある教育の一大センターであることが教育関係者の間では知られている。「なでしこ図書館」はその一つ、附属小金井小学校の学校図書館だ。蔵書数は約2万2000冊で、小学校の学校図書館の一校あたりの平均蔵書数の2.5倍。それに負けないくらい、本が大好きな子どもたちであふれていた。
![画像、なでしこ図書館の様子](https://assets.mitsumura-tosho.co.jp/4116/7603/5079/mw_library_0401.jpg)
![画像、なでしこ図書館の様子](https://assets.mitsumura-tosho.co.jp/6216/7603/5080/mw_library_0402.jpg)
その秘密はどこにあるのだろうか。昨年度まで司書を務めていた中山美由紀さんに話を伺うと、さまざまな学校図書館改革が背景にあった。中山さんが非常勤司書として着任したのは、2004年。当時の蔵書数は約1万6000冊で、前任者は司書資格を持たず、図書館活動は貸出など必要最低限の業務にとどまっていた。子どもへの貸出も必須ではなかったため、中には卒業するまでの6年間、借りた本が10冊に満たない子もいた。
そこで、中山さんは改革を始めた。書架を見直し、本の展示や読み聞かせを積極的に行った。「学校図書館の本が面白くなければ、子どもたちに見放されてしまう」というのが持論だ。同時に、担任教師たちにアプローチ。設定されていた「図書の時間」を利用して、教師たちと密にコミュニケーションを取り、授業支援を増やしていった。やがて、教師たちから学校図書館への信頼を得るように。孤立しない開かれた図書館づくりを進めた。
全国の学校図書館が抱える問題に、学校司書の孤立化がある。学校司書の仕事は、資格が必要な図書館司書や司書教諭と違い、長年にわたり「学校図書館担当事務職員」「学校図書館支援員」などと呼ばれて、資格も法制度上の位置付けも不明瞭だった。「学校司書」が初めて法制度上で明文化されたのは2014年で、つい最近のことなのだ。
現在では学校司書の配置は努力義務となったが、2016年に公表された文科省の調査結果によると、その配置率は6割に満たない。さらに、学校司書は非正規雇用が多く、任期も短いという傾向がある。司書の立場は学校内で弱く、意欲はあっても待遇や環境がなかなか追いつかないという現実があるのだ。また、12学級以上の学校では必置となった司書教諭の多くが兼務であり、学校図書館にまで十分に目配りすることは難しい。
こうした学校図書館の活性化のために何かできないか。中山さんは2009年、附属学校の司書たちと「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」というサイトを立ち上げた。学校図書館が行った授業支援の実例や日々の工夫、インタビューなどを集めたもので、東京学芸大学内にある学校図書館・大学図書館の関係者や担当部課で構成する「東京学芸大学 学校図書館運営専門委員会」が運営。現場の学校教師や学校図書館司書から熱い支持を得て、2016年秋には「Library of the Year 2016」の優秀賞を受賞した。
子どもたちにとって、最も身近な図書館は学校図書館だ。「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」は、楽しみの読書を提供する場としてだけではない、子どもたちの学びと成長に寄り添う学校図書館のあり方を具体的に提案している。閉じられた学校図書館の扉を開く、魔法のサイトなのだ。
先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース
校種、教科・領域、学年から、学校図書館を活用した授業実践を検索することができる。日常運営の様子も連載。
東京学芸大学 学校図書館運営専門委員会
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1 総務部 附属学校課内
E-mail:schoolib@u-gakugei.ac.jp
Photo: 東京学芸大学附属小金井小学校
次回は、気仙沼図書館(宮城県)を紹介します。
目次
【第1回】 プロの図書館員が認める図書館 ――伊万里市民図書館(佐賀県)
【第2回】 「子どもの声は未来の声」 ――岐阜市立中央図書館(ぎふメディアコスモス)
【第3回】 「住みたい」と言われる図書館 ――武蔵野プレイス(東京都)
【第4回】 閉じた学校図書館の扉を開く魔法のサイト ――「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」
【第5回】 気仙沼の未来を担う 子どもたちが育つ図書館 ――気仙沼図書館(宮城県)
【第6回】 カモシカも訪れる!? 日本一小さな村の図書館 ――舟橋村立図書館(富山県)
【第7回】 本と人とをつなぐ「ブックカフェ号」 ――指宿市立図書館(鹿児島県)
【第8回】 子どもたちに、本だけでなく遊具も貸し出す理由 ――県立長野図書館
【第9回】 重要文化財が図書館に! ――甘草屋敷子ども図書館(山梨県)
【第10回】 「学校を休んで図書館へいらっしゃい」 子どもたちに寄り添い続ける 鎌倉市図書館(神奈川県)
【第11回】 学校の真ん中にライブラリー ――軽井沢風越学園(長野県)で新たな学びが生まれる
【第12回】 クジラが空を飛ぶ図書館 ―― アキシマエンシス(東京都)
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