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図書館へ行こう!

猪谷 千香

文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね,その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者,文化部記者などを経た後,ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に,『つながる図書館』(ちくま新書),『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第7回 本と人とをつなぐ「ブックカフェ号」
――指宿市立図書館(鹿児島県)

2019.03.08

子どもたちに本を届けたい。そんな思いから,走り出した移動図書館車がある。鹿児島県指宿市のNPO法人「本と人とをつなぐ『そらまめの会』」の「ブックカフェ号 そらまMEN」だ。

画像,指宿市立図書館

ころんとしたかわいいフォルム。ボディは,空と海の青色,菜の花の黄色,ハイビスカスの赤色という南国の指宿らしいカラーリング。デザインは,指宿の子どもたちが考えたものをもとにしているという。両サイドの本棚にはたくさんの本が並び,背面を開くと,コーヒーも提供されるカウンターがしつらえてある。テーブルとイスを出せば,あっという間にそこは「本のある空間」となるから不思議だ。

画像,指宿市立図書館

指宿図書館から20分ほど離れた保育所へ。
「図書館へ行ったことある?」と聞くと,
9割の子どもたちからは「行ったことない」との回答。

今や市内はもちろん,県外に足を伸ばしても,たちまち人が集まってくるブックカフェ号だが,当初は苦労の連続だった。

話は,2006年までさかのぼる。指宿市議会は,市立図書館である指宿図書館と山川図書館に指定管理者制度を導入することを決めた。その時に,指定管理者として名乗りを上げたのが,「そらまめの会」だ。

「そらまめの会」は最初からあったわけではない。指定管理者制度導入が決まった時,指宿図書館でボランティアをしていた女性たちは考えた。「このままでは,私たちの図書館をまったく知らない人たちに任せることになってしまう」。だったら,自分たちで運営しようと腹をくくった。ゼロからNPOを立ち上げ,「そらまめの会」として指定管理者となり,新たな図書館づくりが始まった。

しかし,メンバーは保育士や学校司書。誰にも公立図書館を運営した経験はない。当初はわからないことだらけで,賃借対照表も読めなかった。そこで,「そらまめの会」の奮闘を見守っていた地域の人たちが,何度も手を差し伸べてくれることになった。会計事務所の所長は1年間,無償でサポートをしてくれた。「そらまめの会」もその期待に応え,年間利用者は以前よりも1万人も増えた。

図書館の運営が軌道に乗って10年,「そらまめの会」が次にチャレンジしたのが,移動図書館車の復活だった。指定管理者制度導入直前,指宿市では移動図書館車を廃止していた。「移動図書館車が来なくなったら,子どもたちが本当に本を読まなくなってしまった」という声が市民から上がり,「そらまめの会」にとってはそれが気がかりだった。

もう一度,移動図書館車を走らせたい。でも,予算はない。そこで2017年4月から,インターネットで広く支援を募るクラウドファンディングで,寄付を呼びかけることにした。最初の目標額は750万円。その時,助けてくれたのもやはり,地域の人たちだった。開始2か月で目標額を達成すると,さらに目標金額をアップし,最終的に,図書館関連のクラウドファンディングとしては史上最高額の1177万5000円が集まった。自分で育てた野菜を売った小学生の男の子や,真夏の炎天下に野外イベントでさつま揚げを販売した企業が,その売り上げを寄付してくれたこともあった。

画像,指宿市立図書館

2018年4月,ブックカフェ号のお披露目会に集まった子どもたち。熱心に本を読む。

画像,指宿市立図書館

指宿図書館から約20分のところにある「こども学園」の子どもたちとブックカフェ号。みんなで声を上げながら読書を楽しむ。

「本と人をつなぎ,人と人とのつながりが生まれるような場にしたい」と語る「そらまめの会」理事長の下吹越(しもひごし)かおるさん。そうして走り始めたブックカフェ号は,市内の子どもたちだけでなく,大人にも本を届けている。そして昨年秋,ついに「旅する図書館」として県外へ飛び出した。九州北部豪雨や熊本地震,大阪府北部地震の被災地など道中10か所をめぐり,横浜市まで到達。各地で人気を集めた。

図書館の取材をしていると,よく聞かれるのは,「良い図書館を教えてください」という質問だ。答えるのはとても難しい。全国に3200館以上ある図書館の多くは,市町村立図書館であり,図書館に対する自治体の姿勢や市民の利用方法は地域によって違っている。歌ではないが,ナンバーワンではなく,オンリーワンなのだ。それぞれ違うし,それぞれの良さがある。

ただ,確実に言えるのは,「子どもたちを大事にする図書館」は大抵,その地域にとって「良い図書館」であるということだ。子どもを大事にしない社会に未来はない。しかし,指宿市立図書館にもブックカフェ号にも,指宿の子どもたちの姿が絶えない。その顔を見れば,「そらまめの会」や指宿の人たちが,どれだけ子どもを大事にしているのか,すぐにわかるのだ。

指宿市立図書館

指宿図書館 / 鹿児島県指宿市十二町2190
山川図書館 / 鹿児島県指宿市山川成川2685
【開館時間】9:00~19:00(土・日・祝日は17:00まで)
【休館日】毎週月曜日・毎月第4水曜日(いずれも祝日の場合は開館,翌日を休館),年末年始,特別整理期間

Photo: 指宿市立図書館

次回は,県立長野図書館の紹介です。